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落合陽一×田中泰光対談企画 日本企業がテクノロジー活用で競争力を発揮するためには何が必要か?

2024/05/23 11:30

 「日本が抱える社会問題はテクノロジーで解決できる」、多くの人が勇気づけられた落合陽一氏の著書『日本再興戦略』が世に出てから6年。そこからコロナ禍を経てテクノロジーや日本の社会はどのように変化したのか。日本の企業や社会が直面する課題とその解決へのアプローチについて、メディアアーティストの落合陽一氏と、日本ヒューレット・パッカード(HPE)の田中泰光パートナー・アライアンス営業統括本部長が率直な意見を交わした。

めぼしいテクノロジーは登場せずともデジタル化が一気に進んだ理由と結果

田中:落合さんが2018年に著書『日本再興戦略』を世に出されてから6年が経ちました。その間にはコロナ禍のような、世界的に大きな影響を与えた出来事もありました。この6年において、日本のデジタル技術や社会はどのように変容したと見ていますか。

落合:2018年から2020年の間は、デジタルテクノロジーに関しては目立った変化はなかったですね。AIだと2019年にLLM(大規模言語モデル)のGPT-2が、2020年にはGPT-3が出てきましたが、当時は内容の要約はできても、人間との対話にはかなり時間がかかっていました。正直、ChatGPTがこれだけメディアで話題になったのは、日本語で使えるテクノロジーが久々に登場したからではないでしょうか。そういう意味だと、ここ2年ほどで言語障壁は下がったと思います。

 また興味深いのが、コロナ禍が起きた2020年も革新的な新テクノロジーは現れなかったにも関わらず、リモートワークのニーズが急激に高まるなどした結果、デジタル化やオンライン化が急激に進んだという事実です。「技術ドリブンで社会が変わる」のではなく、第3のアプローチが存在したのか、と実感しましたね。

田中:さらに現代では人口減少・人材不足が深刻化していますが、落合さんの著書でも書かれていたように、労働人口が減ることで「テクノロジーを使わねばならない」というプレッシャーが強まり、結果的にデジタル革新が進展するという期待もできるのですよね。人口減少の問題を抱えている日本ならば、品質向上や効率化といった本来日本人が得意としていた分野にテクノロジーを活用することで、大きなオポチュニティを生み出せるのではないか、と私は前向きに捉えています。

落合:その可能性は非常にあると思いますね。労働人口が少ないのであればテクノロジーを活用して自動化するしかありません。そして、その次に我々に必要なのが、自然災害への備えではないでしょうか。もちろん決して起きてほしくないですが、東日本大震災でSNSの利用が一気に広まったように、自然災害を契機としたテクノロジーの需要や活用の拡大は多くの人々が経験済みです。

田中:確かにそうですね。後はサステナビリティやSDGsという言葉もここ数年で急速に広まったと感じます。HPEもCO2排出量の削減に向け、パーツレベルまで加味すると製品の99.7%をリユース・リサイクルしたり、データセンターの排熱を有効活用したりといった取り組みを行っています。

落合:サステナビリティやダイバーシティの尊重に関しては、スマホで一人一人が発信できるようになり、企業によりプレッシャーがかかるようになったと感じています。環境に悪いことをしたり、ハラスメントがあったりしたら簡単に発信・告発されてしまいますから。それは結果的に良いことですけどね。

田中:ビジネスの観点では、特にコロナ禍以降、クラウドベースのアプリケーションの利用が企業の間で急速に普及しました。システムの設計構築にも、ITインフラのメンテナンスにも、人を直接送り込むことができなかったわけですから。

 ただし、“ポストコロナ”時代に入り、人々も徐々にオフィスへ戻り始めています。システムも結局クラウドだけではなく、自前のITリソースとの両方が必要だという機運が高まってきたなと、今は強く感じています。

落合:例えば流行りの生成AIでも、クラウドサービスでガンガン使うと莫大なコストがかかってしまいます。クラウドをやめてローカルマシンを買えば、結果的にコストを抑えられるだけでなく、学習や推論も円滑に行えるようになるケースが実は多いです。
 
落合陽一
メディアアーティスト
 

“3段発射”で生成AI活用を軌道に乗せる

田中:先ほど触れた通り、人口が減少する中、AIなど最新テクノロジーの活用は企業の人材不足の解消に有効と考えています。

落合:まさにそう思います。だからこそ、「2025年の崖」のような企業が抱える技術的負債の解消が必要です。その一つとして多くの企業で大量に蓄積されてしまっているレガシーなコード、つまり技術的負債のモダナイズが挙げられますが、その際にはLLM(大規模言語モデル)が相当便利なツールとなるはずです。例えば、COBOLで書かれたコードをC++に書き換える作業は、人間がやると途方もない労力が必要になります。しかしLLMなら非常に容易に実行可能です。

田中:技術的負債を解消するには、生成AIは非常に有効というわけですね。生成AIをビジネスに活用するアイディアはありますか。

落合:まず率直に言うと、現状の生成AIだとマネタイズはすごく難しいと思います。ChatGPTのような生成AIはインフラサイドに多大なコストがかかっていて、さらにそのGPUをフル回転させるために莫大な電力コストが発生します。なので、複雑に垂直統合されたこのシステムのAPIをクラウドサービスとして利用するのは、まだまだコストの面では課題がありますね。

 ならば自前でやるという発想もありますが、現状のAPI利用ユーザー数や課金額と、ハードウェアを自前でそろえるための投資コストを比べた場合、マネタイズが可能かどうかの判断はかなりシビアになってくるのではないでしょうか。

田中:我々もスーパーコンピューター「HPE Cray」を扱っていて、生成AIのサービサー(サービス提供者)向けに提供していますが、ありがたいことに売れ行きが非常に好調で、GPUが足りない状態です。だからといって、同じ製品がユーザー企業、とりわけ中堅中小企業にも需要があるかと言えば、今の段階ではないだろうなというのが正直なところですね。

落合:ユーザー企業の定型業務に生成AIの対話プロセスが入ってくる、というイメージはあまり湧かないですものね。例えば1,000万人分のデータを活用するとしても、毎回AIでコンピューティングパワーを使いまくって推論するのではなく、過去の生成と応答の履歴から検索したほうが、高速ですし既存のインフラでも賄えてしまうでしょう。ただ、この元データを作るのには生成AIが必要になります。データセット構築のプロセスは最初の1回だけなので、そこはChatGPTでも十分にコストに見合うはずです。

田中:最初のプロトタイプ作成は高コストでもChat GPTのような汎用的な生成AI基盤で行い、その後はニーズを見極めながら自前での構築へ移行していくということですね。そのようなケースの場合、その“中間点”を支えるサービスが必要ではないかと考えています。そこで我々が現在国内で始めようとしているのが、「GPU as a Service」というGPU環境のクラウドサービスです。既に海外では提供を開始しており、ニーズは確実に高まっていますね。

落合:それは大いに期待したいですね。外部の生成AIの利用から自前のインフラ構築に移行する際はそのようなサービスを利用し、ここでまだニーズがあると思ったらオンボードで投資して使っていく、“生成AIの3段発射”が可能になると思います。

田中:その3段階をシームレスに移行できるような仕組みを作るのは、我々の使命でもあります。
 
日本ヒューレット・パッカード
田中泰光
常務執行役員

パートナー・アライアンス営業統括本部長

テクノロジーパートナーとの“共創”で、技術活用を目指す

田中:私はずっと外資系の企業に勤めて、日本と海外両方のビジネスのやり方を見てきましたが、日本は1を10にする、つまり品質を改善したり、効率化したりすることが得意ですね。しかしその一方で、最新の尖った技術に手を出すのは品質が担保されていないと躊躇してしまう。こういった部分で、例えば私の親戚がやっている町工場のような中小企業も、もっとAIなどのテクノロジーを活用するチャンスがあると思っています。

落合:カメラとマイクと画面端末とネットインフラでどう問題を解決するか、というのは良い事例になりますね。スマホやタブレットなどの画面端末は誰でも使えますから。

田中:例えば給与計算やOffice系のアプリケーションならクラウドを使ったほうが良い場合もあるでしょう。ですが、工場内でのカメラを使った画像認識技術による検品など、脊髄反射的に結果を返さなくてはならないシステムはローカルでサーバーが必要です。そのようなクラウドとオンプレの使い分けが大事だと考えています。

落合:品質を重視する日本で検品プロセスは重要ですね。今でも目視で検品をやっている企業は多いですし、そういったシステムを構築するときはやはりクラウドベースでなくローカルのほうが良いと思います。

田中:そういった品質改善や効率化といったところに自前のITリソースを持つべきですが、我々が担うのはインフラ部分なので、単独では問題解決ができません。ですからパートナー企業と組んで、ソリューションパッケージにして提供していく必要があります。HPEのインフラ上でさまざまなテクノロジーパートナーと組んで価値を提供していく、“共創”という考えが本当に大事だと思っています。
 

日本の発展に向けたHPEへの期待

田中:最後に落合さんに少々無茶ぶりをさせていただきたいのですが、日本のデジタル化の進展に向けて我々HPEにどのような役割を果たしてほしいと思われますか。

落合:クラウド一極ではない、選択できるソリューションの多様化に貢献していただきたいと思っています。やはりローカル環境でのDevOpsは迅速ですから。そうしたインフラが、製造業や農業、食品業などのさまざまな産業と直列につながりながら、より成長していけるような社会の実現にぜひ尽力していただければと期待しています。そしてそれが行政の分野にも入っていければ理想ですね。

 そういった世界観を実現するための教育もあってほしいなと思っています。やはり昨今の大きなボトルネックはエンジニアの数で、デベロッパーと比べるとエンジニアが明らかに足りていない。その点、オペレーションを含めエンジニアリングを得意とするパートナーを、HPEは全国にお持ちだと思います。

田中:ありがとうございます。我々は外資系の企業ではありますが、旧・横河ヒューレット・パッカード時代から60年にわたって日本国内でビジネスを展開しておりますので、非常に多くの日本のパートナーさんがいらっしゃいます。それも首都圏だけではなく、全国の地域に数多くいらっしゃいますから、ちょうど今年度からそうした地域の人材を強化するべく増員しつつあるところです。

 そこでの使命は、インフラの提供はもちろんのこと、その上でのDevOpsなども、地元の尖った技術を持つ企業や販売パートナー様と協働することで、結果としてそれぞれの地域の発展や振興に寄与できればと考えています。
 
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外部リンク

日本ヒューレット・パッカード=https://www.hpe.com/jp/ja/home.html