利用した分の料金を支払うサブスクリプション方式のサービスが、さまざまな分野で増加傾向にある。特にIT業界は、クラウドサービスの普及という後押しもあって、それが顕著だ。導入時の初期費用を抑えられるため、ユーザー企業にとってのメリットは大きい。一方、ITベンダーにとっては、導入時の売り上げが減ることから、メリットを理解できるとはいえ普及までには時間がかかった。こうした中で、1988年の創業当時から「所有から保有へ」に取り組んできたのが、BBFである。(取材・文/畔上文昭)
創業時から月額課金を模索
河村興三
代表取締役
通信衛星などで使う通信機の設計を手掛けていた河村興三代表取締役は、結婚を機に大分へとUターンした。当初は家族が経営するブティックを手伝っていたが、普及し始めていたPCに大きな可能性を見出した。
「当時の大分市内は、オフコンの導入が100社に1社あるかどうかのレベル。中小企業では、コンピューターを利用するという状況ではなかった」と河村代表取締役は振り返る。
比較的安価なPCであれば、中小企業でも導入できるのではないかと考え、別府信用金庫(現在の大分みらい信用金庫)の知人に相談した。提案したのは、財務管理や労務管理のシステムをPCで提供するというもの。新規ビジネスを模索していた別府信用金庫は興味を示すも、本業と乖離しているとのことで、信金の支援を受けて別会社の設立へと動いた。それが「べっしんビジネスフォーラム」で、現在のBBFである。
会社を任された河村代表取締役は、当初から、月額課金のサービスとして、PCを活用した業務システムの提案に注力する。ところが、「構想ばかりが先走って、なかなかうまくいかなかった」。苦慮する中で紹介されたのが、大分市に本社を置く自動車の中古部品販売の全国組織、NGPグループだった。
ISDNでネットワーク化
自動車の中古部品販売会社は、解体で得た部品を修理に使用したり、他の中古部品販売会社に販売する。ネットワーク化以前は、修理に必要な部品を発注するに当たり、FAXを関連企業に一斉に送るなど、コストと手間がかかっていた。
相談を受けた河村代表取締役は、NTTがサービスを開始したばかりのISDNを活用した在庫管理システムを提案する。それも月額課金のサービスとして提供することで、より多くの中古部品販売会社が参加できるように設計した。
システムが稼働すると、FAX送信が不要になり、業務が効率化し、通信費用も半分ほどになったという。評判が広がったことで、入会希望者が後を絶たない状況になった。「会員各社の売り上げが大きく伸びた。業界の発展に貢献できたことは、素直にうれしい」と河村代表取締役。同システムは、約30年たった現在でもBBFの売り上げを支えている。
完全に自由という会社方針
BBFの社員数は現在14名。創業以来、約30年で3人しか辞めていない。「辞めたのは、高齢化が理由。なかなか辞めない(笑)。だから、社員はベテランばかり。最先端のテクノロジーにはついていけないので、ローテクで顧客に役立つものを提供している」と、河村代表取締役は説明する。
BBFは、社員の意思を尊重し、会社規則や定年を設けていない。唯一のルールは「顧客に迷惑をかけない」であり、勤務時間や休暇の取得も自由としている。全国から開発案件を請け負っているが、顧客への派遣はなく、自社オフィスでの仕事という点も社員が定着する要因となっている。
課題は地元企業への貢献。河村代表取締役は、「もっと地元企業の案件を獲得したいと考えているが、なかなか仕事に結びつかない。ITで実現することよりも、コストを優先しがちで難しい」と語る。同社では営業担当者がいないこともあり、地元企業の案件は依頼ベースで引き受けている。
今後の展開について、河村代表取締役は中古部品販売業界向けで得たノウハウを活用し、新たなビジネスを展開することを考えている。「30年前、どこもやっていなかったことに取り組み、先行者利益を得た。現時点で取り組んでいなくても、やったら役に立つことは必ずある。大事なのは、顧客の業界にとって役立つかどうか。利益はその後についてくる」。オフィスから別府湾が一望できる。そしてその先には、大海が広がっている。