BU単位で業績向上を目指す
──うがった見方かもしれませんが、御社の売り上げを考えると、ソフト開発の工数をできるだけ増やしたほうがいい。つまり、生産革新をやっていては売り上げは下がってしまう。そんなマイナスのベクトルが発生しませんか。
古道 違います。NECグループがここ数年かけて取り組んできたのは、“グループ経営をどうしていくのか”という点なんですよ。もっと分かりやすく言えば、当社の所属するNECの「ITサービスビジネスユニット(ITサービスBU)」単位での損益管理をより徹底するということです。
平たくいえば、ITサービスBUで増益だったら、それでよし。これまでは、独立会社として、NECソフトでも増収増益を目指していました。株式を上場していたときは、なおさらです。しかし、今は違います。社員には、「グループが成り立たなければ、当社の存続もあり得ない」と説き、ITサービスBUの損益を第一に考えるようお願いしています。
──つまり、NECソフトがたとえ赤字になったとしても、ITサービスBU全体で増益だったらいいと。
古道 そうなります。従来は、NECから受ける仕事についても、価格交渉がありました。安値受注をすれば、赤字になりますし、もしも“NEC本体と待遇が違うのに、仕事はきつい”ということになれば、モチベーションも下がりますよね。しかし、これからは違います。そういう価格交渉は原則としてなくなり、NECソフト側からは原価をNEC本体に提示し、BU全体で損益を考えます。当社は、生産革新に取り組んできたソフトウェアエンジニアリングの力量を最大限に生かして原価を低減させる。BUとして競争力が高まり、利益を増やせばNECソフトの社員も、これと連動して評価される仕組みです。
──評価制度そのものが、今後、大きく変わっていくわけですね。
古道 評価とモチベーションは密接に関連しますので、当社は早くから財務中心の評価だけでなく、バランス・スコアカード(BSC)を用いた多彩な評価基準を設けてきました。業績面では、当社の昨年度(09年3月期)連結売上高は前年度比4%増の1409億円でしたが、今年度は減ることがほぼみえています。NECグループ全体では連結営業利益1000億円を目指しており、これを達成することが当社のミッション。目標を達成、あるいは上回ることに貢献すれば、先のBSCと併せて評価されます。
──そこまでしてグループ連携を推進する狙いはどこにあるのでしょう。
古道 競争に勝つためです。ライバルのメーカー系ソリューションプロバイダも同様の狙いがあるはず。NECグループは、連結子会社だけで三百数十社あって、いわば中小企業の集まりみたいなものでした。それぞれで勝手に損益を追求すると、経済が右肩上がりのときはまだしも、今のようにマーケットがシュリンクする時期は、共倒れになります。コスト競争にも勝てませんし、ましてやグローバルでの戦いにも負けてしまいます。
海外で稼ぐには、グループの個社がそれぞれ出て行っても、規模が小さすぎて話にならない。それよりもNECグループの力を結集して、大きな資本を投入したほうが有利です。M&Aもそうですし、これからのクラウド/SaaSへの展開も、設備投資にカネがかかります。このベクトルを合わせていくために、社員の意識を改革し、グループのガバナンスを改めて強化する必要があるのです。この点では、ライバル他社より一歩先んじていますし、進む方向は決して間違っていないと自負しています。
眼光紙背 ~取材を終えて~
「改革はもう待ったなし」と、古道義成社長は、気持ちを引き締める。独自の営業組織の解散や、ソフトの設計・開発中心の役割分担は、ややもすれば社員のモチベーション低下につながる。NECソフト初のプロパー社長として今年6月にトップに就いた古道氏は、「社員の士気向上」に腐心する。
市場環境は厳しく、大規模なシステムをスクラッチで開発するプロジェクトは年々減少する傾向がみられる。さらに、クラウド/SaaSなど新しいタイプのITサービスが台頭しており、ソフト開発を主体とするNECソフトは、「NECグループと一体になった総力戦」の道を選んだ。
社員の評価では、「グループ全体で収益をあげる」ことを最も重視し、かつ「グローバル市場での勝ち残り」を目指す。そのためにNECソフトは何をやるべきかを明確化し、NECを頂点とするビジネスユニット単位で勝負に出る。(寶)
プロフィール
古道 義成
(ふるみち よしなり)1951年、広島県生まれ。76年、静岡大学大学院工学研究科修了。同年、日本電気ソフトウェア(現NECソフト)入社。99年、ITソリューション事業部長。00年、サーバソリューション事業部長。01年、執行役員。06年、執行役員常務兼第一ソリューション事業本部長。08年、取締役執行役員常務。09年6月、代表取締役執行役員社長に就任。
会社紹介
NECソフトの2009年3月期の連結売上高は前年度比4%増の1409億円。大阪を拠点とするNECシステムテクノロジーと、東西2大ソフト開発子会社として事業を伸ばしてきた。独自営業にも力を入れてきたが、今年10月、大手企業向けや東名阪を除く中堅向けの営業はNEC本体、東名阪の中堅向け営業はNECネクサソリューションズに移管。これによりNECグループと一体化し、同社はソフトの開発・設計に専念する事業体制になった。