「わざわざメーカーさんがこんな遠い所まで来てくれて、びっくりした」。外資系のITメーカーは地方市場の開拓を掲げながらも、現地に行って商談を詰めるという泥臭い活動は、販売会社に任せることが多い。そんな状況にあって、セキュリティ製品を提供するチェック・ポイント・ソフトウェア・テクノロジーズ(チェック・ポイント)の真田賢太さんは自らが全国各地に足を運んで、夜の酒席を含め、地場のキーパーソンの心をつかむ活動に力を注ぎ、業績を急速に伸ばしている。部下にも、週20件の営業訪問を求めるなど、積極的な行動を促す。(構成/ゼンフ ミシャ 写真/長谷川博一)
真田 賢太(さなだ けんた)
ウォッチガード・テクノロジー・ジャパンやマカフィーなど、数社の外資系セキュリティメーカーで営業に携わり、2013年7月、チェック・ポイント・ソフトウェア・テクノロジーズに入社。MSP(マネージド・サービス・プロバイダ)営業部のディレクターとして、中堅・中小企業に強いパートナーとの関係づくりを統括。4人の部下を抱えている。
現地キーパーソンとの絆を強くしてSMB事業の400%成長を実現
私は、数社のセキュリティメーカーでSMB(中堅・中小企業)開拓の腕を磨き、昨年7月、チェック・ポイントに入社した。すぐれた製品を揃えていながらも、チェック・ポイントはSMB向け事業の伸びが鈍かったので、私の力を発揮できるのではないかと感じたのが入社の動機だ。まず取り組んだのは、イスラエル本社に日本市場のニーズを伝え、自由に営業活動ができるよう、バックアップしてもらうことだった。イスラエルに飛び、本社の各部門の責任者に対して、パートナーとの関係づくりが事業拡大のカギを握ることを説いたり、「日本はこうだ」という市場の特性をていねいに説明した。こうして、現地に行って人と直接話すことは、時間がかかるし、疲れるけれども、相手の心をつかむための近道だと確信している。
地方開拓のポイントと捉えているのは、現地の販社やユーザー企業を何度も訪問し、粘り強く存在感を示すことによって、案件に火をともすということだ。最近は、青森や沖縄などに出張して商談を進めていて、部下に対しても私と同じような活動を行うよう、指示している。とくに、外資系メーカーは“スマート”な営業を意識し、あまり現地に行かない傾向がある。だから私は、お客様に「わざわざ来てくれてありがとう」と感謝されることが多い。当社はセキュリティメーカーとしてまだ認知度が高くないので、こうして存在感をアピールできていることは、大きな強みだと捉えている。
地方の方々は、首都圏でのビジネスでは薄くなっている「人情」を大切にしている。私は昼間の商談で、その企業の決裁権をもつキーパーソンと接触するように心がけて、夜の酒席に誘う。そして、お酒を酌み交わしながらいろいろ話をして、ビジネス関係の構築につなげるようにしている。先方の社長さんと仲よくなって絆ができれば、受注までの期間が短くなるし、万が一、トラブルが発生した際も対応しやすい環境が整う。だから、私は接待用の予算をフルに活用し、営業ツールとして「夜の酒席」に力を入れている。ちなみに、お酒にはかなり強い。これも私の特技の一つだと自負している。
当社は外資系企業ということもあって、「人」だけではなく「数字」もきちんとみる必要がある。部下たちには、週20件の訪問件数をこなすように促しており、足で稼ぐ営業スタイルを徹底している。そのおかげでSMB向け事業はこのところ、400%の成長率を記録し、グローバルのSMB部門で日本が1位になっている。成長の根底にあるのは当社の技術力だが、営業担当者がどんどん外に出て、技術の活用にドライブをかけているからこそ、売り上げが伸びていると思う。本社からは今のところ、「接待に予算を使いすぎ」といった注意をされていないので、私の“日本ならではの”やり方をサポートしてくれていると実感している。
夜、お客様と食べたり飲んだりすることが多いので、最近、健康を意識するようにしている。趣味はテニスだ。コートで汗を流し、体力の限界まで頑張ることが、営業活動と共通すると感じている。
私の営業方針を表す漢字は……「応」
営業の仕事は、製品の特徴や活用方法を一方的に伝えることよりも、お客様のニーズに「応じる」ことがポイントだと考えている。あるメーカーから、当社の技術を採用してホワイトボックスとしてOEM提供したいという要望を受けた。前例のない取り組みなので、本社の承諾が必要だ。お客様が急いでいるので、私はスピードを上げて本社との交渉を進め、2か月という短期間でOEM提供の実現にこぎ着けた。こうして、販社だけではなく、メーカーとも手を組んで、ビジネスの幅を広げたいと考えている。