ひとたび人気に火がつくとユーザー数が急増するオンラインゲーム。事前に予想するのは難しく、急激な変化に対応できるクラウドサービスが登場するまでは、サーバーなどのリソース管理が課題となりがちだった。今ではゲーム業界にとってクラウドが必須のインフラとなったが、何でもいいわけではない。ゲームの内容が違えば、必要になるリソースも変わるからだ。オンラインゲームで豊富な実績をもつAiming(エイミング)は、クラウドを選定するにあたって、営業担当者の“ゲームに対する理解度”を重視した。
【今回の事例内容】
<導入企業>Aiming(エイミング)オンラインゲームの企画やプロデュース、開発、運営などを手がける。会社設立は2011年5月だが、中心スタッフはオンラインゲームでおよそ10年のキャリアがある
<決断した人>野下 洋 氏(左) 企画・運営グループ インフラエンジニア
保泉高広 氏 開発グループ リードソフトウェアエンジニア
ゲーム開発や運営の豊富な経験から、ゲームのタイトルごとに最適なクラウドサービスを選択している
<課題>オンラインゲームではクラウドの採用が一般的だが、細かな要望が多い。それをよく理解しているベンダーでなければ対応できない
<対策>ゲームのタイトルごとにコンペを実施。ゲームの内容を理解した提案かどうかで判断する
<効果>クラウドサービスのほか、必要に応じて物理サーバーを活用するという最適な提案を得られた
<今回の事例から学ぶポイント>クラウドの契約はオンラインで完結できるところがメリットの一つだが、ベンダーの提案も重要
ゲームごとにコンペを実施
オンラインゲームの企画やプロデュース、開発、運営などを手がけるAiming。2011年5月設立の若い会社だが、同社が制作したゲームタイトルはすでに11を数える。
オンラインゲームは、人気によってサーバーの負荷の増減が大きく左右されることから、現状はインフラを柔軟に調達できるIaaSやPaaSなどのクラウドサービスを採用するケースが多い。Aimingも例外ではないが、ゲームのタイトルごとにコンペを実施することを方針にしている。その理由について、Aiming開発グループ リードソフトウェアエンジニアの保泉高広氏は、次のように語る。
「ゲームによって、サーバーに必要なリソースや設定などが異なる。一つのクラウドサービスに縛られると、いろいろなゲームに対応できない。オンラインゲームは常に進化しているので、なるべく多くの会社から情報を収集して、ゲームごとに最適なサービスを選んでいる」。
この方針に沿って、AimingがRPG(ロールプレイングゲーム)の「ソード オブ ナイツ」、ゴルフゲームの「スマホでゴルフ! ぐるぐるイーグル」(ぐるぐるイーグル)という二つのゲームで採用したのが、フュージョン・コミュニケーションズ(フュージョン)のクラウドサービス「FUSION Cloud」だった。
DBには物理サーバーを採用
ゲームごとに最適なクラウドを採用するとはいえ、Aimingが最も重視するのはコストである。
「まずはコストを意識する。次にサービスが利用者側の目線かどうか。当社ではフィリピンの現地法人がインフラの運営や保守を担当している。そのため、英語版のメニューが必須なうえ、現地のスタッフが使いやすいかどうかも重要。その点、フュージョンのクラウドは癖がなく、現地スタッフもすんなり受け入れている」と、企画・運営グループインフラエンジニアの野下洋氏は評価している。
フュージョンを採用する大きな要因となったのは、営業担当者の理解度だった。「例えば『ここがボトルネックになる』と説明すると、通常の営業担当者はスペックを上げる提案をしてくる。フュージョンの営業担当者は、ゲーム業界をよく理解しているうえ、技術的な話にも強い。すぐに話が通るし、スペックに頼らない解決策を提案してくれるのがありがたい」(保泉氏)。
Aimingがぐるぐるイーグルでクラウドサービスのコンペを実施したのは、2013年6月。採用を決めてから、翌年の4月にこのゲームを公開した。採用後の評価として、「サーバーの設定を『テンプレート化』するにあたって、インスタンスの再起動が不要。一般的には、再起動が必要になるので、そこは大いに助かっている」と野下氏は実感している。テンプレート化しておけば、急なサーバー増強のリクエストにも容易に対応できる。
オンラインゲームは、データベース(DB)への読み書きが集中することから、そこがボトルネックになりやすい。そこでAimingは、フュージョンがオプションとして提供しているブロックストレージを採用した。このオプションは、クラウドではなく、物理サーバーを利用するサービスになっている。物理サーバーでは、クラウドのメリットであるフットワークのよさを享受できないことになるが、「対応が速い。急を要するときでも、すぐに準備してくれる」(保泉氏)という。フュージョンは、需要を予測して、ある程度の在庫を抱えているとのことである。
Aimingは、2作連続でフュージョンのサービスを採用したが、前述の通り、常にコンペを実施している。その緊張関係が、オンラインゲームだけでなく、クラウドの進化も支えているといえそうだ。(畔上文昭)

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