kintoneパートナー
●中小規模なら基幹システムもいける
ジョイゾー 
四宮靖隆代表取締役 kintoneを中心にCIerとしてビジネスを展開するジョイゾー。四宮靖隆代表取締役が、サイボウズがクラウドを始めたのと同時期となる2010年12月に会社を設立した。もともとインフラ系技術者をしていた四宮代表取締役は、オンプレミスのサイボウズの導入支援や既存システムからの移行支援などを経験し、最後に勤めていた会社がサイボウズのパートナーだったこともあって、現在のビジネスを立ち上げた。
「サイボウズの製品は顧客の反応がよかった。その経験があったので、ジョイゾーでもサイボウズ製品を扱っていこうと。kintoneを主力事業としたのは、昨年の10月から」という。kintoneについて、四宮代表取締役はウェブのデータベース(DB)「サイボウズ デヂエ 8」に近いと考えている。プログラミングせずにDBをつくることができて、集計や計算ができる。デヂエのノウハウが使えるのは、kintoneの大きな魅力でもあった。
「デヂエにはAPIがなく、外部連携が難しい。ただ、ユーザー企業からは外部連携の要望が多かった。kintoneによってその対応ができるようになったことは大きい」(四宮代表取締役)。
プログラマやエンジニアが不要で、Excelで表をつくる感覚でシステムがつくれてしまうkintone。四宮代表取締役はシステム開発のあり方が大きく変わったと感じている。「今までの受託開発は、要件を聞いて、設計し、開発をしていた。kintoneの登場によって、要件定義が不要になった。提案段階からアジャイル。サンプルは、営業段階で見せることができる。重要なのは、どのように設計するか。そのシステムを入れて便利になるかどうかに注力することにある」。そこで求められる人材は、営業と技術の両方の能力をもっていること。どちらか一方では、この変化についていけないという。
成長段階にあるkintoneは、今年の4月にAPIを大幅に強化した。「今までは機能が絞られていたが、“できない”がだいぶ解消された。中小規模であれば、基幹システムも構築できるのではないか」と四宮代表取締役は今後の展開に期待している。
Force.com & kintoneパートナー
●PaaSには将来性がある
ケーピーエス ソフトウェア開発を中心事業としてビジネスを展開するケーピーエス。2010年にセールスフォース・ドットコムのOEMパートナー契約を締結して以降、セールスフォース環境の不動産業向け顧客管理システム「顧きゃく録」、帳票印刷開発クラウドソリューション「ReportsConnect for Salesforce」を手がけてきている。Reports Connectは、1回の印刷要求が3ページという制限範囲以内であれば無料で利用できることから、多くの企業で活用されている。
一方、kintoneにおいては、昨年後半に帳票印刷開発クラウドソリューション「ReportsConnect for kintone」の販売を開始した。これにより、ケーピーエスでは「Force.com & kintone」の体制が整ったかたちになっている。
両方を使った感想を、平克介代表取締役社長は次のように語る。「まず、Force.comとkintoneは、ライセンス価格が大きく異なる。Force.comは、3000円。kintoneは、スタンダードが1500円、ライトが780円。同じ使い方ならkintoneということになる」。それはあくまでも価格面での評価であり、機能でみると自然と棲み分けができるという。
「データ構造を設計する場合、つまりDB構造の正規化が必要な場合は、Force.comになる。それは業務システムで使えることを意味する。kintoneは、1アプリに1テーブルでリレーショナルではない。その点で表計算ソフトに近い。表計算ソフトを複数人で使用するというイメージなら、kintoneになる」(木下清一・クラウドソリューション本部部長)。kintoneにはマイクロソフトExcelのインポート機能があるので、Excelシートを用意すればそのままアプリにすることができる。表計算ソフトのイメージは、そういった点からもきている。
Force.comもkintoneもプログラムなしでシステムを構築できる。その点では、エンドユーザーレベルではあまり変わらない。ただし、「ツールベンダーの立場からすると、どれだけAPIが充実しているかが重要。基本的なレベルはkintoneでも対応しているが、Force.comのほうが充実している」と星野貴志・クラウドソリューション本部主任は語る。一方で、「ユーザーが使いやすいように、ものすごく頑張っているのが、kintone。Force.comは画面上の自由度が低い。その代わりコーディングで対応できる」との評価もしている。
ケーピーエスは、Force.comの研修ビジネスを手がけているが、kintoneで展開するのは厳しいという。「Force.comの研修は、一週間で16万~18万円。kintoneは、無料セミナーでないと成り立たない。30分で使えるようになってしまうから」と平社長は語る。「使いやすさのkintone」「多機能なForce.com」との見方ができそうだ。

(左から)星野貴志主任、平克介代表取締役社長、木下清一・クラウドソリューション本部部長コンペになったら勝ちに行く
「スクラッチでの開発か、Force.comを採用するのかと検討しているときに、後から当社に声がかかることが多い。サイボウズを見ておかなくていいのかと。そうした案件は、だいたい勝っている」と、サイボウズの中原裕幸・執行役員営業本部長は強気だ。kintoneでもユーザー数が1000人以上の案件が多く、規模でも負けていないと考えている。
ただし、「Force.comは隅々までつくり込める」と、kintoneでは手が届かないところにも対応できることは認めている。リレーショナルデータベースを必要とするシステムは、kintoneでは対象としていない。そのため、サイボウズではForce.comと競合する一方で、共存も可能だと考えている。
「例えば、Force.comで構築したシステムを10人で使っていて、新たに90ユーザーを足そうというときに、その90ユーザー向けに周辺システムとしてkintoneを採用するケースが出てきている」と栗山圭太・ビジネスマーケティング本部プロダクトマネージャーは語る。Force.comで構築したシステムと連携することでkintoneを活用しているという。
「kintoneが得意としているのは、既存のシステムをうまく活用するというところ。基幹システムなどに柔軟性を与えることを志向している」と栗山プロダクトマネージャーは語る。例えば、基幹システムにワークフロー機能を追加したい場合、カスタマイズで対応するのではなく、kintoneにデータをもってきて承認して戻す、といった使い方ができる。
kintoneは手軽さが受け、情報システム部門よりも、営業部門やマーケティング部門など、現場からの問い合わせのほうが多いという。「Force.comのおかげで、部門でシステムを検討するようになった」と中原執行役員は、セールスフォース・ドットコムの功績を認めている。コンペになったら勝ちに行くのは当然だが、ともにPaaS市場を活性化させていく考えだ。

中原裕幸・執行役員営業本部長(写真右)、栗山圭太・ビジネスマーケティング本部プロダクトマネージャー(左)記者の眼
セールスフォース・ドットコムには、今回のテーマ「Force.com vs. kintone」での取材を受けてもらえなかった。メールや電話ではなく、担当者に直接会ってお願いしたが、kintoneとは比較対象にならないとの思惑があるのだろう。マーケットリーダーとしてのコメントを期待していただけに残念だ。
PaaS市場を切り拓き、現在では確固たる地位を築いているセールスフォース・ドットコムだが、当初は大手ITベンダーから冷ややかな目を向けられることもあった。簡単にできるというのは「素人向け」ととらえられがちだ。ところが、エコポイントの申込み画面でForce.comが採用され、国内大手企業の事例が相次ぐと、大手ITベンダーも無視できない存在となった。
一方、Force.comに遅れて登場したkintoneは、今まさに成長段階にある。両者はPaaSに対する考え方が確かに違うのだろうが、PaaS市場を盛り上げるためにも競合関係にあってほしいと願う。いずれはグローバルでもPaaSの二大サービスとなってIT業界の活性化に貢献してほしい。