現在のIT市場は、Windows XPのサポート切れと消費税改正という大きなイベントが今年4月に重なったことで、ハードウェア、ソフトウェアを問わず特需が生まれ、多くのITベンダーが記録的な高業績を上げている。しかし、あるITベンダーの経営者は、「山が高ければ高いほど、谷は深くなる」と、危機感を露わにし、ユーザーと直に接する営業担当者も、4月以降、提案のフックになるいいネタが何かないものかと頭を悩ませている。特需の反動にどう対応するかは、多くのベンダーにとって死活問題だ。そんななか、アベノミクスの三本目の矢、成長戦略の一環として、IT投資にも使える大型の税制優遇措置「生産性向上設備投資促進税制」がスタートしていることは意外に知られていない。ユーザーのIT投資を促し、特需後の情報サービス市場を支える“救世主”になり得るのか、そのポテンシャルと課題を探った。(取材・文/本多和幸)
生産性向上設備投資促進税制がスタート
生産性向上設備投資促進税制って何?
誰に、どんなメリットがあるのか
●成長戦略でIT投資を後押し 「2003年のIT投資促進税制以来、久々にITの分野で大々的に使ってもらえる税制が日の目を見た」。
経済産業省の松本正倫・情報処理振興課課長補佐は、「生産性向上設備投資促進税制」を、そう評する。1月20日に、アベノミクスの三本目の矢である「成長戦略」の根幹として「産業競争力強化法」が施行されたが、「生産性向上設備投資促進税制」はその中核を成す減税措置だ。
ソフトウェアからハードウェアまで、減税の対象とするIT投資の範囲の広さや税額控除、償却制度の充実などが、既存の投資促進税制との大きな違いとなっている。
●即時償却か税額控除を選択 「生産性向上設備投資促進税制」は、基本的には、企業がITに投資した際に、その額の5%の税額控除を受けるか、もしくは即時償却できるという制度だ。税額控除は、法人税を規定のぶんだけ減税してもらえるという措置である。また、即時償却は、本来、法定耐用年数に従って複数年で減価償却する資産を、投資した会計年度に一括して損金処理できるというもので、その期の税額負担を軽くして資金繰りをらくにする効果が期待できる。
さらに、産業競争力強化法の施行により、従来からあった中小企業投資促進税制も適用条件や控除割合が拡充され、中小企業に限っては、さらに有利な減税措置が受けられるようになっている。
経産省の松本課長補佐は、「中小企業投資促進税制の拡充によって、生産性向上設備投資促進税制の対象となるIT投資であれば、ほとんどすべてのケースで、資本金3000万円以下の企業は控除率を10%、1億円以下の企業は7%まで上げることができる」と説明する。ただし、税額控除額は、その期の法人税額の20%が上限となる。
制度の適用期間は、今年1月20日から2016年3月末まで。さらに2016年4月から2017年3月末までの1年間も、特別償却50%か税額控除4%との選択制と条件は不利になるものの、制度そのものは継続する。
●中小企業で際立つメリット 
松本正倫
課長補佐 「生産性向上設備投資促進税制」には、A類型とB類型の二つの類型がある。ユーザー企業からみると、A類型は簡単な手続きで税制優遇が受けられ、B類型は広い範囲のIT投資を丸ごと税制優遇の対象にできるのが特徴だ。
A類型は、企業が生産性向上を目的として「先端設備」を導入することが税制優遇措置の要件となる。具体的には、サーバー類でもソフトウェアでも、導入する「単品」の製品が、従来より年平均1%以上生産性を向上させる最新製品であるということが確認されれば、減税対象になる。ただし、最低取得価額も決められていて、サーバー類は120万円、ソフトウェアは70万円以上、かつ単品30万円以上という条件を同時に満たす必要がある。
なお、A類型は、サーバー、ソフトウェアに限って、資本金1億円以下の中小企業と個人事業主だけが優遇措置の対象になる。また、既存の「データセンター地域分散化促進税制」との二重適用を避けるために、データセンター事業者はこの制度を利用できない。
導入する製品が要件に適合しているかどうかの判断は、関連の工業会が行い、適合していることを確認した後、ユーザー企業に対して「証明書」を発行する。ユーザー企業は最終的に、税務申告の際、確定申告書などにこの証明書を添付してエビデンス(証拠)とするわけだ。
証明書を発行する工業会は、「生産性向上設備投資促進税制」の対象となる設備をすべて含めると50団体にも上るが、IT関連製品の証明書を発行するのは2団体。サーバー類は電子情報技術産業協会(JEITA)、ソフトウェアは情報サービス産業協会(JISA)が担当する。
これに対して、B類型は、「生産ラインやオペレーションの改善に資する設備」の導入を対象とした税制優遇措置を指す。サーバー類、ソフトウェア類、さらにはそれらを組み合わせたソリューションも含めて広く対象になり、製品そのものに対する具体的な要件はない。企業規模による適用制限もないので、大企業も使うことができる。ただし、投資計画上の投資利益率が年平均15%以上(資本金1億円以下の企業は5%以上)であることが求められる。この要件に適合しているかどうかの確認は、まず、ユーザー企業が投資計画を作成し、これを公認会計士か税理士にチェックしてもらったうえで、各地方の経済産業局に必要書類を提出し、「確認書」を発行してもらうというフローで行われる。また、最低取得価額の要件はA類型と同じである。
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