サンフランシスコ発▼ラリー・エリソン氏は、終始、上機嫌だった──。米オラクルが9月28日から5日間、米サンフランシスコで開いた同社最大の年次イベント「Oracle OpenWorld(OOW)2014」で、CEO(最高経営責任者)を退き、CTO(最高技術責任者)に就任したばかりのエリソン氏は、「No.1クラウドベンダー」になると宣言した。技術的な準備を昨年度(14年5月期)に終え、一気に顧客への販売を拡大する段階にきたという。同時に、クラウドに特化したパートナー制度も発表した。日本では「なるべく早く始める」(日本オラクルの杉原博茂社長)と、今年度(15年5月期)中にクラウド特化型のパートナー制度を開始する勢いだ。(取材・文/谷畑良胤)

CTOになったエリソン氏は、「CTOなのだから、やらなければ」と、デモも自らが行ったSaaS型アプリでSFDCを超えた
米オラクルはOOWの前に、創業者のラリー・エリソン氏がCEO(最高経営責任者)を退任し、CTO(最高技術責任者)に就任すると発表した。後任CEOには、CFO(最高財務責任者)だったサフラ・キャッツ氏と現社長のマーク・ハード氏が共同で着任した。今回のOOWは、CEO交代を受けた初の大イベントとして3氏の発言が注目された。
初日の基調講演で、エリソン氏はCTOとして熱弁をふるった。CEO時代のここ数回のOOWでは「多くのテクノロジーをクラウドに移す」と、全面的なクラウドシフトを宣言していた。だが、パートナーやユーザー企業が望む機能やサービスなどのアップデートは少なく、期待を裏切っていた。
ところが、今回はその状況が一変。エリソンCTOは「セールスフォース・ドットコム(SFDC)のSaaS、Amazon Web Services(AWS)のような安価なクラウドサービスなど、トップベンダーを超えるサービスやインフラを手にした」と、SaaS、IaaSの整備だけでなく、「共通PaaS基盤」と呼ぶPaaSの利用が可能になったことを自慢げに語り、競合他社の追撃を本格的に開始すると述べた。

サフラ・キャッツCEOは、パートナーへの感謝の意を表した 実際にSaaS型のアプリケーションの数は、SFDCを超えた。エリソンCTOは「大型ERPでは当社が初」と、自社開発や買収で得たサービスの数を誇示した。IaaS環境では、オラクルプラットフォーム「Engineered Systems」の強化点を多数明らかにした。また、SFDCやネットスイートなどを含めた有力クラウドベンダー上位10社のうち9社までが、最新データベース「Oracle Database 12c」を含むオラクルのインフラを使っているという。
最大のポイントとして、「IaaS、PaaS、SaaSのすべてをマルチテナントで利用でき、ボタン一つでオンプレミスのソフトウェアがクラウド化できるのは当社だけ」と、エリソンCTOは自慢した。基本的にデータベースがオラクル製であれば、オンプレミスとクラウドを“行き来”できる環境が完成したことになる。
無償の新制度、日本では今年度にも

新製品・サービス、パートナー制度を早期に日本に導入することに意欲を示した日本オラクルの杉原博茂社長 一方、エリソンCTOの基調講演の前には、例年の通り、「Oracle PartnerNetwork(OPN)」に参加するパートナーを集めて、新パートナー制度を発表した。担当責任者のリッチ・ジェラフォ上級副社長が公表したのは、「Oracle PartnerNetwork Cloud Connection」というクラウドに特化した制度だ。
この制度は、SIerやリセラー、ISV(独立系ソフトベンダー)などが対象だが、従来なら参加するために必要だった一定の条件がなく、幅広い層へ拡大する。また、無償でOPNのプログラムを利用できる。詳細は明らかにしていないが、個人でもベンチャーでも、オラクルの基盤上でSaaSアプリを開発したりできるようだ。
OOWで明らかになったパートナー制度は、とかく日本での適用が遅れがちになる。ただ、日本オラクルの杉原博茂社長は、BCNの質問に答え、「今日(OOWで)示された新施策を念頭に置いて、特別チームをつくって展開方法を検討する」と、早期の新制度開始をにおわせた。
また、この日は、パートナーを前にして、キャッツ新CEOが就任後初めて公の場に姿を現した。世界中のパートナーによるオラクル製品の導入実績を改めて確認した際、「うれしさのあまり、涙ぐんでしまったほど」と感謝の意を述べ、パートナーとのさらなる関係強化を誓っていた。
米オラクルの動きをみる限り、いわゆるサービス(SaaS)の部分では他のクラウドベンダーとの差異化が難しく、むしろインフラ側のテクノロジーで差異化を図り、超高速のビッグデータ解析などの分野で他を圧倒する戦略と捉えることができる。