ガス会社の千葉ガスは、次期基幹業務システムの開発で悩んでいた。従来と同様、パッケージソフトを活用するか、スクラッチでゼロからつくるか、どうにも一長一短がある。パッケージは要求仕様を満たすための手直しがやりづらく、手組みのスクラッチ開発は開発の自由度は高いが、手間とコストがかかりすぎる。そうこうしているうちに、あるITベンダーの営業マンが飛び込みで売り込みに来た。「プログラムをつくらなくていいんです」。千葉ガスに提案したのは、キヤノンソフトウェアの営業マンだった。
【今回の事例内容】
<導入機関> 千葉ガス1968年設立。千葉県の成田市や佐倉市、八千代市、千葉市などで都市ガスやプロパンガスの供給、販売を手がけている。株主は東京ガス。社員数は218人
<決断した人> 写真左から千葉ガスの湯浅秀明部長代理、渡辺等部長代理、加瀬博之課長代理 <課題>基幹業務システムを刷新するに当たり、パッケージソフトを活用するか、手組みのスクラッチでソフトウェアを開発するかで悩んでいた
<対策>キヤノンソフトウェアのソフト開発自動化ツール「Web Performer」を採用し、プログラミングすることなくスクラッチ開発を行う
<効果>「Web Performer」を活用した領域について開発工数を半減
<今回の事例から学ぶポイント>自動開発ツールによって開発コストを大幅に削減するとともに、プログラムのミス(バグ)を防ぎ、ソースコードの属人性も排除した
ノン・プログラミングで開発
千葉ガスは、顧客情報管理システムを中心とする基幹業務システムの刷新を検討していた。従来はパッケージソフトを一部活用していたが、「パッケージソフトに改変を加えるとバージョンアップ時の手直しがやっかい」(千葉ガスの渡辺等・情報システム部部長代理)という課題もある。だからといってスクラッチ開発は、自由度が高い一方で手間とコストがかかり、時間の経過とともに中身がわからなくなり、少人数の情報システム部にはメンテナンスの負担が大きすぎる。まさに一長一短である。
こうしたなか、キヤノンソフトウェアのある営業マンがアポなしで訪問してきた。情報交換のつもりで次期基幹業務システムの話を振ったところ、その営業マンは「プログラムをつくらなくてもスクラッチ開発はできる」と説明した。2008年のことだ。半信半疑でその年の10月に、キヤノンソフトが独自に開発するソフトウェア自動開発ツール「Web Performer(ウェブパフォーマー)」を試験的に購入して使ってみたところ、「プログラミングの知識がほとんどなくてもソフトの開発が可能なことを確認できた」(千葉ガスの湯浅秀明・情報システム部部長代理)。
ソフト開発の自動化ツールが存在することは知っていたが、基幹業務システムの開発に適用するという発想は、キヤノンソフトの話を聞くまではなかった。自動化によって得られるメリットは、(1)開発コストの大幅低減(2)理論的にプログラミングのミスによるバグがない(3)ソースコードに属人性(開発者固有の方言)がなく、後任の情報システム部担当者もメンテナンスしやすい──という点が挙げられる。
コスト半減、オープン環境で
「Web Performer」は、業務アプリケーションに特化した簡易言語による記述をもとに、Javaのウェブアプリケーションを自動生成するソフトだ。「メインフレーム時代からおよそ30年にわたってつくりあげてきた」(キヤノンソフトの高澤賢一・ソリューション営業三部課長)。千葉ガスは「Web Performer」の実力を認めたものの、特定ベンダーに「ベンダーロックイン」されることを嫌った。そこで、5社に声をかけて厳正に業者選定を行った。うち2社は途中で辞退。残る3社のうち2社は、ガス業務のパッケージソフト開発を手がける、いわばガス業務のプロだ。
千葉ガスからは、「『Web Performer』を採用するとしても、キヤノンソフトに開発まで発注するかどうかは別」と釘を刺されており、キヤノンソフト側も「それでもいい」(山田智生・アカウントソリューション開発一部部長)と返答した。ガス業務のノウハウをもたないキヤノンソフトがあまりにも不利なので、簡単なレクチャーを行ったうえで業者を選考した。
「Web Performer」で生成されるソフトは純粋なウェブアプリケーションであり、特殊な実行環境(ランタイム)を必要とせず、汎用的なブラウザで動作する。将来のバージョンアップや更改時にも「キヤノンソフト以外のベンダーに発注しても何の問題もない。つまりベンダーロックインの心配はない」(千葉ガスの加瀬博之・情報システム部課長代理)などの点から、「Web Performer」を採用するとともに、このツールに最も精通しているキヤノンソフトに主要なシステム開発も発注することを決断した。
本稼働は2013年1月で、およそ3年がかりの大規模な開発だった。コスト削減の効果は、キヤノンソフトが請け負った部分について、「手組みでつくるのに比べて、ざっくり半分のコストでできた」(キヤノンソフトの益子茂之・アカウントソリューション開発一部課長)と胸を張る。千葉ガス側もスクラッチ開発によって自らの要求仕様を満たしつつ、ベンダーロックインがかからないオープンな環境を築いた。さらに属人性のないソースコードに仕上げたことで、今後のメンテナンス負荷を大幅に軽減できる見通しを立てることができた。(安藤章司)