2008年、ロータスソフトウェアの新製品を次々と市場投入するIBM。年次カンファレンス「Lotusphere2008」では多くの新製品を発表するとともに、ロータス製品だけでなく他社製品も含めて多くの機能がつながることをアピールした。ユーザーにとっては、使い勝手がよくなるとみられる。しかし、IBMはこれでマーケットの主導権を握ることができるのか。

なぜ懸念するのかといえば、自社製品だけでなく競合ベンダーの製品までもサポートできると訴えているからだ。これでは、主力製品「ロータス・ノーツ」のユーザーが増えない可能性が出てくる。こうした見方について、「ノーツ/ドミノ」の責任者であるケビン・キャバナー・バイスプレジデントは、「ノーツは、すべてを統合するフレームワークの役割を果たす」と説明している。
フレームワークの役割を果たすということは、アプリケーションソフトを開発する際、頻繁に必要となる機能をまとめて提供するということだ。いわば、「アプリケーションの雛形」として機能することになる。
ロータスソフトウェアのパートナー企業であるアプリケーションベンダーにとっては有利に働き、「ノーツと連携することで、独自に必要な部分だけを開発すれば済むため、開発効率の向上が見込める」と期待される。これは、もはや「ノーツ」がグループウェアの枠だけにとどまっていないことを意味する。さらにいえば、「ユーザーは初期投資をかけず、安価にサービスを受けられるようになる」。こうした環境をIBMは描いているわけだ。
そういった点では、競合製品をサポートするのもうなずける。マイクロソフトのビジネス用統合ソフトである「マイクロソフト・オフィス」のユーザー企業に対して「ノーツ」を提供する。「マイクロソフト製品が使いにくい場合は、ビジネス用統合ソフト『シンフォニー』を使ってもらえばよい」と、ロータス製品への乗り換えを促すことができる。ここが、IBMが主導権を握るためのポイントだ。
ソフトウェア開発についていえば、メーカー1社の開発製品だけでは差別化が図りにくい時代に突入している。しかし、こうした状況をキャバナー・バイスプレジデントは「簡単な時代」と表現する。ユーザー企業やアプリケーション開発者に主眼を置くことで、IBMだけでは実現できなかった新しい製品・サービスが生まれる。実際、「Lotusphere 2008」の終了後は「ワールドワイドから多くの問い合わせがあった」と自信をみせる。
また、アプリケーション開発については「日本市場は非常に先行している。現段階でも、ロータス製品を組み合わせた斬新なソリューションが揃っている。当社が新製品を発表したことで、パートナーによる新ソリューションの創造に期待する」。次々と市場投入されるロータス製品が生かされるマーケットは日本であることを示唆している。(佐相彰彦●取材/文)