平成25年度の中央省庁IT関連施策
注目の新規事業が2件
平成24年度の補正予算は確定し、25年度予算もすでに国会に提出され、成立を待つ段階に入った。政権交代の影響で本予算成立の時期が例年より遅れることもあり、この二つの予算は「15か月予算」として一体的に運用されるケースが増える。予算計上されたIT関連で注目の新規事業のなかから、政府の新たなIT戦略を先取りしているといえそうな施策を紹介する。
●ビッグデータ関連産業創出の基盤整備 
井出真司
総務省
情報通信国際戦略局
通信規格課
課長補佐 総務省の平成25年度予算では、新規事業として「ビッグデータ時代に対応するネットワーク基盤技術の確立」に25億円を計上した。24年度補正予算分も合わせると、事業の予算は52億円に達する。総務省のICT関連事業のなかでは最大の予算が割り当てられた。
具体的な施策は、「超高速・低消費電力光ネットワーク技術の研究開発」「ネットワーク仮想化技術の研究開発」「ビッグデータ用ネットワーク利用要素技術の研究開発」「新たなネットワークを用いる通信アプリケーションの研究開発」の四つ。このうち、光ネットワーク技術の研究開発は平成24年度からの継続事業で、NTT、富士通、NEC、日立製作所などが参加するオールジャパン体制で進められている。現状の10倍にあたる400ギガビット/秒級の省電力な高速大容量伝送技術を平成26年頃までに確立する。ビッグデータ関連施策を担当する井出真司・総務省情報通信国際戦略局通信規格課課長補佐は、「日本を代表する企業がお互いのノウハウ・技術を持ち寄って研究する場を用意できるのは、国のプロジェクトならでは」と、事業の意義を強調する。
25年度予算でとくに重点が置かれているのは、ネットワーク仮想化技術の研究開発だ。すでに研究開発課題の公募を始めており、36.4億円を計上している。増大し続ける通信トラフィック量に対応し、ビッグデータの多様な伝送要求にリアルタイムに対応するSDN(ソフトウェア・デファインド・ネットワーク)技術を確立する意向だ。
ビッグデータ関連の事業は、実は総務省だけが計上しているわけではない。今回の15か月予算では、経産省がデータセンター運用基盤技術の研究開発、文科省がビッグデータ利活用のためのシステム研究をそれぞれ新規事業として計上しており、総務省の事業と合わせて、「重要施策パッケージ」としてフォローアップは一定的に進められる方針だ。井出課長補佐は「総務省がまとめ役となって、データ収集・伝送基盤開発は総務省、処理技術の確立は経産省、利活用・分析技術開発は文科省が担当する。省庁間に横串を刺して関連施策をパッケージ化することで、産業競争力を高める成果を出したい」と説明する。概算要求の準備段階から担当者間の調整を継続しているということで、手応えを感じている様子だ。
ビッグデータは、総務省の審議会でもICT分野の新しい重要なトピックと位置づけられている。重点施策として取り上げられるのは自然な流れといえるが、米国政府はすでに昨年の3月に、「Big Data Research and Development Initiative」というビッグデータ活用に向けた大規模研究開発のスキームを発表している。これには、2億ドル以上の資金を投入する方針だという。今回の総務省予算の約4倍の規模で、さらに多くの研究機関や企業、非営利組織にも参加を呼びかけている。
各省庁の事業は、当然、日本のIT産業の国際競争力強化も目的としている。IT先進国でこうした積極的な取り組みが進むなか、どこまで実質的な成果を残せるのか。研究開発や実証事業の公募という枠組みだけでなく、多くのITベンダーを巻き込んだムーブメントづくりが必要だろう。
●標的型攻撃対策で解析、防御、演習まで実証 総務省は、「ICT環境の変化に応じた情報セキュリティ対応方策の推進事業」にも15か月予算で20億円を新規計上している。セキュリティ関連の目玉施策であり、要は標的型攻撃対策の実証事業だ。
総務省情報流通行政局情報セキュリティ対策室の中谷純之・課長補佐は「サイバー攻撃の脅威が高まっている。国会、政府機関、防衛産業など機密性の高い情報を扱う機関がサイバー攻撃を受け、実際に情報漏えいが発生している。国として何とか手を打ちたいということ」と、事業推進の背景を説明する。
実証のプロセスは、「標的型攻撃の実態把握、解析」「防御モデルの策定」「策定した防御モデルを用いた実践的な防御演習の実施」という三つのパートで構成される。
標的型攻撃は、おおよその手口は知られているが、実態の全貌はまだ明らかになっていない。まずは攻撃情報を収集し、実態把握に努める。
[次のページ]