システムインテグレータ(SIer)は、依頼される仕事の量に波がある。プロジェクトが多く、納期に追われる時期は徹夜続きで、メンバーが疲れ切ってうつになる危険が高まる一方、受注が枯渇している時期は人員が余り、いかにモチベーションを維持するかが課題になる。約100人の従業員を抱えるアイエムで技術と営業のトップを兼務する小内良弘さんは、「とにかく明るさを保って、社内の雰囲気が暗くならないように努める」ことで、厳しい時期を乗り越えている。現在は開発案件が潤沢。この勢いを生かして、小内さんはマネージャーとして会社を成長させる。(構成/ゼンフ ミシャ 写真/長谷川博一)
小内 良弘(こうち よしひろ)
大学を卒業して、1987年、アイエムに入社。システムエンジニアを務めながら、プロジェクトリーダーとして営業の役割も担い、およそ25年にわたって「技術」と「営業」の両方を担当。2014年4月から現職。約80人の部下を束ねる。
独自の交渉力で利益を向上
●ワンマンで案件を束ねる 最近は、とくに官公庁系の案件が増えている。年金制度の見直しなどによって、システムの再構築が必要になり、SIの需要が旺盛になっていることが追い風になっている。リーマン・ショックの後、仕事が急に減ったとき、私は現場に下りて、部下に「ここにいようね」と粘り強く語り続けた。この活動が実を結び、幸いなことに営業担当者やエンジニアの流出はなく、現在増加中の開発案件に対応することができている。
それでも、人員には限界がある。実際の開発作業は、協力会社に委託することが多い。この状況を、現在の好調な業績を生かして社員を増やし、会社をひと回り大きくして、将来、自社だけで仕事の依頼に対応できるような体制にしたい。
私は開発担当として入社したが、最初から営業にも関わり、長年、違和感なく両方の仕事をこなしてきた。自分が「営業寄りの技術者」だとか、「技術に強い営業担当」だとかという感覚はない。競争が厳しく、利益の捻出が喫緊の課題である今の時代は、品質と開発コストのバランスを取ることが大事。私は営業と技術の視点を融合している自分ならではの交渉力を生かして、お客様との商談を詰め、利益率の向上に努めている。こうしてワンマンで案件を束ね、迅速に動くことができるのが中小SIerの強みで、当社が案件を獲得できている理由だと確信している。
●明るさを武器にトラブルを克服 私は明るい性格で、周囲の人を巻き込んで、集団を暗い雰囲気にならないようにすることが得意だ。朝一番、グループリーダーたちに元気よく声をかけ、一人ひとりの表情をみる。先日、ある航空会社向けの案件が思い通りに進まず、担当グループが毎晩のようにお客様に呼び出され、深夜まで対応に追われたことがあった。リーダーの顔には、疲れがみえた。ぼろぼろになった人も、心を強くすれば、また磨き上げることができると思っている私は、トラブル対応に加わって部下を動かした。お客様の立場を明確に意識しながら、システムの仕様を見直すことで問題の解決にこぎ着け、それによって、凹んでいた部下たちの元気を取り戻すことができた。
こうしたトラブルを乗り越え、案件を無事に終えることができたとき、最も充実感を覚える。そして、案件に関わった部下を集め、本社のある東京・池袋周辺でお疲れ様会を開くのが、何よりの楽しみだ。みんなの顔を見ることができてうれしいし、部下に「ありがとうございました」と感謝の言葉をかけられたときに、頑張った甲斐があったことを実感する。これからウェブ系システムのリプレースの時期を迎えて、新たな開発ニーズが出てくる。部下を明るくリードし、案件を獲得したい。
私の営業方針を表す漢字は……「信」
企業では、人と人の信頼関係がビジネス展開の基盤になる。金融や流通、官公庁などのお客様向けにシステムを開発する当社は、人員が限られていることもあって、開発作業をアウトソーシングすることが多い。だから、私は自社の約80人の部下に加えて、アウトソーシング先の企業の社員など、営業・技術を合わせて150人以上を統括しなければならない。信頼関係を築くために重要なのは、トラブルが発生したときに逃げないこと。案件の現場を担当するキーマンを見極めて、トラブルの解決に導いている。