富士通は1月22日、4月1日付で実施する執行役員人事を発表した。社長には、執行役員常務を務め、1月22日に執行役員副社長に就いた山本正己氏が昇格。5人の副社長も新たに選定し就任させる。山本氏は富士通歴代トップ中、就任時の年齢が2番目に若く、最近では珍しいハード事業出身者。海外赴任経験はない。ソフト・サービス事業と海外事業を伸ばしたい富士通をどう指揮するか、注目が集まる。
富士通は約3か月前、野副州旦前社長が病気を理由に突然トップを辞任。それ以降、間塚道義会長が社長を兼務する異例の経営体制を敷いていた。間塚会長兼社長は、社長就任早々から、自身が暫定トップであることを公言し、「後任社長の選定にすぐに取り掛かる」と話していた。間塚会長兼社長はこの3か月の間で、新社長選定のための指名委員会を開催。「3時間ほどの会議を3回開催し、10人ほどの候補者を選び出し、最終的に山本さんを選んだ」(間塚会長兼社長)わけだ。
「変化の激しい時代を生き抜くために必要な柔軟性と、行動力を兼ね備える」(間塚会長兼社長)。それが、山本氏に白羽の矢が立った理由だ。山本氏は1月18日に間塚氏から社長就任の要請を受け、「(話を聞いた時)あまりにも大きな責任なので最初は躊躇した。ただ、選んでくれたからには責務を果たそうと思った。その場で『やります』と即答した」という。
富士通は山本氏の社長昇格ほか、同氏をサポートする体制として5人の副社長を4月1日付で配置する人事も発表。「海外」「サービス」「ソリューション」「管理」「システムプロダクト」の5部門で担当副社長を配置する。現在、副社長は3人だが、新年度からは5人体制で山本新社長をサポートする体制を築くわけだ。
野副前社長の辞任では、「病気が理由ではなく、更迭ではないのか?」という噂が流れ、間塚会長兼社長は暫定トップを公言していたことなどから、ドタバタしている印象があった富士通。今回の社長人事の発表で、落ち着いた印象を与え、そのイメージは少しは払拭されるだろう。
山本氏は、1954年生まれの56歳で、富士通の歴代トップのなかで就任時の年齢が2番目に若いという。ハード事業畑のキャリアが長く、ワープロ「OASYS」やPC、携帯電話などパーソナル端末機器事業に従事した後、2年ほどからはIAサーバーを中心としたシステム系のプロダクトビジネスを担当してきた。ハードには幅広く精通している。だが、富士通が強化しようとしている海外事業やソフト・サービスビジネスの経験は浅い。
野副前社長が断行してきた、痛みを覚悟した構造改革で整理整頓が進んだ富士通。大幅な選択と集中を断行する必要はないはず。山本氏にとっては、整備された経営基盤の上で陣頭指揮を執ることができるのは幸いなことだ。強化分野のキャリア不足を、どこまで補えるかが山本体制の焦点になりそうだ。(木村剛士)

間塚道義会長兼社長(左)と新社長に就任する山本正己執行役員副社長