HCI新製品でマイクロサービス/ハイブリッド化を加速
クラウド普及進んでもオンプレ製品の需要は堅調
NECでは、VMware vSANをベースとしたHCI製品を「NEC Hyper Converged System」の名称で販売している。今年9月に発売した新製品では、ユーザーやパートナーの運用プロセスを効率化するための機能を強化した。
障害の予兆検知機能を搭載し、トラブルにつながるおそれのあるイベントが発生した場合、OSの再起動なしで仮想マシンを健全なノード上へ自動的に移動させ業務の停止を防ぐほか、多くのHCI製品では運用担当者が手動で情報を収集する必要のあったレポート作成についても、多くのユーザー企業にとって必要だと考えられる情報についてあらかじめテンプレートを用意することで、数クリックで完了できるようにするなど、日本企業の要求に合わせる形で自動化と操作の簡易化を進めている。
また、従来製品ではファームウェア、デバイスドライバー、ハイパーバイザー、SDS(ソフトウェア定義型ストレージ)等の更新プログラムがバラバラに提供されており、検証や適用の手間が煩雑になっていたが、新製品ではこれらをまとめて検証済みパッケージとして提供することで、バージョン管理や更新の労力を大きく削減した。
(左から)クラウドプラットフォーム事業部の吉川彰一統括部長、
荒川利光シニアマネージャー、プラットフォームソリューション事業部の猿田智広主任
HCI製品の開発を担当するクラウドプラットフォーム事業部 第三ソリューション基盤統括部の吉川彰一統括部長は「パブリッククラウドの導入が加速する一方、運用プロセスやデータの物理的な格納場所などを自社でコントロールできないことを、問題だと感じる企業も増えている。しかし、昔のように運用担当者が張り付いて運用する時代には戻りたくない。クラウドのように使えるオンプレがあるならほしいという声は高まっている」と話し、ユーザー企業、パートナーの双方からHCIには非常に良い反応が得られていると説明する。
COBOLのモダナイズを支援するツールを提供
しかし、インフラ運用の効率化は他社のプラットフォーム製品でも取り組まれており、機能の強化は日進月歩の世界だ。吉川統括部長は「インフラのモダナイズだけでなく、アプリケーションや運用プロセスも新しくしていきましょう、というのがNECのアプローチ」といい、プラットフォームとSIの両方を提供しているNECだから蓄積できるノウハウを、パートナー経由でも提供していく点を強調する。
そのひとつが、業務ソフトウェア開発環境「SystemDirector」シリーズの新製品として8月に発売した「Microservice Toolkit」だ。これは、モノリシックな業務アプリケーションを解析し、プログラムやデータの依存関係を可視化するツールで、複雑化したアプリケーションのマイクロサービス化を支援するための製品だ。
吉川統括部長は「COBOLに代表される手続き型の言語で書かれたプログラムを、Javaなどオブジェクト指向の言語で書き直そうという取り組みは盛んに行われたが、うまくいかなかったプロジェクトも少なくない」と指摘。アプリケーションの規模が巨大で複雑なだけでなく、その中身がわかる人材が既に社内にいないといった場合、すべての機能を疎結合化するのが現実的ではないケースも多いという。そのようなシステムの場合、まずはフロントエンドに近い特定のサブシステムだけ、といったように部分的に切り出してマイクロサービス化を進めることで、従来のシステムの堅牢性と、ビジネス環境の変化に対応するための柔軟性を無理なく両立できる。この際にMicroservice Toolkitを活用することで、マイクロサービス化の対象を切り出すための調査・設計作業を効率良く行える。
また、モダナイズしたアプリケーションの移行先としては、コンテナ型の仮想化環境が有望だが、従来のITインフラに親しんできた運用担当者がKubernetesなどのコンテナ管理技術を身につけるのは容易ではない。
このため、Microservice Toolkitと同時に、Kubernetesと連携しコンテナクラスタの運用を省力化できる管理ツール「Workload Manager for Container Platform」を発売した。クラウドプラットフォーム事業部の荒川利光シニアマネージャーは「従来のエンタープライズシステムの運用プロセスと比較すると、Kubernetesは考え方が大きく異なる技術。このツールを利用することで、従来の基幹系システムの“作法”に近い形でコンテナ環境を運用できる」と説明。例えば、障害発生の前後でコンテナの構成がどのように変化したか、ログを追いかけることなくWeb上の管理画面で確認できるほか、リソースの利用率が一定時間にわたってしきい値を超え続けた場合にコンテナを一旦削除し再構成するといったように、メインフレームやオフコンのユーザーが求める運用管理機能をコンテナ環境に提供する。
「私たちはテクノロジーを提供することはできるが、アプリケーションの領域にまでおよぶITモダナイズを担えるのは、お客様の業務を知り尽くしたパートナー各社しかいない」と吉川統括部長は強調。“2025年の崖”が迫る中、レガシーシステムのすべてを温存するか、すべてをマイクロサービス、コンテナ化するかといった議論ではなく、新しい技術へ移行すべき部分を特定して移行するというアプローチが今後は主流になるとの見方を示す。
プラットフォームソリューション事業部の猿田智広主任によると、HCI製品の販売は前年比3倍以上で伸びており、製造業・公共・医療などを中心に業種を問わず導入が拡大しているという。アプリケーションのマイクロサービス化支援は中堅企業向けの提供が中心となるが、HCI製品自体は中小企業にもニーズが広がっているとしている。
顔認証技術では異業種パートナーシップも進む
製品やツールの強化に加えて、NECのプラットフォーム事業で中心的な戦略となっているのが、新たな協業案件の発掘だ。9月に発表した新パートナープログラム「NEC共創コミュニティ for Partner」は、パートナー経由でのNEC製品の販売を支援するだけでなく、NECとパートナー、あるいはパートナー同士の間で新たなソリューションを開発し、できあがった商材を相互のチャネルを通じて拡販することを指向した内容になっている。
販売パートナー各社は、NECの製品や技術を活用してさまざまなビジネスを行っているが、まだまだ受託ベースのシステム開発が中心で、自社のソリューションとして展開するには課題を抱えているケースが少なくないという。
そこで新プログラムでは、パートナーによる新規ビジネス計画の立案や仮説検証、PoCなど、事業化までのプロセスをNECが支援する。ビジネスアイデアを整理・立案する「共創ワークショップ」の開催支援は無償で行い、その後の具体的な事業化に向けたプロジェクト推進や技術面での支援は有償で提供する。
できあがったソリューションは、パートナーが自社で販売活動を行うだけでなく、NECの営業部隊や、他のNECパートナーが販売できるよう、NECの製品型番を付与し、ECサイト「NEC特選街」でも取り扱うなど、販売・マーケティング面での支援も行うのが特徴。パートナー同士がオンラインで商材や協業先を見つけられるよう、グループチャット機能などをもつポータルサイトも用意した。
Webブラウザを通じてコンテナの校正履歴を確認できるほか、
テンプレートを元にして運用ルールを簡単に適用可能
新プログラムの枠組みにおいて、NECからパートナーに提供可能な製品・技術としては、顔認証、IoTプラットフォーム、AI(機械学習、テキスト認識など)、RPA、ITインフラ管理ツールなどが用意されている。
これらのうち、特に顔認証では従来のNECパートナーの枠を超えたソリューション開発が既に始まっており、集合住宅向け宅配ボックスを提供するフルタイムシステムが、NECの顔認証技術を用いて、マンションのエントランスホールや宅配ボックスを顔で解錠できる製品を開発したという。そのほか、オービックビジネスコンサルタントの「奉行Edge 勤怠管理クラウド」と顔認証技術との連携で、入退室のセキュリティ強化や、長時間労働の是正と同時に、打刻の手間の削減や不正打刻の防止を実現するソリューションが生まれた。今後は、ベクトルプロセッサを搭載したAIアクセラレータ「SX-Aurora TSUBASA」もプログラムの対象とする予定。
このような新しいソリューションの実現にあたって、必ずしもNEC製のサーバーが必要になるわけではない。しかし、実際にパートナーがソリューションの販売や導入作業を行う段階になった場合、検証済みでアプライアンスのように取り扱える製品に仕立て上げられていることは、「売りやすさ」を高めてくれる。
新プログラムの狙いについて、本永実事業部長は「『サーバー1台の拡販のためにここまで手間をかけるのか』と思われるかもしれないが、プラットフォーム製品の導入を、顔認証、AI・IoTにもビジネスが広がるきっかけにしていく」と説明。目の前の製品販売を伸ばすための施策ではなく、NECとパートナー各社が互いに新たな商流を作り、多くの顧客とより長期的な関係を持てるような仕組みを目指していくとしている。