【可能性】
スマートシティをビジネス化するうえでのヒントを得ることができるのは、スマートシティの先進国である中国だ。
中国各地の市政府は、急速に進んでいる都市化によって都市機能の改善が喫緊の課題で、スマートシティ化を必須の取り組みとして進めている。エネルギーや交通、市民向けサービス、環境保護などのあらゆる分野でICTを活用し、生活の水準を引き上げることによって「暮らしたい町」をつくる。スマートシティを武器に、激化しつつある都市間の競争に立ち向かい、市民の流出を防いでいるのだ。
日本の都市は、中国ほどインフラ整備が急務ではなく、スマートシティにかけることができるIT予算も限られている。しかし、都市の経済を支える市民の確保を課題としている点は、中国と共通している。
このところ、グローバル化が加速し、日本の各都市の優秀な人材が海外で働くケースが多くなりつつある。国内の都市間の競争も激しくなっている。そんな状況にあって、ポイントとなるのは、ライバル都市との差異化だ。ICT活用によって、ほかの都市にない、質の高い暮らしを実現すれば、優秀な人材の流出を止めることができる。
「予算がない」という問題も、差異化による経済の活性化をアピールすれば、解決することができそうだ。企業向け提案では、ITによって業務を改善したり、新しいサービスを開発することができることを経営層に訴える提案の仕方が注目を浴びている。
スマートシティに関しても、似たようなアプローチが可能だ。例えば、市政府のトップ層に対して、スマートシティの導入による経済効果を示し、何年かければ投資を回収できるということを具体的に訴求すれば、導入を決断するハードルが下がると考えられる。
●地元の経済を活性化 石巻では、市にスマートシティの活用を提言する「石巻ICT戦略会議」(図2参照)が動いている。ITベンダーとして、日本IBMやNTTデータ東北が参加しており、漁業や農業、観光といった分野でのICT活用を考えて、石巻市に提案する。
ITベンダーは、柏の葉や石巻をはじめ、各地で進むスマートシティのプロジェクトを参考に、ソリューションメニューを揃え、都市のそれぞれのニーズに応えた提案活動に取り組む必要がある。国内のIT市場が伸びないなかにあって、スマートシティでITの枠を超えたかたちで、新しい提案先、これまで視野に入れてこなかった予算を見つけて、スマートシティのビジネスモデルを模索することが問われる。
記者の眼
東京・大田区にある高級住宅街の田園調布では、ユニークなプロジェクトが進められている。「田園調布ファミリークリニック」を営む梅沢義裕院長が中心になり、日本アバイアのユニファイドコミュニケーション(UC)プラットフォームを活用して住民の健康情報を交換する仕組みをつくろうとしているのだ。
この仕組みでは、田園調布ファミリークリニックを地元の運動スタジオや保育園、高度医療病院などとつなげて、患者の健康情報を広範囲で管理する。例えば、クリニックで測定したメタボリックシンドロームの診断情報を運動スタジオに送って最適なダイエットプランをつくり、肥満解消の進捗をクリニックと共有するといったことができる。
仕組みの構築は、現在企画中。今後、NPO法人を立ち上げて、国の補助金を申請する。会員制度を設け、月額料金の徴収によって回収を目指していく。
スマートシティは、実現まで長い時間がかかるというイメージがあるが、田園調布の事例が示すように、実現しやすい「ミニ・スマートシティ」のかたちで取り組むという手もある。小さい範囲でスマートシティづくりに着手し、少しずつ拡大していけば、中小規模のITベンダーにとっても参入する敷居が低くなる。