【上海発】富士通(中国)信息系統(富室昌之総裁)が、中国で着々と成長路線を築いている。広東省管轄政府系企業と合弁して富士通(広東)科技服務有限公司を設立。その合弁会社の運営で富士通グループ中国初となる自社所有の富士通中国華南データセンター(DC)が今年4月11日に稼働を開始した。DCの開設によって、システム・サービスをユーザー企業に対して直接提供できるようになったことに加えて、クラウドサービスの本格化を視野に入れるなど、次のステップに進む基盤を整えた。富士通グループが掲げる2010年度(2011年3月期)比で中国での売上高を「3年後に2倍」に向けて大きく前進したかたちだ。(佐相彰彦)
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| ビジネスの幅が広がったことに自信をみせる富室昌之総裁 |
富士通グループの中国での売上高は、2010年度時点で約1100億円。山本正已社長の「3年後をめどに売上高2倍」の号令で、13年度には売上高2200億円を目指している。その主役になる企業が富士通(中国)信息系統だ。今年度(2013年3月期)は、前年度比15~20%増の売上高を見込んでいる。その内訳は、中国の地場企業をユーザーとしたビジネスが30%増、日系企業をターゲットとしたビジネスが微増。富室総裁は、「中国企業のIT化がますます盛んになっているので、高い成長が見込めるだろう」とみる。一方、日系企業向けビジネスは製造業の業績が厳しく、ITシステムへの投資に慎重な姿勢をみせていることから、「控え目な数値にした」と説明する。とはいうものの、日系企業から受注を獲得する策はある。
今年度、売上高の成長を促進するうえでの柱となるのが、4月11日に稼働した富士通中国華南DCだ。これまで中国国内にDCを保有していなかったため、ユーザー企業が中国電信のDCと契約したうえで富士通(中国)が中国電信内に置かれたユーザー企業のシステムの保守・運用を手がけるというビジネスモデルを形成していた。しかし、自社DCを所有したことで、「ユーザー企業に対してダイレクトにソリューションを提供できる」という。ホスティングやコロケーションに加え、ITオペレーションやマネジメントサービスについて、中国市場で独自のサービスを提供できるようになったわけだ。日系企業のユーザー数は全体の50%程度。製品・サービスを直接的に提供できるようになったので、高い品質を求める日系企業がサービスを利用するようになると判断している。「DCの稼働で新規開拓ができる」と自信をみせているところからは、実質は日系企業向けビジネスをさらに伸ばそうとしているとみていい。
また、新規顧客の開拓で主力製品に据えているのが「イージークラウド」というユーザー企業がプライベートクラウドを構築できるプラットフォームだ。このプラットフォームは、PCサーバー「PRIMERGY」やストレージ機器「ETERNUS」などのハードに、プライベートクラウド基盤運用管理のミドルウェア「Resource Orchestrator」をバンドルしてクラウド環境を構築するもの。ユーザー企業は、課金サービスをクラウドで提供できるようになる。これまで中小規模の企業を中心に10社程度を獲得しており、「今年度は、30~50社を獲得できる」という読みだ。
さらに、次の柱としてビジネスを本格化しようとしているのは、富士通(中国)がクラウドサービスを提供するということだ。中国市場では、クラウドサービスに対する関心が高まっているものの、現段階では導入企業が少なく本格化はこれから。そんな状況にあって、富士通(中国)はクラウドの導入が本格化することを視野に入れており、「アライアンスを組むことができるベンダーを開拓している段階」という。アプリケーションベンダーを中心にパートナーシップを深めていく方針だ。
「富士通グループで掲げる『3年後をめどに売上2倍』という目標は、富士通(中国)だけでは達成することができない」としているものの、富室総裁が責任者として管轄する企業は、富士通香港、富士通信息系統(深セン)、富士通科技服務と、富士通(中国)信息系統を含めて4社で、どれも富士通グループが中国市場で主要なベンダーとして位置づけている企業ばかり。他の系列会社の力も必要だが、富室総裁は「私が管轄する企業は、計画を達成できる」と断言している。

華南DCの稼働によって、システム・サービスを直接的に提供する基盤が整った
表層深層
富士通の2011年度の海外売上高は、前年度比2.3%減の1兆5171億円。全体ではマイナスの状況で、APAC・中国の売上高は4.1%増の4219億円と順調に伸びた。この成長には、4分の1以上の売上比率を占める中国でのビジネスが大きく寄与している。
そんな成長株の中国市場だが、市場開拓には難しい面がある。例えば現地企業と組まなければDCを設置することができない制約があるなど、ビジネスを手がけるうえで課題の解決を求められる市場でもある。今回、富士通(中国)信息系統は、中国広東省管轄政府系企業との間で合弁会社を設立したことで、華南DCを所有することができた。中国市場では、現地企業を中心としてITへの投資意欲がますます高まっている。多くの日系企業が中国で自社DCを設置しようとしているなか、富士通(中国)は自社DCをもつことで、他の日系企業との競争力が高まった。
もちろん、今回のDCが中国で事業を拡大していくうえでの最も大きな柱というわけではない。しかし、中国電信を経由しなければ事業を手がけることができないという課題は解決した。DCを活用したサービスを拡充することで、これまで獲得することができなかった現地のSMB(中堅・中小企業)をユーザー企業として開拓していく方針。SMBへの拡販に向けて販社体制も整えていくという。新しいビジネスへの着手で新規顧客層の開拓という、13年度に売上2200億円を確実に達成するための策を着々と講じているのだ。