〈企業概要〉
米SiMa Technologies(シーマ・テクノロジーズ)は2018年設立。一般には「SiMa.ai」の呼称が浸透している半導体メーカーで、フィジカルAIソリューションをグローバルで展開。日本法人のシーマ・テクノロジー・ジャパンは24年設立。
エッジ向け半導体メーカーの米SiMa Technologies(シーマ・テクノロジーズ)は、自社開発した低消費電力・高性能の推論エンジンを武器に、ロボティクス、自動車、航空宇宙、医療など幅広い市場でフィジカルAIの実用化に取り組んでいる。日本法人であるシーマ・テクノロジー・ジャパンの林田裕・カントリーマネージャーは、今後の市場の伸びをにらみ、販売パートナーとの協力をさらに深め、ユーザー企業への訴求を強化する姿勢だ。
(取材・文/下澤 悠)
製品を広く展開し、実装を容易に
半導体の部品メーカーである同社が核とするのは第1世代の「MLSoC」と、第2世代の「Modalix」の2種類のチップ。2025年リリースのModalixは、画像認識のCNN(畳み込みニューラルネットワーク)やLLMなどを含めたあらゆるAIモデルをカバーできるという。基本的にはこのデバイスだけあれば、ネットワークカメラも直接つなげることができ、推論も可能だ。デバイス一つで全てのAI処理ができるような仕組みになっているという特徴を持つ。
林田 裕 カントリーマネージャー
AI時代が到来し、ユーザー側からのAI活用に対する関心は高まるが、「チップだけを用意しても、お客様の側ではどう実装していけばいいのか分からない部分も多い。AIの実装は必ずしも皆さんがゼロからシステムをつくるわけではない」(林田カントリーマネージャー)。そのため、実装を支援するプロダクトも広く展開する。
チップを搭載したPCIカードタイプの製品は、例えばコンビニやスーパーマーケットなどで、画像認識AIを活用して店舗内を分析したり、万引きを抑止するシステムを導入したりする際に有効だ。既に設置してあるデバイスに、この製品を接続すれば実装が可能になる。このほか、他社製のGPUリーダーと互換性のある名刺サイズのSoM「Modalix SOM」や、25年に発表した評価用キット「SiMa.ai Modalix DevKit」などを提供する。
さらに、LLMをデバイス上で簡単に実装できるソフトウェアのフレームワーク「LLiMa」やデバイスをプログラム開発するためのソフトウェア「Palette」など関連のソフトウェア製品も充実させている。
性能の高さに自信
林田カントリーマネージャーは、製品の強みは自社開発した低消費電力・高性能の推論エンジンにあるとする。例えば、CNNのモデルでは、16のカメラで集めた画像データを一つのデバイスで処理できる。1秒あたり30枚の画像処理が可能で、「世の中にあるフィジカルAIのデバイスで、画像16枚をこのスピードで処理できる製品は弊社以外にはないはずだ」と自信を見せる。
デバイスに実装可能な量子化されたモデルは、オープンソースAIプラットフォーム「Hugging Face」で公表している。それぞれのモデルのプロンプトに対する応答速度は、1ー2秒未満となっており、ユーザーにほとんど不満に思われることなくある程度の回答が返ってくる精度が出せるという。
フィジカルAIが適用できる領域は広く、街中のビデオカメラで得た情報を基に広告表示を変えたり、店舗で商品補充が必要かどうかを人が確認する手間を省いたりといった活用例がある。通信環境の悪い場所を走る自動車や、飲食店のサービスロボット、介護ロボットなど、自律的にAIで動く製品の市場は今後の伸びが予想され、プロダクトの展開に期待が持てる。
顧客の関心が高い用途の一つに、自動車のマニュアルを参照させるケースがある。LLMは個別のマニュアルを学習していないが、同社の製品はマニュアルを組み込んだRAGをデバイス内に構築でき、車内でさまざまな機能の使い方を尋ねて音声でやり取りできる。また自動運転の進化には車外映像の処理をさらに高度化する必要があり、ここでも市場のさらなる伸びが見込める。ほかには、映像を解析して自ら動く自律型のドローンも増えており、国内では災害時に現地の状況を把握するなどの活用が進む見通しだ。
パートナーシップを拡大
現在の主な販売パートナーは、新光商事やマクニカテクスターカンパニーなどが挙げられる。26年4月には、新たに富士ソフトとの戦略的パートナーシップを発表した。富士ソフトはSiMa.aiのModalixアーキテクチャーをベースとした概念実証(PoC)ソリューションの開発と、顧客によるフィジカルAIアプリケーションの評価・導入を支援する。富士ソフトが持つシステム統合に関する専門知識と顧客ネットワークを活用して、AIエンジニアリングのリソースを十分に持たない企業が、フィジカルAIを採用する際の複雑さを緩和できるよう支援するとしている。
国内でもグローバルと同じく多様な業種・業界にポテンシャルがあり、特にロボットや自動車向けに商機があると見込む。パートナーを通じてウェビナーや展示会の機会を重ね、自社製品の性能の高さと実現できるユースケースを伝える方針だ。