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<データセンター事業者座談会>BCP対策の見直しで注目集まるDC市場 主要5社のキーマンが現状と戦略を語る(後編)

2011/08/25 19:56

週刊BCN 2011年08月22日vol.1395掲載

 東日本大震災によって、企業におけるBCP(事業継続計画)は大きな見直しを余儀なくされている。こうしたなか、注目を集めているのが、堅牢な構造、冗長化されたシステム、強固なセキュリティを誇るデータセンター(DC)の活用だ。また、電力をはじめとする省エネや効率化の面からも、DCのメリットが再認識されている。そこで、DC事業者の有力5社から9名の参加を得て、DC市場におけるニーズの変化や影響、DCを利用するメリット、さらに今後の戦略や設備投資などについて幅広く語ってもらった。

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DCの活用は電力のほかにスペースも削減

 ――停電や省電力対策として、DCの利用にはどんなメリットがあるのでしょうか。

 粟田(IDCフロンティア) 自社でシステムを運用しておられるユーザーにとっては、節電だけをとっても利用価値は十分にあると思います。一般的には自社のマシンルームですとPUE(Power Usage Effectiveness=電力使用の効率性を示す指標)は3.0程度ですが、DCなら2.0以下、最新のDCなら1.2位と言われていますので。

 大槻(エクイニクス) これは社会的な観点と自社にとってのメリットで分けて考える必要があると思います。まず、社会的には確実に電力使用が減るので、利用価値があります。しかしその分、別のコスト負担が生じるために簡単には導入に踏み切れない、と考えているユーザーは少なくないと思います。

 齋藤(KVH) 重要な目安であるPUEの側面からみると、利用のメリットは確実にあります。実際、省エネに加え、低コストの面からもユーザーの引き合いがあります。

 田中(さくらインターネット) 現実的に、自社サーバーをDCの仮想サーバーに変えるだけで確実にコストメリットが生まれます。電気代はもちろんですが、地価や賃料の高い自社内においてサーバーなどのシステムがそれなりのスペースを占有していることも含めて考えると、節約効果は十分に大きいといえます。自社のシステムがどれほどの電力を消費しているのか、把握していないユーザーは少なくないですね。

 高倉(ビットアイル) システムが各拠点に分散配置されているユーザーにとっては、それが集約できるだけでも大きなメリットが生まれると思います。これは今後、パートナーとともに訴求していくべきポイントだと考えています。

 ――システムインテグレータ(SIer)がDCを利用するメリットについては、どうお考えですか。

 高倉(ビットアイル) 当社でいえば、設備として、場所(コロケーション)からサーバー、さらに、その上でクラウドも仮想で提供できますし、それらの組み合わせも可能です。SIerがビジネスを展開するうえで、ここまでは自分たちでできるけれども、それ以外はDCを活用する、それにより、お客様のニーズに合わせた最適なソリューションを実現できるということがメリットだと考えます。また、何かあった時にすぐに駆けつけられる場所にあることも、強みではないかと考えています。

さくらインターネット
田中 邦裕氏
「北海道・石狩のDCは11月をめどに稼働させる予定です。そのうえで、専用サーバーサービスとクラウドサービスの拡充を進めていきます」
 田中(さくらインターネット) 当社としては、東京と大阪で同規模の拠点をもつことが一つ。加えて、都市部にあって、システム担当者が常駐できる環境を提供していることがメリットとしてあります。また、当社は同業者の利用も多く、SIerのビジネスの領分に入らないようにしていることも、SIerからはビジネス上の親和性の高さとして評価されているようです。

 ニコラ(KVH) IaaS(Infrastructure as a Service)を例にとってみれば、サーバー、ストレージ、ネットワークといった各コンポーネントを、ニーズに合わせて組み合わせることで、SIerにとっての最適なソリューションが実現します。さまざまなオプションを用意しており、変化に応じた柔軟な拡張や変更も可能です。また、専門エンジニアによりサービスの組み合わせを提案することで、個別ニーズに対応した、ワンストップ・ソリューションが提供できることも、大きなメリットと考えます。

 古田(エクイニクス) 当社は、全サービスにおいてニュートラリティを提供することを基本としており、キャリアニュートラル、ベンダーニュートラルを運用ポリシーとしています。また、ホスティングを含め、SIerやユーザーであるサービス・ベンダーと競合するビジネスを行いません。この点が、当社がSIerなどから評価され、プラットフォーマーとして機能している所以だと考えています。

 粟田(IDCフロンティア) 今はSIerにおけるニーズも変化している時期で、(場所・設備としての)DCを使うのか、クラウドの仮想環境を活用するのか、ユーザーに提案する際の使い分けを模索しているように感じます。そうしたニーズに対応し、融合したソリューションを提供するという意味でも、柔軟な構成や拡張性、きめ細やかなサポートを提供していきます。

 ――SIer、独立系ソフトウェアベンダー(ISV)とのパートナーシップによる成功例はありますか。

 粟田(IDCフロンティア) SIerが絡む案件ということでは、最近、ECや電子書籍、動画配信などのネットビジネスを手がけているユーザーの利用が増加しているという気がします。

 大槻(エクイニクス) 古田が申し上げたように、当社はニュートラリティを特徴とする会社で、当社DCでは各分野のユーザー企業がネットワークを相互接続できる環境を提供しています。その環境を活用することによって、各分野のユーザー同士が資源を融通し合い、当社の環境の中で案件が成立しているという例が少なからずあります。

 ニコラ(KVH) ある大手のクラウドの企業が、震災への耐性を評価し、採用していただきました。キーワードとなったのはPML(Probable Maximum Loss:予想最大損失率)です。当社の千葉・印西市のDCは、すぐれた完全免震型設計を取り入れて、PML2.6%という、国内で最も安全なDCの一つであることを具体的な数値で表されていることが、評価されたようです。

 田中(さくらインターネット) 当社の場合、前述のように、パートナーの仕事を侵さない、という方針なので、パートナーとの協業というよりもパートナーが独自にビジネスを展開するケースがほとんどでした。しかし最近は、SIerの営業チャネルでの共同案件も増えており、そのなかでDCの設備とオペレーションを提供するというケースがあります。

 高倉(ビットアイル) SIerにとって、オンプレミスではコスト的に合わないといった案件や、SaaS的なニーズなど、エンドユーザーのさまざまなニーズに対応するため、SIerがサービスメニュー補完をするために当社の設備、サービスを利用してもらうケースがあります。

次世代を見据えて設備とサービスを拡充

 ――最近のトピック、事業戦略について教えてください。

ビットアイル
安藤 卓哉氏
「次世代のインターネットデータセンター(iDC)に関する研究開発を行う専門組織として『ビットアイル総合研究所』を今年8月1日に設立しました」
 安藤(ビットアイル) 直近のトピックとしては、天王洲の第3DCを床面積で2倍に拡張します。また、人的な部分では、クラウド系のエンジニアを増強し、サービスの充実を図っています。また、次世代のインターネットDC(iDC)に関する研究開発を行う専門組織として「ビットアイル総合研究所」を今年8月1日に設立しました。

 これまでも、DCの空調設備の効率化・省電力化を実現するための研究開発を行ってきました。しかし、DCもコロケーションと、クラウドサービスの提供では、基盤が異なります。そこで研究所では、DCのファシリティおよびIT機器・ソフトウェアに関連する技術調査など、広範囲の分野を対象に、次世代DCのデザイン、省電力化などを実証し、DCの建設・構築や、実際のビジネスへとフィードバックしていく方針です。

 田中(さくらインターネット) ちょうど中期経営計画の最終年に当たるのですが、力を入れているのは、DCの統廃合、そしてクラウドサービスの拡充と研究開発です。DCの統廃合で、全体の15%程度に当たる大阪で150ラック、東京で200ラック程度を廃止します。一方、新設の北海道・石狩のDCについては、1000ラックの工事がもうすぐ終了し、11月を目途に稼働させる予定です。その上で、専用サーバーサービスとクラウドサービスの拡充を進めていきます。

 研究開発では、2009年7月に「さくらインターネット研究所」を設立しており、仮想化、ストレージの高速化、クラウド、さらに最近は省電力や空調などもテーマに研究に取り組んでいます。電力料金は、例えば送電ロスをなくすだけでも、もっと安くできます。実際、石狩DCでは、高電圧直流給電システムのHVDC方式の採用で、電力経路での各種損失を取り除き、従来方式との比較で、高い電力効率が実現できることを実証実験を通じて確認しています。

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