〈企業概要〉
イスラエルWix.com(ウィックス・ドットコム)は2006年に創業。ドラッグ&ドロップで編集できるホームページ作成ツール「Wix.com」を提供する。25年にイスラエルBase44(ベース・フォーティーフォー)を買収。日本法人であるWix.com Japanは19年設立。
Wix.com Japanが、バイブコーディングにより、バックエンドまで含めてアプリケーションを自動で生成するAI搭載アプリ開発プラットフォーム「Base44」の本格展開を開始した。グローバルではすでに200万人以上が利用。より実態に即したアプリの開発・改善には伴走するパートナーの存在が重要であるとして、パートナーエコシステムを拡大し、国内市場への浸透を目指す。
(取材・文/南雲亮平)
存在感増す「Base44」
Base44はプログラミング言語の記述ではなく、AIとの自然言語による対話でアプリケーションを自動生成できる、イスラエル発のノーコードAIアプリ開発プラットフォームだ。2026年3月に日本語版がリリースされ、徐々に存在感を増している。最大の特徴は「スピード」と「網羅性」だ。
日本法人代表 積田英明
スピードの面では、通常、Webサイトの立ち上げから決済機能の実装、実際のトランザクションに至るまで複数のサービスを組み合わせる必要があり相応の工数がかかるが、Base44は、こうした作業を約18分で完結させた実績がある。
網羅性の面では、フロントエンドの作成だけでなく、バックエンドの構築やデータベースの管理、外部サービスとのAPI連携も、全て自然言語の指示だけで実現できる点が強みだ。技術的な障壁があった人でも、自分のアイデアをすぐにかたちにできる。AIモデルはユーザー自身で選択可能なほか、プラットフォーム側が自動提案する機能も備える。
Base44で開発されるアプリの約半分は業務用途だ。CRMやタスク管理、EC管理、学習ツールなど、その利用分野は多岐にわたる。あるパートナー企業は、名刺スキャナーとBtoB向け顧客管理ツール「HubSpot」を連携させるハブ機能をBase44で構築した。従来は高額な月額費用が必要だった外部連携機能をOCR機能も含めて内製したことで、自社ソリューションの付加サービスとして提供できるようになった。さらに、技術者でない個人が海外荷物の配送状況を毎朝自動通知するシステムを10分足らずで構築した事例もある。エンターテインメント領域では、ゴルフやテニスのフォームをAIで分析し改善案を提示するアプリの開発も可能だ。
誰でも簡単に開発や修正ができる自由度の高さは、同時に管理上のリスクも伴う。これに対しては、エンタープライズレベルのセキュリティー対策を講じている。「SOC 2 Type II」や「ISO 27001」など国際規格に準拠し、金融機関や公共分野の厳しい要件にも対応する。
運用面では、ファイル単位での更新制限、詳細なアクセス権限管理、過去バージョンへのリカバリー、利用内容の可視化などの機能によって、不慮の事故を防ぐガバナンス体制を構築している。
国内展開を加速する基盤
英語圏に続いて日本が早期展開先として選ばれた理由について、国内でBase44事業を展開するWix.com Japanの積田英明・日本法人代表は「IT人材不足や中小企業のIT化が進みにくいといった日本特有の課題に対し、Base44の“誰でもアプリをつくれる”という特徴が有効な解決策になる」と説明する。
国内展開に向けた戦略は大きく三つある。一つは、フロントエンドから決済までをカバーするオールインワンの利便性と安全性を周知すること。二つめは、業種ごとの具体的なユースケースを整備・発信すること。ゼロから考案するのではなく、ある程度の型をもとにカスタマイズできるようテンプレートなども用意して理想像を描きやすい環境の整備を進める考えだ。
三つめは、日本独自の商慣習に合わせたパートナーエコシステムの構築だ。積田日本法人代表は「Base44の真価を引き出すためにはパートナーの存在が重要」との認識を示し、アプリ開発のハードルが下がったとしても、業務変革に伴う継続的な改善や複雑なシステム連携では、顧客の業務や事業を理解して伴走する専門家の知見が必要になると語る。今後はリセラーやSIerだけでなく、コンサルティングや特定業種に特化したパートナーとの関係も構築し、エコシステムの拡大を目指す。
国内戦略は単なるツールの提供にはとどまらない。十分に浸透していない「バイブコーディング」という概念の啓発も、市場拡大における重要な要素に位置付ける。AIに日常会話のように指示し、対話を通じてアプリやシステムを開発するこの手法を、中小企業などIT人材や時間に余裕がない層へ届けることを重視する。4月には、独自のAIエージェントを構築する機能も追加した。「ITやテクノロジーの存在意義は社会課題を解決すること」として、Wix.comで築いた国内550万ユーザーの基盤を生かし展開を加速する考えだ。