●【NEC】
生産者だけでなく流通・小売りまでをカバー 
NEC
大畑毅シニアエキスパート NEC(遠藤信博社長)は、ハウスなどを利用する施設園芸農家向けに、生産性の向上や生産物の品質改善を支援する「農業ICTクラウドサービス」を提供している。園芸ハウスに警報センサや環境センサを設置して、温度や湿度など、農産物の生産管理に必要な情報をクラウド上に収集し、スマートフォンやタブレット端末などを使って、ユーザーが遠隔地からハウス内の状況をリアルタイムにモニタリングできるサービスだ。グループウェアの機能も搭載しており、営農日誌を作成したり、農薬散布の記録をとったりすることも可能。農家は、手元のスマートフォンから農場の状況を確認することで、見回りにかかる手間を減らすことができる。ユーザーインターフェース(UI)は、ITの知識が乏しい人でも簡単に使うことができるよう、できるだけシンプルにしている。
NECは、農業用資材を提供するネポン(福田晴久社長)、全国農業協同組合連合会(JA全農)と協業して、農業ICTクラウドサービスを提供している。JA全農が全国の組合員生産者に対して販売を推進し、その他の非JA系の農家は、ネポンなどパートナーが販売する。NEC新事業推進本部の大畑毅シニアエキスパートは、「現在、およそ100農家が導入している。全国には約22万の施設園芸農家が存在するが、このうち1万の農家に当社のクラウドサービスを利用してもらう」との目標を掲げている。
しかし、NECは、農業生産者に対して農業ICTクラウドサービスを提供するだけでは収益のボリュームが小さいとみている。「農家は、月に1万円以上をITに投資しようとは思っていない。だから、サービスの月額使用料は、数千円程度に設定している。農家の経営状況が恵まれているとはいえない状況で、NECだけが儲けるということは考えていない」(大畑シニアエキスパート)というスタンスだ。
それでは、NECは農業クラウドのビジネスモデルとして、どこで収益を上げようとしているのだろうか。このことについて、大畑シニアエキスパートは、「農業の生産額は約9兆円ほどだが、流通や飲食店など、生産から消費までを含めた市場は、その10倍になる。今後5年間をめどに、この領域までカバーできるようにしたい」と見通しを述べている。
つまり、農業生産者を支援するクラウドサービスだけを提供するのではなく、流通や小売りを含めた食・農全体を市場ととらえてサービスを提供しようとしているのだ。そのときに、生産者側からクラウド上に収集したデータが、流通や消費者へのトレーサビリティとしての役目を果たすというわけだ。
●【富士通】
サプライチェーン全体を覆う「Akisai」 
富士通
若林毅 SVP 富士通(山本正已社長)もNECと同様に、生産から消費者に届くまでのサプライチェーン全体をターゲット領域に据えることで、ビジネスモデルを構築しようとしている。12年10月に提供を開始した食・農クラウド「Akisai」では、農業生産管理を扱う「生産マネジメント」と「集約マネジメント」で、そのモデルが如実に浮かび上がっている。農業生産者向けの「生産マネジメント」は、生産・作業・収穫・出荷の実績などの情報をデータとして集計・分析して、農業の経営・生産・品質を向上するサービスだ。これに対して、「集約マネジメント」は、多数の契約生産者と連携する食品加工や卸、小売、飲食業などを対象としており、生産計画や生産履歴、収穫量などの情報を集約して管理する。生産者向けのサービスを起点として、流通や小売りまでのバリューチェーンを結ぶことで、市場を大きくとらえているのだ。確かに、2010年の農業の国内生産額は9兆3808億円であるが、農業・食料関連産業全体での国内生産額は94.3兆円で、ボリュームは十分にある。
富士通ソーシャルクラウド事業開発室の若林毅SVP(シニアバイスプレジデント)は、「流通、自治体、農業法人など、食にかかわるさまざまなお客様からすでに500件ほどの問い合わせをいただいている」と好調さをアピールしている。富士通は、2015年度までに「Akisai」で累計150億円の売り上げと、2万事業者への販売を目標に据えている。
しかし、富士通の「Akisai」は、NECのICTクラウドサービスに比べると、価格が高い。例えば、「生産マネジメント」は、月額使用料が最小構成の5IDで4万円となっている。このことについて若林SVPは、「強く大きくなっていこうとしている農業生産者がターゲットだからだ。実は、ITに積極的な農家や大規模農家が、各県に一つくらいの割合で出てきている。こうした生産者は、『Akisai』の価格が高いとは考えていない」と説明する。
富士通は、生産者のターゲットを大規模な農家にセグメントしたのだ。こうした農家は、もともと流通業者と契約を結んでいる場合が多く、安定した農産物の生産を求められるので、多少単価が高くても儲かるという仕組みになっている。
富士通はこれらの販売ルートについて、大規模農家などには、地方に強い富士通マーケティング(FJM)など、パートナーと協力して拡販していく。また、全国のJAには「集約マネジメント」を提案していく。「JAも、生産者の質を向上しなければ、大規模化した農業法人などに対抗できない」(若林毅SVP)からである。また、FJMとは、食品業向け基幹システム「GLOVIA smart 食品 FoodCORE」と「Akisai」を将来的に連携して、サプライチェーンを強化するということも検討している。
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