長野県松本市に本社を置くキッセイコムテックは、製薬会社から独立したSIerとして、地元企業向けのシステム開発から独自ソフトウェアの開発・提供、ITリソースサービスまで幅広い事業を展開している。睡眠解析や健診施設向けのサービスなど、医療系を中心に大手にはない特徴的なソリューションでビジネスを伸ばしている。また、地元企業のDX支援を通じて地域活性化に寄与し、さらなる成長を目指していく。
(取材・文/堀 茜)
幅広い領域でITビジネスを展開
――事業内容の紹介を。
民間企業向けのSI事業、公共と医療向けのソリューション事業、データセンター(DC)やIT機器のレンタルといったリソース事業の三つが事業の柱になる。民間のシステム開発では製造業のお客様が多く、生産管理システムや会計ERPを、他社製品のパートナーとして導入するケースと自社製品の販売の両方を行っている。公共では、自治体へ端末やネットワークの導入を支援しているほか、学校にはGIGA端末といったハード面に加え、校務支援システムは長野県内ほぼ全ての公立学校を当社が担当している。医療系はソフトウェアの自社開発に注力している。リソースサービスは、国際会議や大規模なイベントで、短期間会場にネットワークを構築し、PCやスマホなど必要な機器をレンタルで提供する事業が好調で、全国で展開している。
――ビジネスの近況は。
売り上げは長野県内と県外でほぼ半々。三つの事業はほぼ同じ割合でバランス良く伸びている。SI事業は本社と東京事業所の2拠点で展開しているが、顧客のシステムへの投資意欲は県内も県外も旺盛で、SI事業の業績は順調だ。顧客のDXに対する意欲も高く、その要望に応えるべくサービスを提供している。
睡眠解析や健診施設向け製品が好調
――製薬会社の電算部門から独立した会社だが、医療系で特徴的な製品は。
睡眠解析システムの「SleepSign(スリープサイン)」は、専用の機器を身に付けて睡眠の深さや質を計測し、その結果を分析することで改善につなげる製品になる。研究者や睡眠の治療を行う医師に使っていただいているほか、寝具メーカーの製品に組み込んでもらうような例もあり、広がりが出ている。今後は、個人が睡眠データをクラウドに上げて活用してもらうような方向性でさらに展開したいと考えている。
城取 学
代表取締役社長兼最高執行責任者(COO)
もう一つ注力しているのが、健診施設向けのソリューション。医療現場の検査画像を保存管理するPACS(Picture Archiving and Communication System)の領域で、健診施設向けに特化した製品「PAXiS-Screening(パクシススクリーニング)」を開発、販売している。また、健診を受ける人向けのWeb問診クラウドサービス「RAKUNiS(ラクニス)」の提供も4月から開始した。現場スタッフの業務効率化や負担軽減につながるソリューションとして拡販したい。
――開発に力を入れる分野の基準は何かあるか。
医療機関向けのシステムは、大手を含めて競合が乱立する中で勝負をしないといけないが、健診施設向けに特化したソリューションはあまりない。大量のレントゲン写真を医師が読影し判断していくなど、健診機関独自の業務が便利に行える機能を強化し、差別化を図っている。ほかにはないソリューションで特色を出していきたい。
役割は地元のDX支援
――人材確保にはどう取り組んでいるか。
採用は何とかできてはいるが、求めている人数に若干届かない年が続いており厳しい。会社に対する理解を深めてもらう取り組みとして、学生を対象としたインターンシップは、事業別に実施している。当社は幅広い事業を展開しており、例えばDC運用とシステム開発では業務内容が大きく異なる。入社してからイメージと違ったということがないよう、具体的な仕事の体験に力を入れており、興味を持ってもらうという意味で手応えを感じている。
――自社の役割をどう考えているか。
長野県内のお客様に支えていただいている会社として、地元企業の支援は重要な役割になる。DXは、顧客によってどこから手を付けるかという点で濃淡があるが、システム化できていないものをまずはシステム化したいというニーズは高い。さらにその先のデータ活用まで進めたいという案件も多くあり、社内でデータサイエンティストを育成し、データ解析チームがお客様と一緒にデータ活用を進めるプロジェクトも複数動いている。
――データ活用のニーズはどういった用途があるか。
製造業では製造ラインの画像解析や在庫適正化といった要望がある。その先にAIの活用というニーズも出てくるとみている。生成AIについては、まだまだこれからという段階だが、興味を持たれているお客様は多い。
――今後の経営方針は。
付加価値や競争力を高めるには、性能とコストの両面で競合と戦える独自の製品やサービスを生み出す必要がある。そのためには社員の専門性強化が重要だ。進歩するテクノロジーをキャッチアップし、いち早く開発に反映させる体制にしたい。顧客のニーズを一番把握できるのは営業であるため、顧客の業務を適切にコンサルティングできる人材の育成にも注力する。
Company Information
1985年設立。キッセイ薬品工業の電算部門から分離独立した独立系SIer。長野県松本市に本社を構え、県内外でシステム開発、医療系ソフトウェアなどの販売を手掛ける。2024年3月期の売上高は105億円。従業員数は379人(24年6月1日現在)。