このコラムではこれまで、主に電子書籍について書いてきたが、今回で最終回となる。

　電子書籍をテーマにしたのは、コンピュータ関連事業を手がける関係者が『週刊BCN』の主要読者であり、編集部の要請でもあったからだ。2005年あたりから電子書籍事業が本格化し、2010年には「電子元年」といわれた。出版社以外の大手企業がこぞって参入し、マスコミはそれに合わせて大々的に報じた。それらの記事はまるで、出版のビジネスモデルを一新する革命のようなものだったが、実際はどうだったのだろう。

　デジタル出版は売り上げが低迷する出版界で、いや、低迷しているからこそ重要課題であり、経産省などの後押しもあって、市場は1000億円を超えるほどに成長した。しかし、コンテンツを配信する出版社、卸・流通会社、電子ストアなどは、いまだ利益が取れている企業が少なく、軌道に乗っているとは言い難い。出版社は、紙版の本の増売や海外市場を見据えて、“投資”し続けているというのが実情である。

　こうした流れは、読者たちの消費スタイルが変わった時期と重なってもいた。アマゾンなどのネット書店をはじめ、ブックオフを筆頭にチェーン展開を進めてきた新古書店、売れ筋商品を複数冊購入するようになった図書館など、実にさまざまな拠点で、安くまたは無料で本を手にすることがあたりまえになった時期だった。経済不況が長引き、所得が減った読者たちは安く入手できる中古本をネット書店で探し、無料で借りられる図書館に通う。電子書籍も無料の「青空文庫」が依然人気なのは周知の通りだ。アマゾンにおいても、コミックスを中心に無料キャンペーンを実施して、その後の需要拡大を見込んでいる。

　「無料」「安売り」、そして「読者ニーズ」──全国一律に定価販売ができる出版界と相容れないビジネスモデルの狭間で出版社は揺れた。そんな10年だった。

　読者には今、さまざまな選択肢が用意されている。インターネットだけで事足りる情報もある。それで一番大きな影響を受けたのはアダルト本だったのかもしれない。

　電子書籍は読者がもつ選択肢の一つでしかない。それが成長し続けるのかどうかは読者が決めることである。

　ご愛読くださり、ありがとうございました。