国内のIT市場でビジネスを成長させるには、ユーザー企業に向けた製品やサービスの販売、導入支援などを担うパートナーの存在が不可欠だ。本連載では、各ITベンダーの最新のパートナー戦略に迫る。第1回は、大手セキュリティーベンダーのトレンドマイクロの取り組みを紹介する。近年同社は、サイバー攻撃の発生を未然に防ぐために、脅威を早期に特定、予測し防御するセキュリティーアプローチ「プロアクティブセキュリティ」を推進、その実現に向けたプラットフォーム製品の拡販に向けてパートナー戦略を強化している。（岩田晃久）
 

「Trend Vision One」を拡販へ

　同社は、ディストリビューターが対象となる「流通パートナー」、製品販売を担う「リセラーパートナー」、運用までを担う「MSPパートナー」、クラウド環境に特化した「CSPパートナー」、「Amazon Web Services」などの大手クラウド事業者のマーケットプレイスでソリューションを提供する「Marketplace Partner」で販売チャネルを構築する。ウイルス対策ソフトを中心に高いシェアを持つ製品を展開しているため、販売パートナーは大手から中小まで幅広くおり、全国をカバーする販路を有している。
　
　近年同社は、プロアクティブセキュリティを推進しており、それを実現するため製品として「Trend Vision One」を注力商材に掲げる。同社ではTrend Vision Oneを「Agentic AI サイバーセキュリティプラットフォーム」と呼んでいる。エンドポイントセキュリティーやメールセキュリティー、クラウドセキュリティーなどの機能を搭載しており、統合管理が可能となる。　

　さまざまな機能の中で同社が訴求を強化しているのが、組織の内部・外部・クラウド上の資産の可視化し、アタックサーフェスや脆弱性を見つけ、リスク評価や対応の優先付けをする「Cyber Risk Exposure Management（CREM）」だ。クラウドやAI利用の加速により、アタックサーフェスが拡大している中では、リスクを適切に管理して戦略的に対策を実装していくのが重要だとする。
 

パートナープログラムを充実

　Trend Vision OneとCREMを幅広い企業に導入するために、パートナー戦略を強化しており、その一つとして、パートナープログラムを充実させた。トレーニングメニューの一つである「Trend Campus」において、8月にCREMコースを新たに開始したほか、Trend Vision Oneのデモが行える「V1デモ環境」を用意。また、マーケティング支援の一環として提供する「Cyber Risk Assessment」は、用意されたサイトを通じてパートナーが顧客のエンドポイントなど一部の環境のセキュリティー評価や脆弱性診断を実施できる。サイトにはパートナーの企業ロゴを表示できるため、パートナーのサービスとして顧客に提案が可能だ

　そのほか、新規案件登録をすることで高いベネフィットが得られるなど、パートナーが販売しやすい施策を実施している。これらは全てパートナーポータルサイトから登録、利用できる。パートナービジネス本部の轡田拓也・バイスプレジデントは「これまでエンドポイントセキュリティー製品を販売されてきたパートナーが、プロアクティブセキュリティにシフトしていけるように支援していく」と力を込める。

 
　Trend Vision Oneの拡販の施策としてMSPやMSSP（マネージドセキュリティーサービス事業者）向けに「Trend Vision One for xSP」を用意、複数のユーザーを管理できるようにしたことで、運用の効率化が図れるとする。シーイーシーや日本事務器がTrend Vision One for xSPを活用したサービスを提供しており、顧客獲得が進んでいるという。今後もMSPやMSSPにTrend Vision One for xSPの利用を促進していく。
 

エコシステムの構築に注力

　コンサルティングファームを新規パートナーとして協業強化を図っており、轡田バイスプレジデントは「サイバーリスクやAIに関する戦略を推進するお客様に対して、コンサルティングからその後のサービス実装までワンストップで提供できる」と述べる。また「これまで当社とお付き合いがなかったパートナーとの関係を築いていきたい」とし、新規のリセラーなどの開拓を進めるとする。

　パートナーエコシステムの構築にも注力している。ユーザーのセキュリティー課題が複雑化している中では、1社のパートナーだけでは対応できないケースもあるため、同社ではパートナーマッチング支援をしており、各パートナーが得意とする部分で協業できるようにするといった取り組みを行っている。

毎年、販売実績などに基づきトレンドマイクロ製品のビジネス拡大に貢献したパートナーを表彰している。特徴的なのは、企業だけでなくパートナーのエンジニア個人を対象とした表彰も行うことで、技術力やモチベーションの向上を支援している点だ。轡田バイスプレジデントは「こうした取り組みはパートナーから高く評価していただいている」と語る。

　8月には米Amazon Web Services（アマゾン・ウェブ・サービス）、米NVIDIA（エヌビディア）と協業し、AIを活用した脅威検知機能を提供するなど、アライアンスパートナーと連携したソリューション展開を推進する。