インターネットイニシアティブ(IIJ)は、社内やグループ会社間の情報共有の活性化を狙いとして、今年5月、社内ビデオポータルを開設した。人気動画共有サイト「YouTube」にちなんで「IIJ Tube」と名づけたもので、社員がビデオを公開し、共有することができる。同社は動画をツールに、場所を問わず、情報を的確に伝えることで培ったノウハウを、今後のビジネス展開に生かしていく。(取材・文/ゼンフ ミシャ)

社内ビデオポータル「IIJ Tube」のスタート画面。会社がカメラや編集ツールなどの機材を貸し出し、社員はビデオをアップロードして共有する ITベンダーは、ソリューション提案の腕を磨くために、常日頃から社内改革に乗り出している。コンテストによって現場の技術力を引き出したり、活発な情報共有で案件を発掘したり……。斬新な取り組みを進めているITベンダーにスポットを当てて、社内改革の最前線をレポートする。
IIJは1992年の設立からおよそ20年の間に、創業社長の鈴木幸一氏(現会長)が自ら全社員の人事評価の面接を行うベンチャー企業から、グループで2300人以上の社員を抱える上場企業に成長した。このほど、本社を東京のJR飯田橋駅周辺に移転し、新たな成長に向けた体制づくりに取り組んでいる。IIJが組織の肥大化に伴う課題と認識したのは、会議が多いにもかかわらず、社員同士の情報共有が活性化しないということだ。
手が空いたら視聴

IIJ
関一夫
課長 「果たしてこの会議をやる意味があるのか」。マーケティング担当が各部門の社員を集めて、同社の製品・サービスのアピール方法についてレクチャーする会議に参加した社員の数があまりにも少なく、現場は疑問を抱いた。レクチャー内容を録画し、ビデオを専用コーナーに置くことも試みたが、「そのコーナーに行かないと手に入らないので、使いにくい」 と、社員には不評だった。こんな経験から、ビデオポータルをつくろうというアイデアが生まれた。
社内のIT活用を担当する関一夫・事業基盤システム部情報インフラ課長が指揮を執って、部門を横断するプロジェクトを立ち上げた。今年の5月12日に「IIJ Tube」を開設した。このポータルは、米Qumu(クム)が提供するビデオストリーミングのツールを採用して構築したもの。日頃から、海外ベンダーの有望商材に敏感なIIJがいち早くQumuのツールに着眼し、日本で初ユーザーとして導入を決めたという。社員は「トレーニング」や「ナレッジ」と、カテゴリごとに動画をアップロードし、社内システムの使い方や営業提案のポイントなど、自分の知識をほかの社員とシェアする。
ビデオだから、手が空いたときに視聴できて便利。「IIJ Tube」は好評で、スタートからの約4か月でユーザー数が1100人ほどに増えている。とくに、ナレッジ共有に関してのニーズが旺盛で、このカテゴリでの公開ビデオ数は125本と、全カテゴリのなかで最も多い。「会議をやめて、伝えないといけないことはビデオに撮って『IIJ Tube』で共有することも増えてきて、仕事の段取りが改善しつつあることに手応えを感じている」(関課長)と語る。
「GIO」上で販売を検討
IIJが、有効な情報共有の媒体として動画に期待を寄せているのは、情報を短時間でわかりやすく伝えなければ、視聴者がビデオに飽きてしまい、興味をもたれない、という特性があるからだ。「だらだらと話して、ビデオが長くなったら、誰も見てくれない」と関課長は指摘する。仕事に役立つナレッジを簡潔にまとめるノウハウは、あらゆるビジネスシーンで役に立つ。社員が「わかりやすさ」を意識して情報共有に取り組み始めていることは、まさにビデオ活用の成果といえよう。
ポイントは、経営陣もビデオ活用に巻き込み、全社レベルで情報共有を活発にすることだ。関課長は「鈴木会長や勝(栄二郎)社長はまだ『IIJ Tube』を使いこなしていない」と苦笑しつつも、「今後、幹部社員も利用するように促したい」としている。現在は、IIJの海外拠点でロンドンが「IIJ Tube」につながっているが、年内をめどに、上海など、ほかの海外拠点も接続し、グローバル規模でビデオを活用していく。
さらに、自社活用の「ビジネス化」にも取り組む。「Qumuのツールを当社のクラウド『IIJ GIO』に載せて販売することを検討している」(関課長)という段階だ。現場で培ったノウハウを生かして、新たな商機をつかもうとしている。