スモールビジネス市場の新たな商機1
スタンドファーム
「Misoca」とオンライン決済を組み合わせ収益化
●毎月1200ユーザーを新規に獲得 スタンドファームが提供するクラウド請求書管理サービス「Misoca」は、請求書、見積書、納品書の作成、管理、メール配信を無料で行うことができ、売上レポートも自動作成するサービスだ。有料オプションで、請求書の自動郵送や見積書のFAX送信にも対応する。サービス自体は2011年11月に開始し、受託開発業務と並行していたが、昨年9月、外部から資金調達したことを機に、「Misoca」にリソースを集中させ、本格的なビジネスの拡大に着手した。現在は、毎月約1200事業者ずつ新規ユーザーが増えており、累計では1万3000ユーザーに達している。
ただし、現状、有料オプションはあるものの、基幹サービスは無料。マネタイズの方法は何なのか。豊吉隆一郎代表取締役は、「将来のエンタープライズ向けの有料請求書管理サービスを視野に入れているが、直近では、8月に請求書のオンライン決済をサービスに組み込む。当面は、その決済手数料を収益の柱にする。法人のカード利用率を、VISA、MasterCardなどグローバルの大手各社とも増やそうとしているし、実際に増えている」と説明する。すでに複数の決済代行会社との提携を進めているほか、クレディセゾンのビジネス向けクレジットカードの取り次ぎ業務も行っている。現在、「Misoca」でつくられる請求書の取引額は毎月13億円ほどだが、5年後をめどに、年間決済額1兆円(スタンドファーム側の収益は50億円程度)を目指す。
●IT活用のプラットフォーム ただし、これは薄利多売のビジネスなので、請求書管理サービスのユーザーのさらなる拡大は至上命題といえる。5年後に100万ユーザーを獲得することを目標としており、そのうち1割がオンライン決済を利用するとみている。
ユーザー拡大のための方策として豊吉代表取締役が重視しているのは、他のクラウドサービスとの連携だ。6月には、クラウド会計ソフト「freee」とデータ連携することを正式に発表したが、すでにSansanの名刺管理などとも連携している。今後は、他の会計ソフトとの連携も進める予定で、「フロントからバックオフィスまで、基本的にはいろいろなサービスとつながればつながるほど、ユーザーの利便性が高まる」(豊吉代表取締役)としている。お金の出し入れのデータは、顧客管理の基礎情報。「Misoca」には、単にスモールビジネスの業務を効率化するだけでなく、業績アップを目指したIT活用のプラットフォームとしての役割も期待できるかもしれない。

スタンドファーム 豊吉隆一郎代表取締役(左)と共同創業者の松本哲取締役
スモールビジネス市場の新たな商機2
Square、コイニー
バックエンドシステムへの入り口として機能
●クラウド会計との連携 クラウド会計との連携が最近とくに活発化しているのが、モバイル決済サービスだ。文字通り、モバイル端末用の超小型カードリーダーを使って、どこでもクレジットカード決済を行うことができる。基本的には決済額の数%を手数料としてサービスプロバイダに支払うだけなので、イベント出店時など店舗外での取引にはもちろん、導入費用や加盟店手数料がネックになってクレジットカード決済を導入していなかったスモールビジネスの現場で、とくにニーズが高まっている。
そんななか、主要モバイル決済サービスプロバイダの一つであるコイニーは、今年3月20日、「モバイル決済とクラウド会計の国内初の連携事例」として、マネーフォワードとデータ連携することを発表した。そして、同月25日には、米国、カナダ、日本でモバイル決済と無料のPOSレジアプリを組み合わせたサービスを提供しているSquareが、freeeとの連携を発表。モバイル決済サービスとクラウド会計ソフトの親和性が注目を集めた。
ただし、両社とも、こうした連携によってユーザーを囲い込もうと意図してはいない。むしろ、「Misoca」と同様に、フロント側、バックエンド側を問わず、なかば競合するようなものも含めて、さまざまなクラウドサービスとオープンに連携していく方針だ。事実、Squareはすでにマネーフォワードとも連携している。
●ITベンダーの協業相手に 
Square
水野博商
カントリーマネージャー クラウドの普及により、決済サービスを含むウェブサービスのプロバイダは、ITベンダーにとって、連携してユーザーに新たな価値を提供し、ビジネスを開拓する協業の相手になりつつある。
Squareの水野博商カントリーマネージャーは、「当社サービスの価値の本質は、モバイル決済そのものではない。POSレジ機能も備え、業務のフロントからバックエンドにデータをつなぐ入り口の役割を果たし、業務オペレーションの効率向上に貢献することにある」と強調する。ただし、収益の柱は決済手数料であることから、薄利多売を目指さなければならないことは間違いなく、「2~3年以内に、数十万規模のユーザーは獲得したい」としている。オンラインマーケティングを中心に、家電量販店でのデモや、導入現場でのフィールドマーケティングなども展開し、認知を広げていく考えだ。

コイニー
佐俣奈緒子
社長 コイニーも、エスキュービズム・テクノロジーの「EC-Orange POS」など複数のPOSと連携している。さらに、こうした業態としては珍しく、コールセンターを用意してユーザーサポートの充実を図ったり、サインレスの決済機能を付加したりなど、決済サービスそのものの使い勝手を高めることにも力を注いでいる印象だ。コイニーの佐俣奈緒子社長は、「国産企業らしく、お客様に寄り添うことを重視している」と話す。こうした特徴が評価され、NTT東日本の店舗向けクラウドサービス「ラクレジ」の決済機能に同社サービスが採用された。NTT東日本の法人営業部隊は、これをきっかけに、コイニーのサービスの取次販売も手がけることになり、販路も広がった。現状、ウェブ経由でユーザーと直接契約することが最も多いが、パートナービジネスの拡大を視野に入れる。
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