AWS(Amazon Web Services)の普及は、クラウドを活用したシステム構築を得意とするCIer(クラウドインテグレータ)に大きく依存している。クラウド基盤の提供に力を入れるAWSにとって、CIerを中心とするパートナー企業の存在は不可欠だ。一方で、AWSを躍進のきっかけにしたCIerも多い。AWSのパートナー企業をみると、ベンチャー企業でも大手ITベンダーと同等以上の実績を残していることがわかる。AWSの強さはサービス内容そのもので語られがちだが、実はAWSとパートナー企業によるエコシステムの存在が大きい。とはいえ、パートナー企業について、アマゾン データ サービス ジャパンの今野芳弘・パートナ・アライアンス本部本部長は「やみくもに増やそうとは思っていない」と語る。AWSがパートナーとして認定する以上は、しっかりとした技術力や営業力などをもっていてほしいと考えているからだ。(取材・文/畔上文昭)
APNパートナープログラム
AWSは、APN(Amazon Web Services Partner Network)というパートナープログラムを用意している。このプログラムで用意するカテゴリは、「コンサルティングパートナー」と「テクノロジーパートナー」の二つ。「コンサルティングパートナー」は、SIerやCIerなどのインテグレータ、「テクノロジーパートナー」はISVやプラットフォーム事業者などが対象だ。
パートナー企業には、「プレミア」「アドバンスト」「スタンダード」「レジスタード」の四つのレベルがある。AWSは通常「スタンダード」以上をパートナーと呼んでいるが、広義では「レジスタード」もパートナーに入る。それぞれに参加要件があるが、「プレミア」については公開していない。ちなみに、日本企業で「プレミア」に認定されているのは、アイレット(cloudpack)と野村総合研究所の2社だけだ。
「レジスタード」は、パートナーになることを希望しているが、まだ実績が少なかったり、技術者の数が少なかったりして、「スタンダード」の要件を満たさない予備軍としての位置づけ。APNパートナー向けのサイトでAWSを試用することができ、トレーニングも用意されている。ちなみにレジスタードパートナーの登録社数は、数百社になるという。
AWSは、APNパートナーに対して、「セールスサポート」「テクニカルサポート」「マーケティングサポート」「アライアンスサポート」という四つのサポートを提供している。「セールスサポート」では、パートナーの営業活動を支援する。例えば、AWSの営業スタッフが同行したり、提案時にAWSのアーキテクチャをレビューしたりする。「テクニカルサポート」は、技術者の育成、ベータプログラムへの参加、トレーニングへの参加などを提供。「マーケティングサポート」は、パートナーのマーケティング活動を支援。「アライアンスサポート」は、パートナーのビジネスの活性化を支援し、問題点があれば解決するサポートを提供する。
APNパートナーのソリューションが試用できる「AWS Test Drive」
AWSは、APNパートナーのビジネス支援策として、「AWS Test Drive」というサービスを提供している。これは、APNパートナーのソリューションに興味をもったユーザー企業に、そのソリューションを無償で試用できる環境を提供するサービスだ。
ユーザー企業は購入前にAWS上で実際に使うことができるので、機能の確認のほか、パフォーマンスのチェックなどに活用できる。試用にあたっての登録情報は、ソリューションを提供するAPNパートナー企業に届き、試用したユーザー企業へのコンタクトを取ることができる。
4月17日にスタートしたこの「AWS Test Drive」は、現在、第一弾として8社のAPNパートナーが提供する12のソリューションが試用できる。もちろん、今後も増やしていく予定だ。
最適なAPNパートナーが検索できる「APNコンピテンシー」
「ビッグデータやERPなどのソリューションで、AWSで最も実績のあるAPNパートナーは?」「APNパートナーが多すぎて、どこに頼んだらいいのかわからない」。こうしたユーザー企業の声に応えるのが、「APNコンピテンシー」だ。これは、AWSのウェブサイト上でソリューションなどの条件を選択すると、画面上にAWSがおすすめするパートナー企業が出てくる仕組み。これまでも米国版のAPNコンピテンシーを提供していたが、新たに日本版として7月に公開する予定だ。
分野は、「ビッグデータ」「マネージドサービスプロバイダ(MSP)」「Microsoft SharePoint」「Microsoft Exchange」「SAP」「Oracle」の六つ。「APNコンピテンシー」の認定は、APNパートナーの申請をAWSが事例数やエンジニア数などで審査して決定する。

米国で提供している「APNコンピテンシー」トレーニング&認定試験
●ビッグデータ活用のトレーニングコースも登場予定 AWSは、トレーニングプログラムが充実している。これまでは初心者向けが中心だったが、「プロフェッショナル」や「スペシャリティ」という実務者や上級者向けのコースも提供する予定だ。各コースには、APNパートナー向けに優遇制度を用意している。
●大阪でも認定試験の受験が可能に 認定制度は、「アソシエイト」「プロフェッショナル」「マスター」のレベルを設定している。すでに提供しているアソシエイトレベルに加え、上級レベルの認定試験も今後は追加していく予定だ。また、東京だけだった試験会場に、6月末からは大阪会場が加わった。
セキュリティリファレンス
セキュリティの不安が指摘されるクラウドだが、AWSは高いセキュリティ基準をもつ金融機関でも運用できる。それを示したのが、「金融機関向け『Amazon Web Services』対応セキュリティリファレンス」だ。
リファレンスでは、金融情報システムセンター(FISC:The Center for Financial Industry Information Systems)が提供する「金融機関等コンピュータシステムの安全対策基準・解説書」第8版に適合させる対応策を具体的に提示している。参加企業は、SCSK、シーエーシー、TIS、電通国際情報サービス、トレンドマイクロ、野村総合研究所、三井情報。リファレンスは、各社のウェブサイトからダウンロードできる。
AWS導入ガイド
APNパートナーの6社が、AWS関連のビジネスを展開してきたなかで得たノウハウやFAQ(よくある質問)をもとに作成したのが、「エンタープライズAWS導入ガイド」だ。ここでは、システムの構成例や運用方法、データやサーバーの移行方法などを紹介している。契約上のポイントも載っているので、AWSの導入を検討するときに役に立つ。
ガイドラインを作成したのは、アクセンチュア、アビームコンサルティング、伊藤忠テクノソリューションズ、サーバーワークス、日本ユニシス、日立製作所。各社のウェブサイトからダウンロードできる。
クラウドが普及してもSIerの仕事はなくならない 三位一体のAWSエコシステム

アマゾン データ サービス ジャパン
今野芳弘
パートナ・アライアンス本部
本部長 「よく勘違いされるのが、クラウドが普及すると、SIerの仕事がなくなってしまうのではないかということ。確かに、サーバーなどのハードウェア販売に依存したビジネスのままでは、仕事がなくなっていくかもしれない。メインフレームからオープンシステムへのダウンサイジングが進んだときも、同じことが起きた。ただし、それでSIerの仕事がなくなるというのは間違っている」と語る今野本部長。むしろ、ハードウェアの調達に左右されないぶん、多くのSIerにとってチャンスになる。CIer(クラウドインテグレータ)と呼ばれるITベンダーの台頭も、多くのチャンスがクラウドにあることを示している。
AWSのビジネスは、SIerやCIerなどのITベンダーなしでは語ることができない。インテグレーションを手がけないAWSにとって、パートナー企業の存在は非常に大きいのだ。今野本部長は、「AWSの強さを支えているのは、間違いなくパートナー企業。AWSは、ユーザー企業のシステムを開発したり、運用したりせず、そこはパートナー企業に任せている。それどころか、パートナー企業が市場を開拓し、販売促進活動もしている」と説明する。
AWSにとっては、パートナー企業に加え、国内最大級の開発者コミュニティ「JAWS-UG」と、昨年立ち上がったユーザー企業のコミュニティ「Enterprise JAWS-UG(E-JAWS)」の存在も大きい。JAWS-UGの活動は全国に広がり、40を超える地域の団体が自発的に活動している。そしてE-JAWSは、開発者によって運営されているJAWS-UGとは違い、AWSが運営。コミュニティの参加企業をAWSが選定し、約40社が名を連ねる。
「AWSのエコシステムは、JAWS-UGとE-JAWS、それからパートナー企業によって成り立っている」(今野本部長)。なかでもJAWS-UGの活動は力強く、“異様な”盛り上がりをみせている。これはAWSが開発者にとって魅力的であることの証であり、夢中にさせる何かがあるということだ。そして、JAWS-UGの盛り上がりが、パートナー企業の技術力向上につながっている。
「パートナー企業の技術力の向上は、クラウドを有効活用したいユーザー企業にもメリットがある。その結果、パートナー企業の案件が増えて、ビジネスが拡大していく。そういうサイクルだ」と今野本部長は語る。AWSはエコシステムを強化するためにトレーニングコースや認定制度を充実させ、「テストドライブ」や「APNコンピテンシー」という新たな施策にも取り組み始めている。