問われる提案力、プロセスを描いて課題解決
──2013年の取り組みのなかで、11月に発表された「ソフトウェア開発子会社の統合」に注目しています。NECソフトなど、国内のソフトウェア開発子会社7社を再編して、2014年4月1日付で新会社を設立するとうかがっています。遠藤社長が統合を決断される際の判断材料になったのは、何でしょうか。 遠藤 2010年に社長に就任してから、ソフトウェア開発子会社を何とかしなければ、という悩みをずっともっていました。これまでは、七つの会社はそれぞれの歴史があり、社員が自社に誇りをもっているということを考慮して、統合しない方向でやってきました。
しかし、ここにきて市場を取り巻く環境が激変しています。ソフトウェア事業の体制を一気に変えなければ、もう競争に勝つことができないと判断しました。そして、社会インフラの分野に力を注ぐことを決めた瞬間、ソフト子会社を一体化することに踏み切って、ここ数か月の間、水面下で統合の準備を進めてきました。
14年4月に立ち上げる新会社は、約1万2000人の従業員を抱える国内有数規模のシステム開発会社になります。このリソースを生かして、社会インフラの案件を獲得したいと考えています。
──社会インフラは確かに可能性の大きい分野ですが、すぐれた技術をもつだけでは、受注に結びつけるのが難しいと思います。つまり、技術と営業の部隊がうまく噛み合って、それぞれのお客様に合わせたソリューションを提案することが必要ということですが、御社はそうした提案力を備えておられるのでしょうか。 遠藤 ここ1年、当社が提案を行ってきたお客様の反応をみると、当社は「仕様書」をうまくつくることができないでいることが、受注に結びつけるうえでのネックになっていると捉えています。要するに、独自の技術はたくさんもっているけれど、お客様の課題を把握して、ソリューションを組み合わせるための材料を揃えて、解決に導くという仕様書で定めるプロセスに関しては、当社にはまだ弱い部分があるといわざるを得ません。
だからこそ、冒頭でお話ししたGSDを海外に置いて、セールスだけではなく、技術者を集めたラボを設置し、現地に密着するかたちで、仕様書をつくる力を育てる施策を講じてきました。これをフル活用して、ビジネスにつなげたいと考えています。
NECが最も力を入れるのはソフトウェア
──もう一つ、NECが2013年に業界の注目を集めたのは、7月に明らかにしたスマートフォン事業からの撤退です。業界では、NECは売却によってどんどん年商規模が小さくなるという批判的な意見がある一方、ITサービス事業者への変貌を徹底的に進めるという見方もできると思います。経営トップとして、スマートフォン事業からの撤退を決断されたときの心境を聞かせてください。 遠藤 ご存じのように、私はずっと、統合ソリューションの一部としてスマートフォンは絶対必要だと主張してきました。そんな私ですから、撤退することは、慎重に考えた末に、もはやその道しかないと判断して決めたことです。最終的に決断したのは、スマートフォン事業は利益を捻出することが苦しいだけではなく、グローバルビジネスではないという理由からです。これが決定的でした。
当社がグローバル展開を目指すソリューションで重要なポジションを占めるのは、ソフトウェアの部分です。端末は、自社で製造しなくても、高い品質の物を他社から手に入れることができます。そんなことから、スマートフォン事業は自前でもたないほうがソリューションの収益性が上がるとみることができる。そう考えると、撤退することは、ソフトウェアを強化する取り組みの延長線として、必要不可欠な判断だったと思います。
──政府が実施している経済支援策や、2020年の東京五輪の開催決定などによって、景気に明るい兆しが出てきています。遠藤社長は、国内の経済動向をどうみておられますか。 遠藤 日本経済が本当に活性化するかどうかに関していえば、ふわふわしていて判断しにくい部分もあるのですが、期待感はもっています。しかし、経済の動きが、まだ企業全体のビジネス改善に至っていないので、いきなり企業のIT投資が爆発的に増えるとは思っていません。だから、成長に沸くアジア市場を常に視野に入れて、グローバル規模で事業計画を考えるようにしています。
──最後に、新年の抱負をうかがいます。 遠藤 2013年は成長するための基盤をつくるトリガーの年だったので、2014年は、収穫の年にしたい。組織は築いたので、あとはセールス力をつけることです。お客様を深く理解して、新しいビジネスを創造していくという意味で「ビジネスクリエーション」を2014年のキーワードに掲げて、実績を上げることに全力を上げていきます。

‘スマートフォン事業は利益を捻出することが苦しいだけではなく、グローバルビジネスではない。だから、撤退の決断を下しました。’<“KEY PERSON”の愛用品>従来型携帯電話とタブレット端末 NECの遠藤信博社長がビジネスツールとして活用しているのは、従来型の携帯電話とタブレット端末。もちろん、自社製品だ。タブレット端末は上着の内ポケットにぴったり入る大きさで、具合がいいとか。
眼光紙背 ~取材を終えて~
遠藤信博社長は、方向感という言葉を頻繁に口にする。270社(2013年3月末現在)の子会社を傘下に抱え、10万人以上の従業員を抱えるNECグループのトップとして、事業の細かいことを把握することは不可能なので、全員が向かうべき方向を明確に示すことは、まさに遠藤社長の腕の見せどころだ。
現在掲げているのは、「社会インフラ」と「アジア」。IT業界のグローバルプレーヤーからは「海外ではNECをライバルとして意識していない」という声を聞くが、体制が整った14年を皮切りに、NECがグローバルで発揮する存在感は無視できなくなる可能性は十分にある。
グローバル事業の成功のカギを握るのは、現地密着の展開だ。東京の本社から首都を見下ろすだけでは、視野が狭くなる。社長をはじめ、経営幹部が積極的に各国に足を運び、現地の情勢を吸収する。そして、遠藤社長は統括するかたちで、方針を策定する。そんな「グローバル社長」としての動きが2014年には求められるだろう。(独)
プロフィール
遠藤 信博
遠藤 信博(えんどう のぶひろ)
1953年11月生まれ、60歳。1981年3月、東京工業大学大学院理工学研究科博士課程修了、工学博士。同年4月にNECに入社。2003年4月にモバイルワイヤレス事業部長、05年7月、モバイルネットワーク事業本部副事業本部長。06年4月、執行役員兼モバイルネットワーク事業本部長、09年4月に執行役員常務に就任。同年6月、取締役執行役員常務を経て、10年4月に代表取締役執行役員社長に就任、現在に至る。
会社紹介
1899年創立の大手コンピュータメーカー。正式社名は日本電気(にっぽんでんき)。2013年3月期の連結売上高は3兆716億円(前年度比1.1%増)。従業員数は10万2375人。東京・港区に本社を置く。13年4月に「2015中期経営計画」を発表し、社会インフラとアジアの事業に力を入れる方針を定めた。借入によって1300億円の資金を調達して、技術開発などに投資している。