人海戦術が求められる 一番の近道は地道な努力

弥生
岡本浩一郎 社長「この座談会4社のなかで最後発ですが、2013年はサービスとして独り立ちさせる年だと捉えています。より広いターゲット層に向けて提供する第二弾の開発を進めています」
──先ほど、使ってみて便利だということがわかれば皆が使い始める、という意見がありましたが、日本ではクラウド普及にベンダーの積極的なアプローチが求められると思います。その点はいかがでしょう。 ダイクス 古典的なやり方かもしれませんが、直接訪問するしかないだろうなと思います。私の前の世代にあたりますが、キャラバンをやっていた時期があります。各都道府県を回って、まだPCを使っていないお客様に対して、PCや「Office」について説明するシンプルなものでした。
今は、新しいワークスタイルをみせないといけない。キャラバンと呼ばずに、ディスカバーキャンペーンといって、2013年1月から6月にかけてパートナーにもご協力いただいて全国を回ります。しばらくは毎年やってみましょうということになっています。本当は、オンラインマーケティングで全部できれば、あるいは大型イベントで済めば、コスト効率が一番いいのですが、現実はそうはいかない。
それと、パートナーがクラウドを説明できないといけないので、2012年からはスモールビジネスに関する資格制度を設けました。この資格を取れば、クラウドを説明できて、販売とサポートができます。なんで、これまでなかったのかと思うくらいですが……。
青野 まったく同感です。クラウドって、全国で伝えていかないといけない。今、当社のクラウドサービスを買ってもらっているのは完全に新規のお客様で、これまでの伝え方ではリーチできなかった層なんです。従来の手法を踏襲して、「広告を打ちました」「パートナーを教育しました」だけではダメで、もっと新しい技を駆使しないといけない。
地方で説明会をすると、結構な参加率です。パッケージではなかったくらいの集客のよさなんです。ウェブを見てくださいとかカタログ読んでくださいではダメなんでしょうね。リアルで相手の顔を見て不安を解消するのが必要なプロセスなのかなと思います。
水谷 2012年夏に、ようやく47都道府県にユーザーがいる状態になりました。このエリアは利用が進んでいないとか、パートナーの協力がないといった課題を地道に潰していかないといけない。意外に空白地帯があって、東京近辺のユーザーだけがクラウドを使っているという状況が長く続いていました。
あとは、スマートデバイスにもっと積極的に対応して、新たなワークスタイルをアピールしていきたいですね。業務ソフトでも、スマートデバイスを使うことで、これまでできなかったことがいろいろとできるようになる。公開したアプリは無償で、販促ツールというかたちで提供します。「App Store」からダウンロードしてもらいます。
岡本 基本的に皆さんのおっしゃる通りだと思っていますが、ちょっと一歩引いたかたちでお話をすると、クラウドはしょせん手段です。なので、クラウドを売りたいということではなくて、お客様に新しい価値を提供したい、その手段がたまたまクラウドだったということだと思うんです。
現時点で言うと、まだまだキャズム(深い溝)を越えていないので、クラウドにはメリットがあることを伝えていくのはもちろんですが、必然性とメリットがはっきりみえてくれば、自ずと立ち上がると思うんですよね。当社は、そういう意味ではこれからです。スマートデバイスのアプリに関しては、インハウスではなくてサードパーティと協業してやっていて、2011年にはアプリコンテストを主催しました。
ダイクス 今の時代は、もう複数デバイスを持ち歩くのが普通です。「Office 365」は、最初から1ユーザー5デバイスまで使えるライセンス形態になっています。これまでの考え方では、人ではなくてモノにライセンスが紐づいていたんですが、クラウドでは人に紐づいている。
クラウドは逆境にあるが 一方でチャンスの可能性が大
──パートナービジネスはどう変わりますか。 青野 川上に位置する商品開発や部品製造の段階と川下の保守サポートは収益性が高いけれども、中間の製造工程は付加価値が低いスマイル・カーブ現象というものがあります。部品をつくっている企業と、お客様に近く保守サポートを提供する企業が強いわけです。
クラウドでも同じことが起きていると思うんですよ。サーバー、OS、データベースを買ってきて組み立てるのがSIerです。進むべき道は三つしかなくて、メーカーとして技術力を高めるか、お客様の側でコンサルティングサービスを提供するか、もしくはクラウドの新しい技術で新しいインテグレーションを手がけるか。どれかを選ばないと死ぬことになる。
ダイクス いずれは、複数のクラウドを同時に使う時代が必ずくる。そうすると、青野さんがおっしゃる通り、中間のインテグレーションの部分が重要になってきます。
青野 1年間クラウドビジネスをやってきて、ほとんどが直販ですが、なかにはむちゃくちゃ複雑な要望があるんですよ。これを誰かが受けたら絶対に儲かるのに、と思っています(笑)。ベンチャーにもたくさんのチャンスが生まれると思います。
水谷 4年間はカスタマイズができないという状況でしたが、クラウドAPIがこれを変えました。クラウドでも使えるAPIという意味なんです。オンプレミスでも、同じプログラムでカスタマイズできますから、まずはオンプレミスでカスタマイズしてもらい、そのままクラウドに移行できる。パートナーにとってメリットは大きい。
岡本 既存のビジネスのやり方を続けるのは、これから先は通用しないと思っています。パートナーにお伝えしているのは、お客様に“寄る”ということ。単純にサーバーを導入してインストールして、ハイ終わりではなくて、「こういう業務にしましょう」と提案できるパートナーを求めています。パートナーとは、付加価値の共創を目指しているんです。それができないパートナーには去ってもらいました。最も多い時は650社くらいのパートナーがいたんですが、いまは260くらいに減っています。クラウド云々の話ではなく、とにかくモノを寄せ集めて販売するやり方では通用しなくなっている。
ダイクス 新しいパートナーが集まってきていますが、既存のパートナーも次の時代に連れていかないといけない。キャラバンみたいな古風なことをやるのはその一環で、さらには、月額ではなくて年間のまとまった価格で販売できる間接販売モデルを追加します。最終的にクラウドに合致したモデルは誰にもわからないので、とりあえず紹介料モデルと合わせてどっちもやる。仕入れ販売がないとクラウドに参入できないという声があまりにも多かったので、ようやくそれに応えられます。
──本日は、貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。