街を彩り始めたクリスマスの装飾が、年の瀬が迫っていることを感じさせる。気が早いと思いながらも「今年のIT業界のNo.1ニュースは？」と取材の折にたずねている。

　「ヒューレット・パッカード（HP）の分社化」。日本マイクロソフトの樋口泰行社長が、10月下旬のインタビューで挙げたのはこのトピックだった。樋口氏以外にもこの話題を選ぶ人は多い。今回のパソコン・プリンタ事業の分社・独立化は「売却のためのプロローグ」という憶測が飛び交っており、そんな噂も含んで多くの人はこのニュースを選んでいるのかもしれない。

　スマートフォンやタブレット端末の浸透と、ウェアラブルコンピュータの登場で、話題性でいえばデバイスの主役でなくなったパソコン。だが、Windows XPのサポート終了で、個人と法人の両市場で特需が生まれたように、一定量のビジネスボリュームがあるのもパソコンだ。無視できない存在である。それだけに、2014年のNo.1ニュースと位置づけていいかもしれない。

　噂通りに、HPがこの新会社を他のパソコンメーカーに売ることになれば、世界のパソコン市場でシェア2位（2013年、IDC調べ）のメーカーが姿を消すことになる。それは、ボリューム（販売台数）が多くても利益を捻出することは困難、「規模の論理」が通用しないことを意味する。

　IT業界に衝撃が走ったIBMのパソコン事業売却。シェアこそNo.1でなかったものの、圧倒的なブランド力を誇った「ThinkPad」の事業をIBMが売却したことのインパクトは大きかった。あれから、来年で10年が経つ。この間、NECとレノボが協業関係を結び、ソニーはパソコン事業を切り離した。デルは株式を非公開化し、そして、2013年に米国以外のメーカーが初めて世界シェアでトップを握った。IBMの選択を起点に、パソコンメーカーの再編が進んだ。2014年最大のトピックであろうHPの決断が、パソコン業界の再編に拍車をかけるのだろうか。

　デルでエンタープライズ事業のトップを務めるマリウス・ハースCCO（チーフ・コマーシャル・オフィサー）は、HPの分社化について厳しい表情でこう語った。「ライバルも成長するために知恵を絞っている。HP（の新会社）は経営のスピードがきっと上がる。私たちはそれに追随しなければならない。いずれにしても、HPが決断したということは、ビジネスを取り巻く環境がこれまで以上に変化している証だ」。