大手総合ディスカウントストアのドン・キホーテ(大原孝治社長)は、今年3月、独自のポイントサービスつき電子マネー「majica(マジカ)」の運用を開始した。圧倒的な店舗開発力と商品開発力によって、リテール業界の風雲児としての存在感を示してきた同社だが、ここにきて課題として浮上したのが、顧客開発、すなわちマーケティングだ。「majica」は、顧客開発の基盤であり、オムニチャネルも見据えたさらなる成長のカギを握る新サービスだ。
【今回の事例内容】
<導入企業> ドン・キホーテ総合ディスカウントストアを中心に、グループ合計で約300店舗を全国展開する小売り大手。東証1部上場
<決断した人> オペレーション統括本部
情報システム部企画課課長
伊藤 裕 氏情報システム部の立場で、新サービスのシステム選定をリードし、社内のコンセンサスを形成した
<課題>顧客情報を網羅的に収集し、マーケティングに活用する仕組みがなかった
<対策>ポイント機能つきの電子マネーサービスを導入して、顧客開発の基盤に活用
<効果>すでに80万人の顧客に電子マネーが浸透するとともに、会員の購買情報を詳細に把握できるようになり、ロイヤルカスタマーづくりに役立っている
<今回の事例から学ぶポイント>将来の経営を支えるシステムを構築するプロジェクトは、信頼関係を築いて末永くつき合えるITベンダーをパートナーに選ぶことで、成功に近づく
お得意様の「顔」が見えない
ドン・キホーテは、雑多な商品を店内に所狭しと並べる「圧縮陳列」によって、買い物客に宝探しのような楽しさを提供してきた。店舗開発や商品開発に力を注いできたことが実を結んで、業績を伸ばしてきたが、近年、経営陣の意識は顧客開発に向き始めた。
もともと顧客開発のための取り組みをまったくしていなかったわけではなく、家電・ブランド品を会員専用価格で購入できる「家電御贔屓カード」や「ブランドメンバーズカード」などを展開し、一部の顧客情報の収集は行っていた。しかし、商品カテゴリごとの顧客情報をバラバラに取得していただけで、来店している顧客の層も掴んでいなかったし、どんな顧客がどれくらい買い物をしているのかなど、お得意様の「顔」が見えていなかった。
そこで、同社が顧客情報を網羅的に、しかも詳細に知るための手段として導入を検討したのが、従来の会員カードを統合したポイント機能つきの電子マネーサービスだった。情報システムを担当する立場で、新サービスの導入に主導的な役割を果たした伊藤裕・オペレーション統括本部情報システム部企画課課長は、「経営陣から、店舗開発や商品開発だけでなく、顧客開発も事業の重要な柱として検討していかなければならないという声が出たことで、そのための手段は販売戦略部などと連携してかなり前から検討していた」と振り返る。
情報収集の仕組みは、販売促進に役立つだけでなく顧客にとってもメリットを感じてもらえるサービスに紐づいていなければならない。状況が動いたのは3年前のこと。クラウド化などが進んだことで、「電子マネーサービスやポイントサービスのシステムの価格がこなれてきて、小さなリスクでサービスを導入できる見通しが立った」(伊藤課長)ことから、システムの選定に取りかかった。
安定性と柔軟性を同時に実現
まずはベンダー数社からヒアリングを行い、システムの提案をしてもらったうえで徐々に絞り込んでいった。選定のポイントになったのは、稼働の安定性と運用の柔軟性という二律背反に近い命題をいかに実現するかということだった。伊藤課長は、「電子マネーは、お客様にとっては現金と同じなので、いかなるときもシステムが止まることは許されない。一方、当社グループの店舗は、それぞれがバラエティに富んだ店舗づくりをしており、キャンペーンなども各店舗の裁量で個別にどんどん企画している。会員サービスのシステムとして、そうした店舗運営の細かな違いにも対応できるものにしなければならなかった」と説明する。
情報システム部と販売戦略部で意見の相違が生じるなかで、伊藤課長らは経営陣とも適宜コミュニケーションを取りつつ、社内でのコンセンサス形成に粘り強く取り組んだ。そして、昨年1月、富士通エフ・アイ・ピー(富士通FIP)の提案を採用することを決断した。「サーバ管理型電子マネーサービス」「ValueFrontポイントサービス」という二つのクラウドサービスを組み合わせて、ニーズに応えるシステムを、許容可能なコストで実現した提案だった。
ただし、実は富士通FIPのほかに、甲乙つけがたい提案をしてきたもう一社のベンダーも最終候補に残っていた。選定の決め手になったのは、「いかに末永くつき合える提案をしてくれたか」だったという。もう一社のベンダーも提案力はあったが、担当の営業マンが主導する、いわば「属人的な」提案だった。それに対して富士通FIPは、「今回の案件をきちんとプロジェクトとして捉えて、組織として継続して当社を支援してくれる方針が明確な提案をしてくれた。『majica』のサービスは、今後の当社の経営にとって非常に重要な位置を占めるので、長いつき合いができるかどうかは、欠かすことのできないポイントだった」(伊藤課長)という。
「majica」は、今年3月、消費税の改正前にサービスを開始した。カードそのものは購入すれば電子マネーとして使え、会員登録をすることでさらにお得なサービスを受けられるようになっている。取材時点(5月21日)で、すでに「majica」利用者は80万人を超えている。伊藤課長は、「想定以上にお客様に受け入れられ、売り上げにもつながっている。また、『majica』会員の購入単価が想像以上に高額で、顧客情報を深掘りしたきめ細かな販促施策にもつなげられそうだ。システムは現在のところ安定して稼働している。本格運用までのプロセスも比較的スムーズで、この種のプロジェクトとしては成功だと考えている。決して高い投資ではなかった」と手応えを感じている様子。将来は、このシステムをオムニチャネル施策の基盤としても活用していく考えだ。(本多和幸)

「majica」カード(イメージ)