日本マイクロソフト(樋口泰行社長)は、9月2日、自社ブランドのタブレット「Surface RT/Pro」の法人向け販売を認定Surfaceリセラー6社で開始した。法人ユーザーは、認定Surfaceリセラーとなったウチダスペクトラム、大塚商会、キヤノンマーケティングジャパン、日立システムズ、富士ソフト、リコージャパンの6社とその関連会社という限定された販売ルートでのみ「Surface」を購入することができる。初めてのハードウェアの販売ということから、日本マイクロソフトは、故障などのサポートや、OEMメーカーに対する配慮もあって、リセラーを厳選する慎重な姿勢をとった。Windowsタブレット全体のシェア拡大のための起爆剤にしたいという狙いで「Surface」を拡販する。(真鍋武)
「ついに法人向け販売チャネルが整った。『Surface』の法人販売を満を持して開始することができる」。発表会で、日本マイクロソフトの樋口社長は意気込みを語った。同社では、7月から従業員全員に「Surface」を配布し、従来の2倍となる1000人の営業体制を敷き、デバイスの販売ノルマを課している。「販売開始前に、すでに約500社から引き合いがあった」(樋口社長)と、手応えを語る。
多くの台数を販売したいのであれば、リセラーの数は多いに越したことはない。にもかかわらず、日本マイクロソフトは認定リセラーを6社に厳選した。この理由について、パートナービジネス推進統括本部パートナー営業推進本部の鶴原鉄兵本部長は、「当社は、これまでハードウェアを売った経験がない。認定リセラー以外のパートナーからも取り扱いたいという要望は出てきたが、リセラーを増やし過ぎて、故障した時のサポートなど、問題が起きた場合に対応できなくなる事態は避けたかった。日本以外の国でも、認定リセラーの数は厳選しており、米国でも10社しかない」と説明する。拡充の予定については、「検討はしているが、現段階では、いつ、どのくらいになるかはわからない」(同)と慎重だ。

「Surface」の拡販に意気込む樋口泰行社長とリセラー各社の担当者
日本マイクロソフト
鶴原鉄兵 本部長 「Surface」のリセラーを拡充すれば、富士通やHPなどのOEMメーカーのWindows 8タブレットの販売台数が減ってしまう恐れがあるので、そうした事態を避けようとした面もあるようだ。例えば、地方の法人ユーザーが「Surface」の導入を検討していて、つき合いのあるIT販社が認定リセラーではない場合には、OEMメーカーのWindows 8タブレットを販売すれば、日本マイクロソフトとOEMメーカーとの関係維持には有効に働く。樋口社長は、「OEMメーカーとの衝突は避けられないが、あくまで“Windows陣営”としてiOSやAndroidに対抗したい」としている。OEMメーカーと協調して、2012年時点で7%(ICT総研)だった法人市場でのWindowsタブレット全体のシェア拡大を狙うわけだ。
認定リセラー6社の販売意欲は高い。大塚商会の片倉一幸取締役兼専務執行役員は、「あまりWindowsタブレットは売れていなかったが、『Surface』が、今後の販売でのトリガーになる」とみている。キヤノンマーケティングジャパンの神森晶久専務取締役は、「数万台単位で販売したい。このビジネスチャンスを逃す手はない」と意欲をみせる。
認定リセラーは、「Surface」にキッティングやサポート、データ保護などのサービスと、「Office 365」などのクラウドサービス、各社の独自のソリューションを組み合わせて販売していく。例えば、大塚商会では、LTE/Wi-Fiルータと「Office 365」を組み合わせて拡販する。富士ソフトでは、「カスタマイズやシングルサインオンの『ADFS on Azure』サービス、クラウドサービスを組み合わせて販売する」(豊田浩一常務執行役員)という。
OEMメーカーのWindows 8タブレットとは差異化が難しいものの、既存のWindows環境をそのまま使用できるとあって、リセラー各社の「Pro」への期待度は高い。一方、「RT」については、用途が限定されるとあって、拡販に難を示すとの見方が強い。「Pro」は、Active Directoryへドメイン参加したり、Direct Accessによって、VPN環境なしで社内環境にリモートアクセスしたりできるので、管理やセキュリティ対策がiOSやAndroidと比べて容易だ。「RT」も、10月にリリースされる「Windows (RT)8.1」によって、VPNクライアントを実装することになるので、社内環境へのアクセスが可能となり、法人ユースでの活用域が広がる。しかし、大塚商会の片倉取締役兼専務執行役員は、「VPN機器を導入させてまでして、『RT』を提供しようとは思わない。Active Directoryにドメイン参加できる『Pro』を売っていくのが基本姿勢だ」と戦略を明かす。キヤノンマーケティングジャパンの神森専務取締役も、「既存のクライアントのアプリケーションをそのまま使えるわけではないので、『RT』は『Pro』よりは売れないだろう」と予測している。
「Surface」の法人向け販売の開始に意気込む日本マイクロソフト。ただ、初めてのハードウェア販売で、OEMメーカーとの協調という観点もあって、慎重に打って出ざるを得なかったというのが実情だ。チャネルを絞り、市場の反応をじっくりと見極めようとしている。
表層深層
日本マイクロソフトの慎重な姿勢は、コンシューマ市場からも読み取れる。実は、「『Surface』の販売実績は機密事項」(鶴原本部長)で、家電量販店が集計した「Surface」の販売台数データを調査会社に提供していない。販売が不調なことを隠すためか、もしくは好調すぎて、OEMメーカーが不満を抱くことを嫌っての措置だろう。法人市場では、既存のWindows環境をそのまま使用できる利点から、個人市場よりも高い需要が見込める。そう考えれば、よりデリケートに扱わなければならない理由も納得できる。「デバイス&サービス」への転換を掲げている同社にとって、初めてのハードウェア販売をなんとしても成功させたいという思いが滲み出ている。
ただ、「Surface」を起爆剤とするためには、リセラーが限定されているのでは中途半端といわざるを得ない。市場への影響は限定的だろう。本当にタブレット市場でiOSやAndroidに対抗するためには、今後の販売チャネルの拡充は必須となるはずだ。(真鍋武)