時の人

<インタビュー・時の人>キヤノン イメージコミュニケーション事業本部 カメラ事業部 事業部長 新堀謙一

2010/05/27 18:44

週刊BCN 2010年05月24日vol.1334掲載

 デジタル一眼レフカメラ市場で常にトップシェアを争うキヤノン。ここ数年は交代期を迎えたプロ・中級機モデルのラインアップを拡充が目立っていたが、2010年2月にエントリーモデル「EOS Kiss X4」を投入し、力を入れている。キヤノンは2010年のデジタル一眼レフの世界市場規模を1070万台と予想。年間販売台数を従来計画より20万台多い490万台に上方修正し、攻めの姿勢を鮮明にした。デジタル一眼レフカメラ事業を統括する新堀謙一事業部長に、今年の戦略を聞いた。(取材・文/米山淳)

エントリー一眼で世界市場を攻略
新機能と操作性の“使いやすさ”が武器

Q 2010年のデジタル一眼レフ開発の方向性は?

 「『どんなシーンでもしっかりと、その瞬間を切り取る』という、デジタル一眼レフの基本性能をしっかり極めていく。例えば、動いている子供の一瞬の笑顔をきちんと高画質で撮ることができるのは、デジタル一眼レフだけだ。具体的には、オートフォーカス(AF)と露出の精度をさらに上げていく。画像のクオリティも重要で、センサの高画質・高感度化も図っていく。もう一つ、力を入れていくのが動画で、フルハイビジョン(フルHD)を核に追求する。ハイアマチュアモデルの『EOS 5D MarkⅡ』をはじめとするフルHDの動画が撮影できる機種は、一般の人はもちろん、業務用にも使われるなど、市場から高い評価を得ており、需要は高いとみている。デジタル一眼レフの動画機能について、よくデジタルビデオカメラとの競合がいわれるが、デジタル一眼の動画は、被写界深度が浅くなることによるボケ味が魅力だ。ピントが深いビデオカメラの動画とは、映像の質が異なる。当社もデジタルビデオカメラを販売しているが、棲み分けはできると思っている」


Q プロ用からエントリーモデルまでを揃えるフルラインアップ戦略を掲げているが、今年はどのような販売戦略を展開するのか?

 「エントリーモデル70%、ハイアマチュア用モデル30%の販売構成比を、全世界で展開する。エントリーモデルは、日本国内だけでなく、米国や欧州、インドなどの新興国まで世界的な需要がある。当社には、『EOS Kiss X4』や『EOS Kiss X3』という他社よりも商品力の強いエントリーモデルがあり、販売も好調。競争力には自信がある」

Q エントリーモデルの強さを自負する理由は?

 「新しい機能を世に問うとき、最初にプロ用の上級機や中級機に搭載し、使い勝手に磨きをかけてからエントリーモデルに導入する戦略をとっている。同時に、ユーザーインタフェースの部分、つまり『使いやすさ』を徹底的に追求している。初心者でも最新機能を手軽に使うことができる。これが他社にない強みだ」

Q 初心者を狙ったデジタルカメラとしては、ミラーレス一眼が存在感を増してきており、エントリーモデルとの競合が考えられるが。

 「ミラーレス一眼は日本国内では台数比率が高まっているが、米国や欧州など、世界でみると数%と割合はまだまだ低い。当社は、市場の需要動向を注視しているところだ。もちろん、需要が見込まれるようであれば、開発の検討はする。ただ、デジタル一眼レフは、AFの高速処理をはじめとして快適に撮影できるという特徴がある。ミラーレス一眼は、この点では及ばない。だから、ミラーレス一眼がデジタル一眼と正面からぶつかることはないとみている。当社は、女性をはじめとするこれからデジタル一眼レフを使う層を開拓したいと考えているが、こうした人たちのなかに、ミラーレス一眼のようなコンパクトでスタイリッシュなデジカメを望んでいる人がいるのは確かだ。また、『大きい』『重い』『扱いにくい』がハードルとなって、デジタル一眼レフを敬遠してしまっている人がいることも認識している。当社としては、デジタル一眼レフの基本機能を向上させていくと同時に、これらの点も改善していくつもりだ」

・思い出に残る仕事

 キヤノン初のデジタルカメラ「PowerShot600」の開発を手がけた。デジタルの専用センサや画像処理回路の開発など、「過去にキヤノンが取り組んだことのない分野で、非常に苦労した」と振り返る。同時に「デジカメはどうあるべきか」を模索し、レンズ、回路などシステムをつくり込んだ。完成したデジカメを見た瞬間には、「これこそコンシューマプロダクトだ、と感激した」という。残念ながら実売には結び付かなかったが、この時の技術や経験が小型デジカメの着想を生み、2000年に発売したコンパクトデジカメ「IXY DIGITAL」の大ヒットにつながった。今は「PowerShot600がキヤノンのコンパクトデジカメの基礎を築いた」と感じている。
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