市民ランナーの数が1000万人超ともいわれるほど、世はランニングブームである。2007年に始まった「東京マラソン」がその火つけ役とされるが、国民を健康にすることで医療費の削減を目論む国策も後押しした。いずれにせよ、マラソンブームは年々高まる傾向にあり、人気のマラソン大会には申し込みが殺到するようになった。そうしたなか、事件は2013年6月1日に申込み受付を開始した「第8回湘南国際マラソン」で起きた。
【今回の事例内容】
<導入企業> アールビーズ1975年12月にアールビーズの前身となるランナーズを設立。翌年には、のちのマラソンブームを支えることになる『月刊ランナーズ』を創刊する。以降、マラソン大会を企画するなど、さまざまな事業を展開してきている。1997年9月にはインターネット上にランニングのポータルサイト「RUNNET」を開設。大会の申し込みやグッズ販売などを通じて、多くの市民ランナーに活用されている
<課題>先着順で受け付けるマラソン大会へのアクセスが集中。処理ができなかったり、処理に多くの時間がかかったりしていた
<対策>回線とネットワーク機器を補強し、システム全体を安定させた
<効果>前年に4時間以上かかっていた長野マラソンの申込み受付が、30分以内に終了した
<今回の事例から学ぶポイント>クラウドにしなくても、数万アクセスであればオンプレミスで十分に対応できる
アクセス集中は全体の5%以下
マラソン大会の申込み受付は、大きく二つに分けることができる。一つは抽選で、もう一つは先着順だ。問題なのは、先着順のマラソン大会である。定員に達成した時点で申し込みが締め切られるため、受付開始時刻にあわせて、アクセスが集中することになる。人気マラソン大会では、数時間で定員に達してしまうことが多い。
ランニングのポータルサイト「RUNNET」を運営しているアールビーズは、同サイト上で多くのマラソン大会の申込み受付を担っている。アクセスが集中する大会では、順番待ちの画面(混雑画面)を表示し、順次受け付けることで対応してきた。
「アクセスが集中するのは、年に20大会ほど。全体の5%以下に過ぎない」とアールビーズでRUNNETのシステムを担当するマネージャーは語る。5%以下のためにどこまで投資すべきかは、難しい判断だった。
湘南国際マラソンでダウン
順番待ち画面で対応してきたアールビーズだが、湘南国際マラソンでは想定を上回るアクセスが集中してしまった。
「マラソンシーズンが始まる秋の大会ということから、湘南国際マラソンはとても人気がある。また、先着順の『手賀沼エコマラソン』の申込み受付が同日だったこともあって、予想以上にアクセスが集中した」とRUNNETのシステム担当マネージャーは語る。
2013年6月1日、湘南国際マラソンの受付開始時刻になった途端、10分間で20万アクセスを超えた。ルータと負荷分散装置のSSLアクセラレータがオーバーフローし、混雑画面すら表示できない状況に陥った。インターネット回線もひっ迫。結局、運よくアクセスできた利用者の申し込みだけで定員に達してしまう。利用者からの苦情が殺到し、RUNNETのFacebookページなども炎上。もはやその場しのぎではなく、システムの大幅な増強を決断せざるを得ない状況になった。
長野マラソンで劇的に改善
システムの大幅増強に向けて、アールビーズではRUNNETのシステム担当部門がこれまでのシステム構築経験を生かして増強策を検討し、自力で推進した。主な対応は次の四つ。
一つ目は、回線の補強。これまでの2回線から新たに2回線を追加し、合計4回線とした。また、100MBの専用線を1GBに増強した。二つ目はルータ。既存の約4倍の性能をもつ上位機種のルータに交換した。三つ目は、SSLアクセラレータと最大接続数の調整。SSLアクセラレータは上位機種に交換し、暗号化処理のキャパシティを向上させた。同時に、負荷分散装置へのアクセス量を適正に保つようにサーバーの最大接続数を調整した。四つ目が混雑画面の軽量化。画面の情報量を最低限にすることによって、ネットワーク全体に対するトラフィックを4分の1に軽減した。
さらに「アプリケーションサーバーについても、以前は1分間で50件の処理を想定していたが、およそ700件の処理ができるように増強した」(RUNNETシステム担当マネージャー)。
システム増強の効果は、10月26日が申込み受付開始日の「長野マラソン」で現れた。長野マラソンは、冬季五輪の会場になった場所を巡るコースが人気で、2012年は4時間以上の待ち行列ができていた。それが30分以内で定員に達するほど、スムーズに処理が完了したのである。
今後については、突発的なアクセス集中などの処理に強いクラウドの活用も考えられるが、個人情報を扱うため、セキュリティの観点から慎重に対処していきたいという。いずれにせよ、システム増強にある程度の手応えを感じたアールビーズ。今年も最大のヤマ場となるであろう湘南国際マラソンで真価が問われることになる。(畔上文昭)