喜多剛志さんは、インターネットイニシアティブ(IIJ)の古株で、大きい案件を獲得する手腕が高く評価されている。IIJの主力商材であるクラウドのエバンジェリスト活動を経て、今年、営業部隊に復帰した。製造業などのお客様にシステム構築を提案するチームのリーダーとして、7人の部下の行動を統括する。得意技は、トラブルが発生した際のしっかりしたクレーム対応だ。豊富な営業経験や社内の人脈を生かして、迅速な問題解決を目指す。喜多さんに、クレーム対応の三つのポイントを実例で教えてもらった。(構成/ゼンフ ミシャ 写真/長谷川博一)
喜多 剛志(きた たけし)
大学で農業を学んだ後、1999年に当時ベンチャー企業だったインターネットイニシアティブ(IIJ)に入社し、営業を担当する。2010~13年はマーケティングに携わり、エバンジェリストとして、クラウドを中心にしたソリューションを訴求。14年に現職に就き、7人の部下を統括する。
しっかりしたクレーム対応でお客様との絆をより密に
●ポイント 1
とにかくアポを取ってお客様のそばにいる 部下がまっ青な顔で、たった今、重要なお客様からクレームが入ったことを報告してきた。当社が構築した基幹システムに不具合が発生し、お客様のお客様のビジネスまでに影響が及んでいて、数億円にも及ぶ被害につながりかねない、というのだ。私はすぐにその日のすべての予定をキャンセルした。たくさんの会議に参加しているが、クレーム対応を最優先することにしたのだ。少し怖いけれど、ほかに道がないという気持ちで、お客様に電話をかけた。当然、先方は激怒している。それでも「今日中に会っていただけないでしょうか」とお願いした。
アポを取って、お客様の下に駆けつけるタイムリミットは、原則はその日のうち、遅くとも翌日の朝までだ。お客様のそばにいて、いっしょに原因を究明することが、営業担当として必須の対応だ。
私は部下を連れて、午後7時頃にお客様の会社に到着した。部下はずいぶん怯えていたが、幸いなことにそれは杞憂だった。ずっと怒っていても前に進まないと考えていただいたらしく、私たちが着いたときは、お客様の怒りはだいぶ収まっていた。私は、部下も積極的に会話に参加させながら、お客様とともに現状を整理し、解決の方法を探し始めた。
●ポイント 2
誰の出番なのか役割分担を明確にする システムトラブルの原因は、技術的なものが多い。だから営業スタッフは、エンジニア任せの逃げ腰になりがちだ。私はトラブル発生時こそが、営業の出番だと考えている。しかし、営業だけでは具体的な解決策を講じることができないので、社内の技術スペシャリストや経営陣と協力することが大切だ。
原因究明の次のステップとして、システムの回復に向けて、「ここはA君のミッション」「こちらは役員のBさんを動かす」という具合に、現場と上層部の役割分担を明確にして、全社を挙げて対応に取り組んだ。現場は連日ほとんど寝ることなく取り組み、営業もお客様との調整に集中し、ようやくシステムを回復させることができた。最後に、お客様からは「対応がしっかりしていたので、これからもシステムのことを頼む」といううれしい言葉をいただき、時間をかけてこちらの本気度合いをみせたことで、トラブル発生前よりも関係が密になったことを実感した。
●ポイント 3
お客様に対して営業の総合力をみせる システムの不具合がお客様のビジネスに大きな影響を与えるということは、すなわち、ITが事業や経営に直結するツールであることを意味する。お客様が、トラブルの経験をきっかけとして、真剣にITの活用に取り組むことも考えられる。トラブル対応の現場で発揮した営業の総合力。これからも部下たちを「こんな課題があるが、解決してほしい」と、どんどん声をかけていただけるITのジェネラリストに育てて、提案現場で活躍させたいと改めて思った。
私の営業方針を表す漢字は……「信」
ミッションクリティカルなシステムを提供する当社にとって、お客様と信頼関係を築くことは何より大切だ。システムは、構築や運用、利用などにあらゆる人が関わるので、どうしてもトラブルが発生しがち。営業マネージャーの私にとっては、クレーム対応こそが腕のみせどころになる。もちろんトラブルは極力避けたいと願っているが、本気の度合いをしっかりみせて対応すれば、お客様との信頼関係をさらに深めるよいチャンスにもなる。ピンチはチャンスととらえて、前向きに生かしたい。