デジタルトレンド“今読み先読み”

<UPS>計画停電を機に大幅な伸び “説明不要”な製品だったことが裏目に

2011/04/14 16:51

週刊BCN 2011年04月11日vol.1378掲載

 震災に伴う計画停電によって、UPS(無停電電源装置)が関東圏を中心に爆発的に売れている。家電量販店の多くでは在庫切れの状況だが、この裏側には、大きな問題が潜んでいる。購入している人々が、本当にUPSの用途を理解しているのか、ということだ。メーカーや家電量販店は、UPSという製品の訴求方法を改めて整備する必要がある。

年末商戦の5倍以上
関東圏では前年の18倍以上に

 BCNランキングによれば、UPSの販売台数は、年末商戦のピークである2010年12月20~26日の100とした指数で、2011年3月14~20日は520.6となった。3月11日の東北太平洋沖地震で、関東圏を中心とする計画停電の実施が発表されたのが3月13日(日)。計画停電への対応で、3月14日(月)以降、関東圏で多くの消費者がUPSを購入した。エリア別でみると、東京圏での3月14~20日の前年同週比で18倍以上に膨れあがった。


 UPSは、3月だから爆発的に売れるという季節型の商品ではない。この時期、家電量販店は、在庫をそれほど抱えているわけではなかった。メーカーもまた同じで、平常時の生産・出荷体制である。店頭ではUPSが品薄、在庫切れ状態に陥り、「お客様からの要望に対応できず困っている」という店が続出しているのである。


 入荷する端から売れていくということは、メーカーや家電量販店などにとって、本来は喜ばしい状況ではある。しかし、ここに大きな問題が潜んでいた。それは、購入者の多くが、UPSを初めて使う人だということ。つまり、購入者がUPSという商品を本当に理解しているかどうか、店側が把握していなかったということだ。

事態の収集と製品の理解促進活動が責務

 これまでUPSといえば、例えば自宅にサーバーを置くようなPCに詳しい人が購入する商品だった。これらの人々は、ネットショップで購入するか、もしくは家電量販店で買う場合でも、あらかじめインターネットなどで情報を収集してから、いわば“決め打ち”で購入する。つまり、店頭での説明が不要な商品だったのである。

 さほど詳しく機能の説明をしなくても売れていく――。今回のケースでも、店頭は同じ状況だったようだ。「突然、UPSが売れるようになった」というだけで、顧客がどんな目的で購入するのかについて家電量販店は意識しておらず、売れているという現象面だけを認識していた。ここに、店と購入者との間に大きなギャップが生まれた。その最たるものが、「UPSがあれば、停電しても大丈夫。電気のある生活をすることができる」と誤解して購入したケース。そんな購入者から、店にクレームが入り始めているのである。

 UPSは、PCやサーバーなど、突然の電源遮断が故障やデータ破壊につながる機器に、停電時に正常なシャットダウン手順を踏ませるため、数分程度の電源を与える製品。突然の停電時に、UPSが数分間立ち上がり、その間に非常用発電機を始動させる目的のものだ。計画停電のような数時間の停電の下で、電源として使用できる製品ではない。

 店頭では、計画停電をきっかけに間違って購入してしまう人だけでなく、本来の目的で使うためにUPSを購入する人が、在庫切れで購入できないという状況も生じている。メーカーも家電量販店も、UPSがこれまで“説明いらず”だったことに、あぐらをかいてはいなかったか。製品の機能をきちんと伝える努力を怠ってはいなかったか。今回の事態を教訓に、UPSという大きな存在価値をもつ製品の訴求方法をあらためて考えてほしい。

 そして、現在の状況を打開するために、間違って買ってしまった人がUPSという製品にしこりを残さないように、有効活用の方法を提案したり、買い戻しを積極的に実施したりなどの策を講じなければならない。正しく理解してもらうために動く――これが業界の責務なのではないだろうか。(佐相彰彦)
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