今号の「Key Personの愛用ツール」(本紙13面)にウイスキーが登場しているが、私もウイスキーを愛飲している。学生時代には単純に「安く酔える酒」として口にしていたが、働き始めてからはもう少し上等なものに触れ、香りと味わいの複雑さに魅了されていった。
モルトウイスキーを製造している蒸留所も何カ所か見学した。ウイスキーの製法はシンプルで、基本的には、麦汁を発酵させてつくったアルコールを蒸留し、樽の中で寝かせるだけだ。暗い貯蔵庫に足を踏み入れると、静寂の中で無数の樽が、まだ見ぬ飲み手との出会いを待っている。古い樽はこの場所で既に20年、30年の時間を過ごしている。仕込む時点では、飲まれる時代のトレンドや市場ニーズを正しく予測することはできない。そんなある種のギャンブル性も、ウイスキーが持つ魅力の一つかもしれない。
ウイスキーより短いものの、時間をかけて市場へ送り出される産品として、半導体もまた似た宿命を背負う。生産ラインを構築するには、資金調達から工場の建設、高価な製造装置の導入、プロセスの安定まで数年単位の時間を要する。半導体業界が周期的に好不況を繰り返す一因がここにあり、あえて極端な表現をすれば、この業界は常に不足か過剰のどちらかに振れ続ける。
電子情報技術産業協会(JEITA)が4月21日に発表した2025年度(25年4月~26年3月)のPC国内出荷実績は1091万台・1兆1684億円で、金額ベースでは過去最高となった。「Windows 10」のサポート終了やいわゆるGIGA端末の更新による特需に加え、出荷金額を押し上げた原因の一つが、25年度下半期から始まったメモリー価格の高騰だ。部材や製品の調達価格が上がれば、利幅の確保は厳しくなる。過去最高額といっても喜べない状況だ。
誰もが知りたいのは「この高止まりがいつまで続くのか」だが、樽の中のウイスキーの味と同様に価格はコントロールできるものではなく、私たちが知ることはできない。ただ、半導体メーカーとPCメーカーの間では半年単位などの契約でメモリーが供給されているため、今年後半に向け、あるタイミングで価格が大きく動く可能性もある。より大容量のメモリーを搭載するサーバーではインパクトはいっそう大きくなる。顧客に対しては丁寧な説明で、早めの投資を促していくしかない。
週刊BCN 編集長 日高 彰

日高 彰(ひだか あきら)
1979年生まれ。愛知県名古屋市出身。PC情報誌のWebサイトで編集者を務めた後、独立しフリーランス記者となり、IT、エレクトロニクス、通信などの領域で取材・執筆活動を行う。2015年にBCNへ入社し、「週刊BCN」記者、リテールメディア(現「BCN+R」)記者を務める。本紙副編集長を経て、25年1月から現職。