ネットワーク技術を応用してプライベート・クラウドを構築する動きが活発化している。大手SIerの京セラコミュニケーションシステム(KCCS)は、MVNO(仮想移動体通信事業者)のノウハウを駆使。大塚商会はKDDIの広域仮想スイッチ技術を採用したプライベート・クラウドの構築に乗り出す。クラウド構築は、これまでデータセンター(DC)などのサーバー仮想化技術などに注目が集まりがちだったが、ネットワークにもクラウド需要の波が押し寄せている。
大塚商会は低価格クラウドを展開
KCCSは、MVNOの構築・運用支援を今年6月をめどに始める。同社は2002年にMVNO事業に参入。このノウハウを顧客企業に提供するものだ。ネットワークや認証システム、閉域網の構築、サービスの一部を代行するなどのメニューを揃える。移動体だけでなく、固定回線もカバーする。同社では、この支援サービスが、プライベート・クラウド構築ビジネスにとって、他社との重要な差異化要素になるとみている。
プライベート・クラウドは、顧客専用のクラウドを構築するタイプで、顧客の本社や支社支店、グループ会社などで共有するための“ネットワーク網”が必要不可欠となる。KCCSがMVNOの構築支援や運用を一部代行することで、顧客やMVNO参入を目指す事業者は、従来の専用線よりも安く、安全にクラウドを軸としたネットワーク網を構築できるというわけだ。サーバー周りやソフト開発の技術を得意とするSIerは多くても、「全国を網羅するネットワークを自前で運用する、MVNOの仕組みに精通したSIerは限られる」(KCCSの佐々木節夫専務)と、自信を示す。同社では、MVNO支援サービスとプライベート・クラウドをワンストップで利用できるサービスメニューを整備するには、「もう少し時間がかかる」(同)と話すが、KCCSの強みを生かしたクラウドビジネス展開の一端がみえてきた。
一方、大塚商会は自らのデータセンター(DC)とKDDIの広域仮想スイッチ「WVS」を採用したプライベート・クラウドサービスを今年5月から始める。大塚商会のDCと顧客の情報システムをWVSを活用した閉域網で接続。クラウド化によるコスト削減に加え、ネットワークも広域仮想スイッチ型にすることで価格を抑えた。「DCとネットワークをワンストップで提供する」(大塚商会の伊藤昇・たよれーるマネージメントサービスセンター長)ことで、中堅・中小企業でもプライベート・クラウドを導入しやすくなる見込みだ。
サーバーの仮想化から火がついたクラウド・コンピューティングだが、ネットワークの仮想化によって安く、安全に、場所を問わずサービスを利用できる構築ビジネスが拡大しそうだ。(安藤章司)