SAPジャパンは、中堅・中小企業(SMB)市場の開拓を推進するため、中堅企業向けERP(統合基幹業務システム)「SAP Business All-in-One」のセールスチャネルの強化に乗り出す。この強化策により、「Business All-in-One」のパートナー企業に新たな顔ぶれが加わることになる。同社は、地方に地盤を置く地場のSIerなどを取り込むことで、「カバレッジを広げていく」(岡村崇・地域統括営業本部バイスプレジデント)考えだ。3~5年のうちに、SMB市場でトップシェアの獲得を目指す。
地場のSIerなどを取り込む
 |
岡村崇 地域統括営業本部 バイスプレジデント |
SAPジャパンの「Business All-in-One」のセールスチャネルの強化は、SMBビジネスの拡大に向けた一連の施策の一環。岡村・バイスプレジデントが明かす全体像はこうだ。販売パートナープログラム「PartnerEdge」から、1次店として3~5社を選定。新たに「Extend Business Member」(EBM)を新設し、2次店、3次店として地方に地盤を置くSIerを募る。1次店1社につき、10社程度の2次店を抱えるようにする算段だ。EBMの開拓には、1次店と同社のパートナー営業担当が共同で取り組む。
「PartnerEdge」に参加するには、コンサルタントの人数の基準や年間の売り上げなど、地場のSIerによっては「ハードルが高い」。EBMの制度では、こうした基準を取り払い、パートナー企業に広く門戸を開くことが可能になる。現状、保守は「基本的には1次店」という姿勢をとっている。今後は、EBMがサポート活動を展開できるように制度化していく考えだ。
なお、「Business All-in-One」は直販と間接販売の売り上げ比率が同程度。「カバレッジを広げていく」ために、パートナービジネスを拡大し、間接販売を70%にまで増やす。
SAPジャパンが本格的にSMB攻略に乗り出したのは2009年。SMBと位置づける企業を従来の売上高1000億円以下だったのを300億円以下に絞り込んだ。岡村・バイスプレジデントは、「立ち上げから成長のスピードが非常に速い。年率10%以上の伸びを示している」と驚きを隠さない。
2009年度の上期は、リーマン・ショック以降の世界同時不況の影響で厳しい状況が続いたが、下期から持ち直してきているという。ギャレット・イルグ社長は、「リーマン・ショックのあと、ユーザー企業に過大に保守的な面がみられたが、昨年11月以降、回復傾向にある」と話す。岡村・バイスプレジデントは、経営者の代替わりも進み、システムのリプレース需要に結びついていると分析する。
SMBで同社製品が受け入れられてきている背景の一つには、導入のしやすさがある。もともとあった「SAP製品は高価」というイメージが覆りつつあるのだ。トータル1億円前後で導入が可能で、安価なタイプなら2000万円でも間に合う。ユーザー企業は売上高100億円規模が中心で、「老舗の製造業というよりは成長企業が多い」。
日本での総売上高に占めるSMBの売り上げ比率は、2~3年のうちに現在の20%から30%にまで引き上げる方針を掲げる。近年同社は、直販とパートナー企業向けの両面で、SMB攻略に向けた拡販施策を打ってきた。専任の営業部隊・インサイドセールス(内勤営業)の増強や「PartnerEdge Program」を通じたチャネルパートナー販売の強化をはじめ、ビジネスインテリジェンス(BI)製品「BusinessObjects」のEdgeシリーズのリリース、月額料金のライセンスモデルなどがそれだ。
内勤営業は、専属の人員を5名配置し、見込み客発掘に従事させている。売上高300億円以下のユーザー企業に再販するパートナー企業に対しては、仕切値を優遇。SMBに販売しやすくした。チャネルディレクターのオフィスを通すことで、パートナー企業との折衝やレディネスを高め、リクエストへの対応やクレーム処理にもあたっている。低価格・短期間でのERP導入を可能にする「SAP Business All-in-One fast-start program」では、パートナー企業を募りプログラム強化を図っている。
【関連記事】SMBに強いSAPは誕生するか
パートナー拡大策がカギを握る
SMB向けERPは、国産ベンダーの独壇場である。外資系ベンダーのSAPジャパンは、エンタープライズ市場では圧倒的な強さを誇るものの、SMB市場には弱い――。だが、このような見方は変わりつつある。
調査会社ノークリサーチが公表している「2009年中堅・中小企業のERP利用シェアと評価調査報告」をみてみよう。この調査は、年商5億円以上500億円未満のユーザー企業を対象にしたもの。「SAP ERP(R3を含む)/SAP Business All-in-one」のシェアは10.6%。13.2%の「奉行V ERP/奉行新ERP」に次いで2位に位置している。競合に「OBIC7exシリーズ」や「GLOVIAシリーズ」「SMILEシリーズ」「EXPLANNERシリーズ」など国産製品がひしめくなか、善戦しているのだ。対照的に、同じ外資系の日本オラクル製品「Oracle E-Business suite」は、3.9%と後塵を拝している。
「(SMBは)いままでSAPが入ってこなかった分野」(SAPジャパンの岡村崇バイスプレジデント)。SMBビジネスを強力に推進するために「実行力」をキーワードに掲げる。SMB攻略に本腰をあげたのは2009年から。数字に現れているように、これまで投下してきた施策が実を結んでいるようだ。「国産ベンダーはこれから厳しくなってくるのでは」と余裕を見せる。「成熟期にある国内市場だけで事業を展開していくのは難しい」とも続ける。これまで実績を積み上げてきたことから、クチコミで評判も広まり、引き合いが増えているという。
近年は、SMBでもM&Aや新興国への進出などがみられる。こうした状況も同社製品の導入の追い風となっていると考えられる。しかも従来より低価格で、ユーザー企業が導入しやすくなった。
今回、「Extend Business Member」を新設することで、パートナー企業のすそ野が広がった。同社の攻めの姿勢に今後シェアがさらに拡大する可能性がある。(信澤健太)