日系ITベンダーは、中国市場で10年出遅れた――。日系SIer幹部は「中国を巨大市場として見なすタイミングが遅すぎた」と声を揃える。中国ビジネスが拡大するにしたがって、その先を行く欧米ITベンダーや地場有力SIerとの差がみえてきたのだ。
シェア拡大の突破口を探せ
「彼我の差を感じる」との声も
日本の有力SIerは、中国市場に相次いで進出している。しかし、中国地場のビジネスが拡大するに伴い「彼我の差を感じる」(大手日系SIer幹部)と、次のステップへのハードルの高さを実感する場面が増えているという。巨大市場の中国には、欧米有力ベンダーも多数進出しており、地場企業の実力もメキメキと伸びている。激しい競争のなかで、今、日系SIerが置かれているポジションや、今後のシェア拡大の方策を追った。
シェア獲れずにジレンマ 「日本の情報サービス業は、欧米のITベンダーに比べて中国市場で10年は出遅れている」。こう指摘するのは、有力SIerである京セラコミュニケーションシステム(KCCS)中国法人の呉國濱副総経理だ。
KCCSは中国法人を設立して11年目を迎え、社員数は110人余り。日系SIerの中国法人の規模としては大きく、これまで京セラグループのITサポートを中心に事業基盤を拡大してきた。従業員数5000人を超える京セラグループの製造拠点をはじめ、複数の事業所のITサポートを引き受ける。大規模案件への対応力が高まったことから、第2ステップとして中国に進出している日系企業へのサポート・サービスに乗り出している。
次の第3ステップでは、「中国地場の有力ユーザー企業の案件獲得を視野に入れる」(KCCS中国法人の李紅光副総経理)ものの、事前のマーケティング段階で分かったことは「第2ステップの単純な延長線上に、第3ステップがあるわけではない」(同社の柏木剛総経理)ことだった。
中国の情報サービス市場における外資系ベンダー別シェアをみてみると、IBMやヒューレット・パッカード(HP)、アクセンチュア、デルが上位に名を連ね、4社のシェア合計は20%を超えている。参考までに世界の情報サービス市場のシェアに目をやると、富士通や日立製作所、NTTデータ、NECといった日本のITベンダーが上位に食い込んでいる。
日本の情報サービス産業動向に詳しい北京アウトソーシングサービス企業協会(BASS)の曲玲年理事長は、「世界市場でシェアを獲れている日系ITベンダーだが、なぜか中国ではシェアが十分に確保できていない。中国ではIBMやHPなど外資系が上位に食い込んでいることをみても、中国市場が対外的に閉ざされていることは決してない」とみており、日系ITベンダーは中国市場への参入機会を生かし切れていないことを指摘する。
世界の情報サービス市場ではそこそこのポジションを占める日系ITベンダーだが、こと中国市場ではまとまったシェアが獲れていないという厳しい現実が横たわる。

写真左から京セラコミュニケーションシステム(KCCS)中国法人の呉國濱副総経理、柏木剛総経理、李紅光副総経理
失われた10年を取り戻せ  |
杭州NTTデータ軟件 長井隆史総経理 |
中国で2000人規模の要員を抱える最大手のNTTデータで金融・保険分野を担当する杭州NTTデータ軟件の長井隆史総経理も、中国市場において、日本の情報サービス業界は欧米ITベンダーに比べて10年出遅れていると感じている一人だ。「日本のやり方そのものを中国にもってきてもうまくいかない。日本のよさを生かしながら、別の手法を展開する必要がある」(長井総経理)と話す。
日本の情報サービス業が中国で出遅れた背景には、グローバル化そのものに出遅れていたことや、オフショアソフト開発に傾注しすぎていたことなどが挙げられる。グローバル化を積極的に進めた富士通でさえも、中国では「ソフト・サービスを中心とするソリューションビジネスの拡大が急務」(富士通中国の高澤信哉総経理)というように、ハードウェア寄りのビジネス比率が、日本を含むグローバル平均よりも高いことを課題に挙げている。
中国は“世界の工場”として驚異的な発展を続けるが、その一方で“世界の市場”としても成長している。日本の情報サービス業は、オフショア開発拠点を中国に置くことによって“世界の工場”としていち早く中国を取り込んできたものの、そのぶん“世界の市場”として認識するタイミングは遅れたといえる。
中国の情報サービス市場は、ここ数年、年率30%前後で急成長している。2010年の中国のソフトウェア・情報サービス業の売り上げは前年比34.0%増の1兆3364億元(約16兆0368億円)に到達。2011年も前年同様の高い伸び率になる見込みだ。
向こう5年間、少なく見積もって年2割ずつ伸びたとしても4兆元規模(約48兆円)と、日本の数倍の大きさになる。最終的には人口規模から類推して日本の10倍の市場規模になる潜在能力があるだけに、日本の情報サービス業にとって中国市場はまさに生命線となる。
では、どうしたら“失われた10年”を取り戻すことができるのか。次ページ以降、そのことをレポートする。
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