●【日本IBM】
未利用魚の高付加価値化に勝機 
日本IBM
加茂義哉 事業部長 漁業では、水揚げしてからでないと漁獲量がわからないので、ITの活用は、水産物の生産性の向上という方向では難しく、水揚げ以降の工程に限定される。
日本IBM(マーティン・イェッター社長)スマーター・シティー事業第二社会インフラ事業開発の加茂義哉事業部長は、「現在の漁業では、水産物の物流と情報の流れとが一致していない。水揚げ場や漁獲日時、魚介類の温度などの情報が、流通業や消費者に正確に伝わっておらず、トレーサビリティが実現されていないのが現状だ」という。実際、物流の現場では、こうした情報をいまだに紙に書き込んで記録しているケースもある。この結果、情報の管理に手間がかかってしまい、水産物の鮮度を損なってしまう要因の一つとなっている。こうした背景から、日本IBMは、水揚げ場や漁獲日時、魚介類の温度などの情報を、RFIDタグとセンサを活用してクラウド上に収集して、トレーサビリティを実現するシステムを開発した。管理の手間を省き、鮮度を保ったままの魚介類を消費地に届けることができるというものだ。例えば、以前行った実証実験では、鮮度が落ちやすく、鍋などでしか食べられなかった「マダラ」を、システムを活用して飲食店に高速で輸送して、刺身をメニューに載せることができるようにした。
さらに、近年、日本IBMが注目しているのが「未利用魚」である。「未利用魚」とは、ある特定の地域でしか食べる習慣がない魚や、深海魚などの見た目がグロテスクな魚など、通常の水産物の流通ルートには乗らない魚介類のことをいう。これまでは、商品としての利用価値が低く、あまり日の目をみなかったが、「トレーサビリティを活用すれば、『未利用魚』を高付加価値化できる」(加茂部長)という。実は、こうした未利用魚のなかには、味がよく、料亭などで提供できる魚が少なくない。トレーサビリティを活用すれば、こうした未利用魚を、鮮度を保ちながら全国各地へすばやく運ぶことができる。「値のつかなかった未利用魚が高く売れれば、漁業従事者にはうれしいこと。また、飲食店は、安く手に入れられるので、ニーズはそれなりに出てくるはずだ」(加茂部長)と期待している。
●【ミツイワ】
ITの枠を超えた水産商社に 
ミツイワ
本多隆史 部長 ミツイワ(小松拓也社長)もまた、「未利用魚」に目を付けて漁業クラウドを推進している。また、トレーサビリティという枠を超え、流通全般でビジネスモデルを考えている。ミツイワネットビジネス営業部水産流通営業グループの本多隆史部長は、「現在、漁業の物流は複雑化している。漁業生産者から最終消費者にわたるまでに多くの流通プロセスがあり、その結果、生産者は収益の大部分を中間マージンとして流通業者に取られている」と現状を分析する。
そこで、ミツイワは、水産物の新しい流通経路を形成しようとしている。「Fish-Book Buyer"s」は、クラウド上に各地の水産物の情報を収集して、売買取引を行うSaaS型アプリケーションだ。中間マージンをなくすことで、消費者が安く購入でき、生産者の収益が拡大する仕組みである。こうした直接取引であれば、水産物の鮮度を保ったまま消費地に届けることができ、「未利用魚」の流通経路としても活用可能だ。
ユニークなのは、「Fish-Book Buyer"s」が、無料のアプリケーションであるということだ。コストがまったくかからないので、生産者にとってデメリットがないし、リスクもない。しかし、無料なだけでは、ミツイワにとってのメリットがない。ミツイワは、どこで利益を得ようとしているのだろうか。
本多部長は、「実は、『Buyer"s』では、生産者から魚をミツイワが買い取って、消費者に販売する仕組みとなっている。ミツイワは、流通システムを提供するだけでなく、水産商社としての役割を果たす」という。つまり、IT企業の枠を超えて、水産業者として流通を取りもつのだ。また、本多部長は、「2010年の漁業の生産額は1兆4826億円だったが、このうちの40~50%が一般的には未利用魚の流通金額になる」という。つまり、「Fish-Book Buyer"s」の潜在市場は、およそ6000億~7000億円あることになる。
ミツイワは、13年度末までに、まずは5億円程度の売り上げを目指している。