中国全土にCISAの事務所を
――CISAは、「ゴールデン・トライアングル」を実現するために、具体的にどのようなことに取り組んでおられますか。
劉 われわれは、今、日本のITベンダーが中国でビジネスチャンスを広げられるように、中国全土でCISAの事務所の立ち上げを進めているところです。第一弾として、福建省の南部に位置する廈門(アモイ)市に、今年前半にCISAの事務所を開設しました。これからは、北京や上海、深・、西安など、SYSCOMグループの拠点と連動して、全国7か所に事務所をつくっていこうと考えています。
――先ほどおっしゃったビジネスチャンスとは、どのようなものでしょうか。
劉 CISAが「ゴールデン・トライアングル」の実現に向けて推進しているモデルは、日本のITベンダーが、CISAを通じて台湾のITベンダーをうまく活用し、ソフトウェアの開発案件を、中国のベンダーにオフショア開発先として委託することが中核となっています。CISAの事務所は、中国のソフト開発ベンダーと太いパイプをつくり、中国で日本のITベンダーの仕事を探すための基点になります。日本のITベンダーは、CISAの事務所を仲介役として、ソフトウェア開発を中国の企業に委託することによって、開発コストを削減するのはもちろんのこと、品質の高い日本のIT製品を中国に知ってもらうことができます。
さらに、CISAが考えているモデルは、日本のITベンダーが、中国のITベンダーにオフショア開発を委託することだけではなく、中国の現地企業に向けて、サービス/サポートの提供を含めたビジネス展開ができるようになることを目指しています。日本のITベンダーが中国に進出した際に、オフショア開発を手がけた中国のITベンダーに、中国地場の企業への販売やサポートを行う部隊として動いてもらうということです。そこがポイントになります。
日本のITベンダーは、まず、台湾のITベンダーを活用して、オフショア開発のかたちで中国でビジネスの基盤をつくります。そして、次のステップとして、中国の企業を販売パートナーとして獲得し、中国各地のローカル市場を攻めます。この二つが、「ゴールデン・トライアングル」の実現を目指したCISAのモデルの柱となっています。
――廈門市以外のCISAの中国事務所は、いつ頃をめどに開設する予定ですか。
劉 今、計画を推進しているところです。なるべく早く事務所を開設したい。
――日本のITベンダーは、海外進出が遅れています。その理由は何だとお考えでしょうか。
劉 日本は、これまで国内のIT市場が長年にわたって右肩上がりで推移してきたので、そもそも本格的に海外に出る必要性はそれほど大きくなかったと思います。しかし今では、海外進出をしなければ、ビジネスが成長する見込みが薄いということで、状況は一変しています。一方、台湾のITベンダーは、中国経済の急成長に合わせて、高い製品力をもってビジネスのスピードを上げていかなくてはなりません。要するに、今後、中国で成功するためには、日本と台湾にとって、相互のパートナーシップが必要不可欠というわけです。向こう2~3年でCISAとして全力を挙げ、「ゴールデン・トライアングル」を固めて、日本と台湾のITベンダーのビジネスを確立していきたいと思っています。
・お気に入りのビジネスツール 台湾メーカーのギガバイト社が展開する「GSmart」ブランドのスマートフォン。二つの電話番号を設定することができるので、台湾と中国大陸のどちらでも簡単に使えて便利。中国をはじめ、海外出張が多い劉理事長にとって、なくてはならないアイテムだ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
CISAは、10月6日、東京・新宿のホテルで、日本と台湾のIT企業間のビジネス交流を深めることを目指した「日台ITソフトウェア企業交流商談会」を開催した。そのイベントの前日に劉理事長に単独インタビューに応じていただいた。劉理事長は、通訳を介して中国語で本紙の質問に答えたが、6日の交流商談会では、同氏は日本語で挨拶して、「共同でビジネスをすることに大きな商機がある。両国の交流を深め、日台のビジネスアライアンスを強化していきたい」と語った。決して流暢とはいえない日本語を使って来場者に熱いメッセージを伝えたことによって、日台のビジネス連携の実現に挑む本気度が伝わってきた。劉理事長はこのインタビューで、中国事務所を立ち上げるなど、CISAの具体的な方針を示している。日台アライアンスのメリットを日本のITベンダーに訴求し、多くのベンダーを参加させることが、連携を成功に導くポイントになるだろう。(独)
プロフィール
劉 瑞隆
(JAMES L. LIU)台湾国立交通大学大学院マネジメントサイエンスのMBAを取得。システムエンジニア・大学講師などを経て、台湾経済部工業局(日本の経済産業省産業局に相当)の新製品案件や金融情報サービス輸出案件の総責任者に就任する。現在、中華民国情報産業協会(CISA)の理事長を務める。同時に、大手SIerのSYSCOMグループの代表を務めている。
会社紹介
台湾の情報サービスやソフトウェア、インターネット関連といったIT産業の専門団体として、1983年に設立。台湾政府と密接な関係をもち、市場開拓や会員間の情報交換の促進、国際交流の拡大などを主な活動内容としている。会員はIT製品/サービスの開発と販売に従事する台湾企業をはじめ、外国企業とのビジネスを専門とする機構で構成される。