事業化のヒント
インテックの動きに注目
水産加工品の情報公開で安全を証明

インテック
飯沼正満
流通事業部長 震災で、クジラの缶詰をイメージしたタンクが倒れ、有名になった水産加工品メーカーの「木の屋石巻水産」。情報システムを活用し、石巻で加工した製品には放射性物質が含まれていないことを、全国の消費者や小売事業者にアピールしている。
システムを開発し、復興支援の一環として提供しているのは、流通業に強いシステムインテグレータ(SIer)のインテックだ。地元ブランドづくりの研究を行っている石巻専修大学とともに仕組みを考え、2月下旬に運用を開始した。システムでは、木の屋石巻水産で水産加工品の放射性物質検査を行ったうえで、検査情報をシステムに登録する。クラウド上でデータを処理して公開し、消費者や小売業者がウェブ上で確認することができるようにしている(図2参照)。現在、木の屋石巻水産のほかに、石巻で水産加工品を手がけるヤマトミと山徳平塚水産の合計3社が、インテックのシステムを利用して製品の安全証明に生かしている。
スマートシティは、都市の各部分でICTを活用した仕組みで構成されているパズルのようなものだ。その意味で、インテックの今回の取り組みも、石巻スマートシティの構築に一翼を担うポテンシャルをもっている。システムの提供は、現段階では復興支援の位置づけとなっているが、インテックは、今後、これをビジネスとして収益事業化を目指す。
●標準づくりで事業化 インテックは、まず半年から1年をかけて、システムを利用する地元企業を現在の3社から、30社に増やす。石巻周辺に多い水産加工品メーカーを巻き込んで、「安全証明の標準をつくる」(インテック流通事業部長兼流通ビジネス室長の飯沼正満氏)という戦略だ。そして、デファクトスタンダード(世界標準)を獲得して、それをベースに提案活動に力を入れる。新しく獲得したユーザー企業にシステムを有償で提供することで、ビジネスとしての成立を狙う。さらに、水産加工の業界にとどまらず、「農業への横展開も視野に入れている」(飯沼氏)という。情報公開によって東北産の食品の安全を証明するシステムを広く普及させることによって、事業を拡大していく。
インテックは現時点で、こうした取り組みをとくにスマートシティの事業として位置づけているわけではない。しかし、石巻スマートシティを支える可能性は十分にあるだろう。ポイントは、インテックのシステムをいかにほかのシステムと連携させ、スマートシティに統合するかだ。インテックは、石巻市やシステムの監修を担当している石巻専修大学をうまく活用し、産官学の連携に踏み切るのか。スマートシティ事業化のモデルとして、インテックの動きにIT業界の注目が集まりそうだ。
記者の眼
ICT活用に挑め
石巻のヒーローたち
石巻市役所を、仮面ライダーが胸を張って見守っている。石巻では、宮城県出身で『仮面ライダー』などで知られる漫画家、石ノ森章太郎氏の記念館「石ノ森萬画館」があり、氏が生んだヒーローたちが、街のあらゆる場所にたたずんでいる。
今後、スマートシティの構築を成功させるために、市民にICT活用のメリットを伝え、ICT活用が石ノ森氏のキャラクターと同じように市民の支持を得るための啓発活動が不可欠になる。ITベンダーと市は密に連携し、市役所前の仮面ライダーに負けないくらい胸を張って、「石巻スマートシティ」をつくる意思を明確にしなければならない。
スマートシティの実現が、新たなビジネスチャンスを創出するからだ。