同社の東東京支店長兼キャリアプロデュースの長岡博信・営業部長は、「中小企業では、月々の基本料金やカウンター料金の経費が負担になっている。コピーベースの複合機は使い勝手はいいが、お金がかかるというイメージを払拭したうえでの生産性向上など、有効利用する提案が的を射ている」と、プリンタを配置するケースの多い中小企業に、コピー機を中心とする集約化の有効性が認知されてきたとみている。
スターティアの「ネットワークソリューション事業」には、社内サーバーをクラウド上に移行し、運用業務を軽減するクラウドホスティングサービス「デジタリンククラウド」や、社内にファイルサーバーがあるのと同じ感覚でファイル共有できる「セキュアSAMBA」などのサービスがある。一方で、自社開発の電子ブック作成ソフトや複合機の販売・施工・保守に加えて、通信環境を意識したオフィスレイアウトが提案できるなど、ドキュメントまわりのオフィス向けソリューションで一日の長がある。「セキュアSAMBA」に関しては、コピー機を導入する企業の大半が同時期に利用を開始するまでになっている。
スターティアは、これらサービスとコピー機の販売を密接に連携させて、かゆいところに手が届く提案でSOHOを含む中小企業を攻めている。中小企業では、不必要なFAXが大量に届いたり、紙の文書保存量が増えてファイル棚が満杯状態にあることが多い。
長岡営業部長は「送信されたFAXをクラウド側のサーバーに保存して社外でも閲覧したり、スマートデバイスでFAXを送信できたりする商品など、さまざまな連携ソリューションを開発した。当社のもつクラウドに関する技術を生かして、コピー機を中小企業に販売している」と、従前のカウンター料金収入に頼るビジネスモデルを根底から変えた。中小企業でも、拠点を全国に抱える企業ほど、これらの提案がヒットしているという。
機器を販売する側でスターティアのような動きに拍車をかけているのが、依然としてコピー・プリンタ販売が台数ベースで伸び悩み、過当競争が激化してカウンター料金や消耗品価格を下げざるを得ない事情があることだ。機器販売に伴う収入が減ることで、とくにコピー販売で必要な保守メンテナンスを顧客先に派遣する要員の確保が難しくなっている。
販売台数は横ばいで推移したとしても、関連商品の価格下落で、粗利を稼ぎにくくなっている。スターティアに限らず、多くの事務機ディーラーも同じ状況だろう。前出の事業継続ができない事務機ディーラーから事業譲渡を受けた大手ディーラーは、あるメーカー製品のコピー機販売では地域トップだが、「連携するソフトやソリューションを提案できるスキルがあってはじめて成り立っている。他のSIerにできない分、ドキュメントまわりの得意技をもっていることは、競合優位に立てる」と幹部は語る。
コピー機の提案方法は、クラウドの普及と相まって完全に様変わりした。
【製品環境】
“マネージド的”な品揃えが必要
「分散化」への対応も必須
コピー機の提案方法は、クラウドの普及と相まって、ここ数年で様変わりした。「利用から所有へ」というより、「所有するならば、低コストで運用負荷が軽くなる」という提案にこそ、企業は価値を感じるのだ。大塚商会では、複合機・プリンタ活用アドバイザリーサービスという独自のサービスが好評だという。このサービスでは、電子文書化やFAXの紙出力廃止、スマートデバイスを使った業務効率化などで出力機器を100%活用し、適正な費用対効果を追求することを、機器導入前後に徹底している。「機器導入の目的と目標を達成できるようサポートする」(石川部長)ことで、リース切れなどのタイミングで他社機(リコー機以外)に入れ替えられることを防ぐ。
コピー機だけを訴求しているようにみえる同社だが、中小企業から大企業までの顧客を抱えていると“コピーで集約化一辺倒”では立ち行かないケースもある。同社は5年前、リコー製のシングルプリンタで、カウンター型の利用・保守ができる「M-PaC」を開始した。コピー機とシングル機を一体でカウンターチャージできる仕組みだ。
こんな例がある。建築・土木・解体などの架設資材レンタルの企業では、ドットプリンタでの複写式伝票印刷に多大な労力がかかり、印刷物の紛れ込みによる事故が発生する危険性を抱えていた。大塚商会は、同社に対して各拠点でA3カラーレーザープリンタを提案し、採用に至った。保守サービスにトナーや消耗品などの料金が含まれているので、既存の複合機で出力するよりもランニングコストは低く抑えられるようになった。
石川部長は「形は違えど、実質的にMPSを行っているようなもの」という。マネージド的に機器を納入して、定期的な診断で問題点を炙り出し、改善を加える。長期にわたって顧客の信用を得て、ワークスタイルの変革などに備え、新しい付加サービスを拡大するやり方が主流になりそうだ。
事務機器販売において将来的に生き残るビジネスモデルが定まりつつあるなかで、メーカー側も新機軸の機種を投入してきた。リコーは、5月30日、「オフィスとクラウド・サービスをつなぐ共有情報端末」と銘打ったデジタルフルカラー複合機の新製品を発表した。第1プロダクトマーケティング室の細谷秀樹・室長は「ビジネスシーンでスマートデバイスの活用が拡大するなかにあって、顧客のワークスタイルの変革を促進する機器を投入した」と、記者会見で豪語した。
新製品は、スキャン・FAX文書を保存してロケーションフリーで閲覧や印刷を可能にしている。突き詰めれば、多くのノウハウと技術力のある事務機ディーラーだけが享受できた仕組みの一切を搭載し、同社の直販部門だけでなく、どんなディーラーでもソリューション販売できるようにした製品だ。
一方、コピーメーカーに対して、形勢不利なプリンタメーカーも黙っていない。OKIデータは、5月22日、LED(発光ダイオード)プリンタベースのA4カラー複合機「MC780」を投入した。提携関係にある東芝テックと共同開発。「コピー系の複合機と競合する」(平本隆夫社長)ことを暗に認めている。加えて、将来的には「カウンターチャージ」で課金するモデルも採用し、「Open API」を搭載して汎用ソフトウェアと簡単に連携できるようにした。
シングルプリンタは、スマートデバイスの普及で利用が加速する電子化の活用に必要なスキャン機能がなく、機器自体の価格も安いので、事務機ディーラーにとって稼ぎを出しにくい商材になっている。OKIデータの新しい複合機投入は、コピーベースの複合機とシングル機の悪材料を取り除いて、間をとった戦略といえる。デバイスが増えたことで、出力ニーズは多様化してきた。企業人の仕事の場所は「分散化」傾向にあることから、一過性のトレンドに流されず、個々の顧客にあった機器の選択と連携製品の提案が求められている。