日本マイクロソフト(樋口泰行社長)は、「Windows Azure」のデータセンター(DC)として、日本リージョンを新設することを明らかにした。2014年の開設が見込まれる日本リージョンは、首都圏と関西圏に配置するサブリージョンと呼ばれる二つのデータセンターによって構成。それぞれを結び、国内完結型のディザスタリカバリ(災害復旧)環境を構築する。日本リージョンの開設で、Azureのビジネスはどう変わるのか。そして、パートナービジネスにはどのような影響があるのか。

来日した米マイクロソフトのスティーブ・バルマーCEO マイクロソフトのパブリッククラウドサービス「Windows Azure」を運用するDCは、これまで米国と欧州、アジアの三つのリージョンに分割しており、日本のユーザーは、アジアリージョンを構成する香港およびシンガポールのサブリージョンを利用するケースが多かった。
日本マイクロソフトの樋口社長は、Windows Azureのサービスを開始する前から、日本でのDC開設を米本社に申し入れていた。しかし、アジアリージョンのDCが、同社の既存オンラインサービスのDC施設を転用していた経緯からもわかるように、新規DCの開設は、Windows Azureのビジネス拡大が前提となっていた。その点でも、今回の日本リージョンの開設は、Windows Azureのビジネスが日本およびアジアで拡大していることを示すものといえる。実は、日本では報道されていないが、今回の日本リージョンの開設とともに、オーストラリアリージョンの新設と、中国におけるWindows Azureのサービス開始が発表されている。これらはいずれも、新規にDCを開設するもので、日本を含むアジア3か国で、数億ドルの新規投資が行われる。
米マイクロソフトのスティーブ・バルマーCEOは、「日本リージョンの開設によって、Windows Azureをエンド・トゥ・エンドで日本でも提供できるようになる」として、日本マイクロソフトの樋口社長も、「データ統治権を担保しつつ、データやアプリケーションソフトを国内に保持できる。日本にデータを置きたい企業や政府機関のニーズに対応し、さらに転送速度も速くなることから、リアルタイムレスポンスのニーズにも対応できる」とする。
今回の日本リージョンの開設では、いくつかのポイントがある。一つは、日本マイクロソフトとパートナーは、より戦略的な提案ができるようになる点だ。日本国内にDCがないことを不安に感じるユーザーの懸念を解消できるだけでなく、パートナーの提案力が増し、サービスメニューを拡大することができる。これはオンプレミスとの連動提案でも、日本リージョンを活用できることを意味する。
注目点の二つ目は、国内に2か所のサブリージョンを設置している点だ。プレスリリースで「東阪」と表記していることから、東京、大阪でのコロケーション形式による都市型データセンター展開が有力とみられるが、この二つのサブリージョン同士をつなぐことで、国内拠点のみのディザスタリカバリ環境が構築できる。日本以外にデータを置きたくないというニーズに対しては、2拠点展開は不可欠なものといえる。
三つ目は、富士通との連携強化である。富士通は、Windows Azureをベースにした「FUJITSU Cloud PaaS A5」を提供しており、一部には日本リージョンの開設によって、富士通との競合が懸念される声がある。だが、この見方は正しくない。今回の日本マイクロソフトのリリースのなかには、「両社のサービスの連携を強化したものへと進化させる」という文言がある。FUJITSU Cloud PaaS A5のサービス内容は、日本マイクロソフトのAzureサービスとは異なるもの。つまり、Windows Azureにおける富士通とのこれまでの関係は、企業同士の連携ではあったものの、サービスは連携していなかった。だが、今回の発表では、日本リージョンの設置を機に、サービス連携にまで踏み出すことを明示している。樋口社長は、「日本のユーザーに、より最適なクラウドソリューションを提供する方向へと提携を進化させる」と話した。「FUJITSU Cloud PaaS A5」と日本リージョンを連携させた提案のほか、両社のサービスを連携させたIaaS、PaaS関連サービスメニューが新たに設定される可能性もある。
日本マイクロソフトは、Windows Azureビジネスにおいて、「日本品質」の追求を掲げてきた。日本リージョンの開設はそれを実現するうえで重要な一歩となる。だが、日本のユーザーが求める要求に細かく応えられていないのも事実であり、その点ではまだまだ改善の余地がある。日本リージョンの開設は、日本のユーザーからの細かい要求を加速することにもつながるだろう。つまり、Windows Azureビジネス拡大に向けての真価が問われることになるわけだ。(フリーランスジャーナリスト 大河原克行)