3年でシェアを8倍超にする──。日立製作所（中西宏明社長）がNAS製品の販売事業でぶち上げた目標だ。国内のNAS市場でわずか1.8％しかないシェア（2010年度、IDC Japan）を、13年度に15％にするという。たとえ社内向けには大きな目標を掲げていたとしても、社外には公表しない“保守的”な日立としては、極めて異例の宣言だ。

　9月9日、日立は価格100万円を切るファイルストレージ「Hitachi Virtual File Platform 50（VFP 50）」を発売した。これがNAS市場でシェアを急伸させる武器である。

　日立という超大手企業が得意とするのは、どの分野でも、グローバルカンパニーや誰でも知っている大手企業を中心とするビジネス。ストレージも例外ではない。SANと呼ばれる大規模な情報システム向け製品に強く、その顧客の大半は大手企業だ。この領域で、日立は国内だけでなく世界でも強い。

　今回発売したストレージ製品は、従来のものとは一線を画す。中堅・中小企業（SMB）を狙った機種で、日立が弱いマーケットにアプローチするためのもの。弱いというよりも、これまで力を入れてこなかったという印象だ。「ラインアップは他社に比べて乏しかった」と、松本和裕・ゼネラルマーケットビジネス統括本部プラットフォームビジネス推進センタセンタ長も打ち明ける。市場調査を経て、SMBのNAS製品は有望と判断し、今回、満を持して製品投入に至ったわけだ。

　「最後発であることは承知している。日立の特徴を出したモデルで他社を追いかける」と語るのは橋本崇弘・RAIDシステム事業部副事業部長。99万7500円からという低価格と、動作させるための設定が10分で終わるという容易性、自動で遠隔地にバックアップを取る機能などを売りにしている。SMBでシェアを獲るには間接販売が必須とみて、技術支援部隊を神奈川県の小田原市から東京都の大田区に移したり、再販するITベンダーやユーザー企業にデモンストレーションを行う部隊を新設したりと、間接販売を支援する仕組みも構築した。報道発表日の6日前には、製品事業部とパートナー支援部隊が共同で、再販するITベンダー向けの事前製品説明会を開催。説明会には、SMB事業の要といえるゼネラルマーケットビジネス統括本部の杉山信行統括本部長が顔を見せ、挨拶をした。

　日立が認めるように、SMB向けのNAS製品では、この市場に強いEMCジャパンやネットアップに遅れをとっている。だが、日立が挑戦的な目標を公言するということは、社内ではコミットメント（必達目標）になっているのは間違いない。大企業向けの直販を得意としてきた日立の挑戦が、SMB向けのNAS市場で始まろうとしている。（木村剛士）