XMLデータベース製品を開発・販売するサイバーテック(橋元賢次社長)は、2008年にオフショア開発拠点として設置したフィリピンのセブ島にある同社のアウトソーシングセンターを使い、国内派遣常駐型と海外オフショアの両方の長所を満たす開発受託サービスを開始する。同社ではこれを「ハイブリッド派遣サービス」として、EC(電子商取引)サイトや媒体サイトなどのウェブ運用や画像変換・加工などの受託案件を狙い、初年度で2億円の売上高を目指す。ウェブなどに関連する受託開発の新興国への流出が激しいなか、同社の取り組みは、他の受託開発会社にも参考になるサービスとして注目される。(取材・文/谷畑良胤:本紙編集長)
ECなどのサイト活況が追い風に
世界有数のリゾート地として知られるセブ島。観光地のイメージが強いが、島には「セブITパーク」と呼ばれる巨大エリアがあり、フィリピンではマニラに次ぐ大都市だ。橋元社長によれば、「国を挙げてIT教育に力を入れており、IT業界でも世界的に注目されている地域」なのだそうだ。
同社がこの地に着目してアウトソーシングセンター「セブ開発センター」を開設したのは2008年5月のことだった。受託ソフトウェア開発のコスト圧縮要請が厳しくなり、中国をはじめとする開発費が安価な新興国でのオフショア開発が一般化した頃だ。他のITベンダーがオフショア開発の国として中国やインド、ベトナムなどを選択するなかで、「ベトナムよりも低コストで、人材供給力が豊富なうえに英語圏でもある」ことを知った橋元社長は、将来的な開発人材不足に備えることを視野に入れて、セブ島に開発センターを置くことを決断した。
今回提供を開始する「ハイブリッド派遣サービス」は、国内の企業に常駐して行う開発と低コストな海外スタッフによる開発を組み合わせた、他のITベンダーにない業界初の受託開発の派遣サービスだ。一般的な受託開発会社が請け負う通常の派遣では、顧客の事業所内に作業スタッフが常駐するかたちで、業務内容に応じて分割する作業が不要。ただ、人月単価で人数に比例する派遣コストが発注側の負担としてかかる。海外のオフショア拠点の場合は、低コストな反面、日本語が話せるスタッフによる日本と海外の橋渡しをするスタッフの育成が必要で、業務内容に従ってスキル別に開発内容の振り分け作業などが発生し、委託業務が限られる。
この両面の長所だけを組み合わせて提供するのが、サイバーテックの新しい派遣サービスだ。同社の作業スタッフは顧客事業所内に常駐するが、主に作業内容のヒアリングや取りまとめ、ディレクションをするだけにとどめ、実作業はセブ島の開発センターで行う。センターには、日本人スタッフが常駐し、英語でフィリピン人に指示を与える。「国内委託の感覚で日本語による業務指示が可能で、しかも低コストで請け負える」(橋元社長)というだけあって、通常5人分の作業をアウトソースした場合に必要な月間コスト300万円に対し、このサービスなら120万円ですむ。
海外委託先のリスクを軽減
フィリピンは、IT技術者向けの学校や資格制度が充実しており、ソフト開発の人材が豊富で採用に困ることはない。サイバーテックは常時、30人程度の社員を配置している。しかも、フィリピン大学と提携しており、突然の大型案件にも対応できると自信を示す。
最近では、楽天やYahooなどEC(電子商取引)サイトが盛況であるほか、Facebookなどソーシャルメディアとスマートデバイスの普及で、従来以上にコンテンツのアップデート作業が増え、迅速さも求められている。同社では、ECサイトや媒体サイトを主にしたウェブ運用や画像変換、レタッチ、データ変換・加工、HTMLコーディングなどの請け負いを狙う。フィリピンにはネイティブレベルの英語を話す人材が豊富なので、日英・英日の翻訳業務の受託も獲得するという。
こうしたウェブサイトに関連する受託開発やコンテンツ・マネジメント・システム(CMS)を使ったウェブ更新業務は、全国の受託ソフト会社の収益源になっている。とくに、首都圏以外の地域のITベンダーにとっては、安定的に得られる収入となる。しかし、多くのウェブ運営会社は、国内の開発コスト高を敬遠し、海外に開発を求め、そのことが受託ソフト会社の収益を圧迫している。ただ、海外オフショアだけに頼ると、新興国の委託先で問題が生じた場合にウェブサイトの運営に大きなダメージが出る。サイバーテックのサービスならば、リスクが小さく、低コストで委託できる。
橋元社長は「当社の場合は、XMLデータベースの顧客にウェブサイト運営会社が多く、こうした作業を請け負うことで主力製品を拡販することができる」と話す。受託ソフト開発のどこの企業でも採用できるビジネスモデルではないが、海外のオフショア開発ベンダーに仕事を取られる一方の状況を改善することはできそうだ。

フィリピン・セブ島にあるサイバーテックのアウトソーシングセンター。IT人材が豊富で供給に困らない