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<ユーザーに安心・安全を届ける フィルタリング大特集>#2 主要4社がフィルタリング市場の今後を語る ビジネスチャンスはまだ眠っている

2012/05/10 19:56

週刊BCN 2012年05月07日vol.1430掲載

──それでは、SMBに対するメッセージングを強めるために、どのような施策を打つことが重要でしょうか。

吉田(トレンドマイクロ) SMBにとって、セキュリティ導入はコスト負担が大きいという認識が強いというお話がありました。この不安を取り除くために、セキュリティ製品導入に付帯するサーバーなどTCOにも着目する必要があります。例えば、クラウドサービスの充実を図ることによって“サーバーレス”を実現し、トータルコストを抑えることができます。低コストで導入したいお客様には、このようなクラウドサービスも合わせて提案することが、解決策の一つになるのではないでしょうか。

松下(ALSI) セキュリティサービスの選択肢を増やすのは、とても良いことだと思います。市場全体をみても、大規模企業やSMB、零細企業の間では、置かれた環境や事情によって導入したいセキュリティ製品や活用方法が大きく異なります。これらのニーズに細かく応えるため、幅広い選択肢を業界全体で用意し、ご提供していくことが重要と思っています。

瀬川(デジタルアーツ) SMBのお客様は、システムの専任者ではなく、システム担当者が本来業務を兼任しているケースが多い。だからこそ、セキュリティの有用性を丁寧にお伝えすることも必要なのではないでしょうか。とくにフィルタリングソフトは、セキュリティという点以外にも、業務効率の向上という効果が期待できます。このようなメリットを詳しく訴求することで、お客様の理解が深まり、スムーズな導入につながると思います。

雪永(キヤノンITS) 一般論として、セキュリティ製品はSMBに「売りにくい」商材といわれています。しかしそれは、お客様が「セキュリティの導入によって企業価値がどのように高まっていくのか」「自社のビジネスにどのようなメリットがあるのか」という点を十分に理解していただいていないことに起因していると思います。このような悩みを一つずつ解消していけば、フィルタリング市場も拡大できるのではないでしょうか。

キヤノンITソリューションズ
セキュリティソリューション事業部
GUARDIANセキュリティ部
部長
雪永 健氏
TAKESHI YUKINAGA
1995年からITセキュリティビジネス全般に関わる。2010年にGUARDIANセキュリティ部所属となった後は、情報セキュリティソリューション「GUARDIANシリーズ」を統括している。
業界の足並みがそろうことで、
市場へのメッセージ性はより強くなる

市場は新たなフェーズへ 次の訴求ポイントとは

──SMBの認識や訴求の仕方に課題があることがわかりました。では、フィルタリングソフト市場を今後どのように発展させていくのか、という点についてうかがいます。まずは市場拡大への取り組みや啓発活動など、現在の状況を教えてください。

松下(ALSI) 1990年代から、法人だけでなく学校に向けて、フィルタリングに関する啓発活動を積極的に進めています。今でこそ「フィルタリング」というキーワードは浸透してきましたが、当時はフィルタリングの有用性などを伝えるのに、とても苦労しました。また、中央省庁や全国の地方自治体、業界団体とも連携し、年間100回以上の講演も継続しています。このような活動は、当社にとっての「使命」であると感じています。また、今後インターネットはさらに多様化するため、フィルタリングでカバーできる領域やデータベースそのものに網羅性を持たせる研究を続け、時代を先取りした情報をユーザーに伝え続けたいと思っています。

瀬川(デジタルアーツ) 当社も、セキュリティ業界や学校の保護者向けにPTAなどの協議会に参加し、情報提供などを続けています。また、より幅広い層にフィルタリングを認知してもらうために、コンシューマ向けフィルタリングソフト「i-フィルター」のテレビCMも放映しました。今後はさらに「フィルタリングで何ができるのか」という点に重きを置いて、啓発していきたいと考えています。

吉田(トレンドマイクロ) 国内の各フィルタリング協議会での啓蒙活動のほか、政府から要請された犯罪対策などにも協力しています。インターネット上の脅威が複雑化するなか、「このソリューションだけを導入すれば100%安心できる」というセキュリティ対策はもはや存在しません。われわれはセキュリティのプロとして、ケースに応じたソリューションを的確にアドバイスさせていただいております。

雪永(キヤノンITS) 当社は日本ネットワークセキュリティ協会に参画し、SMBのお客様に対してフィルタリングの有用性などを啓発しています。また、エンドユーザー様のニーズを直接うかがう機会も設けています。当社が提供するGUARDIANシリーズは純国産であり、国内に研究・開発部門を構えています。そこで、研究者や開発者と国内のエンドユーザー様が意見交換することによって、市場のニーズとより合致した製品を開発しています。

──各社はフィルタリングの訴求に時間をかけて丁寧に説明してこられたことはわかりました。それでも、アンチウイルスソフトに比べれば、まだまだ利用のメリットを完全に訴求できていないようです。では、今後、市場拡大に向けて、どんな活動を展開すればいいと考えておられるのでしょうか。

吉田(トレンドマイクロ) これまでフィルタリング市場に提供してきた製品やサービスで、われわれが反省すべき点があります。それは、この約10年間「有害な情報を見せない、見せたくない」というブラックカテゴリの考えだけに終始していたことです。これを「フェーズ1」と位置づけるなら、10年を経て次の「フェーズ2」になる機能を核とした製品やサービスを提供し始めなければ、今後の市場拡大は望めません。

 「フェーズ2」の例としては、ブラックカテゴリだけではなくホワイトカテゴリも活用することを考えております。フィルタリングソフトを導入した場合、各企業の文化やポリシーによって、有害か否かという判断は組織毎異なりますが、「見せていい情報」を選択するだけの柔軟性をフィルタリングサービスがもつことで、グレー部分のリスクを減らしていくことができると考えています。

雪永(キヤノンITS) コストの問題も解決しなければなりませんね。ホームセキュリティサービスなどがヒントになります。このサービスでは、月額に応じてサービス内容が異なり、ユーザーが予算に応じてメニューを選べるようになっています。ITセキュリティに関しても同様で、お客様の予算に応じたメニュー体系を幅広く揃え、市場のすそ野を広げるというのはどうでしょうか。

 お客様の間で、セキュリティ製品を導入した後、ランニングコストを削減していこうという動きもみられます。そのため、われわれが新たなフェーズに移行することを提案しても、なかなか受け入れていただきにくい状況があります。この点を解決するため「売り上げの○○%はセキュリティに投資を」というキャンペーンを実施することが有効かもしれません。

瀬川(デジタルアーツ) 海外では、セキュリティ環境を整備していない場合、取引に悪い影響を及ぼすこともあると先程述べました。日本でも「プライバシーマーク」が一般的ですが、このような認証制度を国内IT市場でも確立する時期にきているのではないでしょうか。そうすることで、セキュリティへの注目度が高まり、アンチウイルスソフトだけではなく、フィルタリングソフトへの意識も高まると思います。

デジタルアーツ
エンタープライズ・マーケティング部
部長
瀬川明宏氏
AKIHIRO SEGAWA
セキュリティビジネスに携わり、10数年が経つ。ハードウェアメーカーに在籍した経験を生かし、ハードウェアとソフトウェアという両方向からのアプローチを得意とする。
市場のすそ野を広げるためにも、
『競業』ではなく『協業』することが重要

松下(ALSI) 現代の市場は少量高品質の製品が選ばれる時代で、セキュリティ製品も例外ではありません。先に述べたような製品そのものの選択肢のほか、単年契約や複数年契約、日割り料金や月額料金など、料金プランのメニューを増やして、お客様のニーズに最も合致したサービスをご提供する仕組みをつくる必要があると考えます。それを実現するには、セキュリティ業界全体が一丸となって取り組まなければなりません。業界全体で同じようなサービスを提供するのではなく、各メーカーの特色に合わせた選択肢を幅広く用意すると良いのではないでしょうか。

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デジタルアーツ=http://www.daj.jp/

トレンドマイクロ=http://jp.trendmicro.com/jp/home/