ITベンダーが製品やサービスを自社に導入して、その強みやメリットを実感したうえでユーザー企業に訴求するのは、効果的な販売手法だ。インテル(江田麻季子社長)は、さまざまなIT製品やサービスを自社に導入して、業務効率化やコスト削減を果たし、生産性を高めて、業績の伸長につなげている。現在は、ソーシャルサービス(Social Service)の「S」、モバイル(Mobile)の「M」、ビッグデータ・アナリティクス(Big Data Analytics)の「A」、クラウド(Cloud)の「C」を組み合わせた「SMAC」に重きを置いて、社内のIT化に取り組んでいる状況だ。(取材・文/佐相彰彦)
1億8000万ドル強のコスト削減
3月31日、インテルは都内で記者会見を開き、邱天意・Japan and North APAC 地域部長が同社のIT部門の取り組みを紹介した。売り上げに対するIT関連製品・サービスへの投資比率は、2013年に世界のグループ全体で2.36%だったという。2010年が2.64%で、この4年間で0.28ポイントの削減を実現したことになる。そのなかで、IT部門は社員が業務をこなすうえで必要最低限のインフラを構築し、さらにそれぞれの部門が業務を改善して新たなビジネスを創造するためのシステムやサービスを導入してきた。邱地域部長は、「『SMAC』にもとづいて取り組んだ」と説明する。

邱天意・Japan and North APAC 地域部長 具体的には、ソーシャルサービスの利用に関して、社員のなかでエキスパートを検索することができるシステムや、会議スペースの検索が可能なシステムの導入によって、社員間のコミュニケーションが活性化したという。「モバイル」という点では、タッチ操作に対応したウルトラブックを2013年に1万4000台導入したほか、BYOD(私的デバイスの業務利用)を推進し、スマートフォンやタブレット端末などスマートデバイスの利用によって社員の作業効率を高めた。また、社内でスマートデバイスを有効活用できるように、社員専用のアプリも開発している。
「ビッグデータ・アナリティクス」については、構造化データと非構造化データを分析するシステムを導入。顧客の発注状況や生産ラインの品質管理などをリアルタイムに判断できるようになり、販売の最適化、製造コストの削減、一つの半導体チップに機能を集積する手法のSoCなどの検証につなげた。「クラウド」に関しては、プライベートクラウドやパブリッククラウド、ハイブリッドクラウドを、社員の業務や用途に応じて使い分けた。
インテルでは、社内のIT化を進めることによって、「2010年からの4年間で1億8400万ドル規模のコスト削減を実現した。価値を創出することにもつながった」と、邱地域部長はアピールする。
IT部門の取り組みを世界に発信
このところ、「SMAC」にもう一つの「S」の「セキュリティ」を加えて「SMACS」という言葉もIT業界で使われ始めている。インテルでも、社内でクラウドサービスやBYODを推進していくうえで、セキュリティ対策を重視している。システムのセキュリティ状況を解析し、その解析したデータを生かして、例えば社員が危険度の高いサイトに接続すると、その接続に問題がないかどうかを確認画面に表示したり、アラートを表示したりという仕組みを構築している。また、デバイスごとに利用できるサービスを制限している。GPSを使って、社員が社内でデバイスを使う場合はすべてのサービスを利用できるが、社外で使う場合は信頼性レベルを引き下げてサービスを利用できないようにするというものだ。
インテルでは、社内のIT化に取り組むことで、インテル自体がビジネスを手がけるうえで新たな価値を提供できる環境を整えている。そして、「IT@Intelプロジェクト」と称して、これまでのIT部門の取り組みを世界に発信し、さまざまな企業のIT部門の担当者が共有できるようにしている。
コスト削減や業務効率の状況を数値化しながら、成長するための新たなビジネス価値を創出する──。システムやサービスを導入する企業すべてに当てはまることといえる。インテルの取り組みは、ITベンダーがユーザー企業に提案するうえでの指標の一つになりそうだ。