“製販一体”が市場攻略のカギ
──もう少し詳しく教えていただけませんか。 徐 富士ゼロックスは、グローバルで販売する事務機の約9割を中国で生産しているので、これまでは中国向けでもグローバル対応が前提の製品をつくってきました。しかし、日本や欧米などの各国の仕様要求をすべて入れようとすると、最初はシンプルだったものが、「戦艦大和」みたいに大きくなってしまって、コストもものすごく高くなる。そこで「DocuCentre S2010/S1810」は、グローバル展開を視野に入れながらも中国のニーズを把握することを追求した“グローカル”の方針で開発しました。中国のお客様の要求を入れて、必要ではない機能は外してあります。
また、販売量を増やすために、代理店さんのニーズも組み込んであります。中国の代理店は、日本と違って、一社がいろんなブランドを担いでいますからね。量を売ってもらえるように、代理店さんの要望を取り入れることは欠かせません。例えば、修理です。これまでのグローバルな考え方ですと、故障した際に修理にかける人件費が高いので、事務機を細かく分解して清掃するのではなく、故障したユニットを丸ごと入れ替えるという発想でした。ところが中国の場合は、まだ人件費が安いので、故障していない部品まで変えなくてはならないユニット交換は、代理店さんからの受けがあまりよくありません。そこで、分解してメンテナンスができる仕様に変えています。
さらには、販路も製品を出す以前から、着々と整備してきました。昔は300社ほどあった一次代理店を、規模が大きい200社前後に絞っています。
個人的には、中国は一つの大きな実験場だと思っています。中国でしっかり売れる製品をつくったら、ニーズや市場の動きが似ている新興国市場のインドやロシア、南米などでも、必ず売れるとにらんでいます。だから、“グローバル”から“グローカル”に、中国をベースとしたコンセプトに変えたのです。
──“グローカル”の実現は、中国事業の組織体制にも影響を与えましたか。 徐 はい。“製販一体”とでもいいましょうか。今までは、同じ中国でも、企画・開発・調達・生産・販売の各部門で、レポートラインが違っていました。生産部門は開発部門が何をしているのか、開発部門は販売部門が何をしているのかを把握できていなかったんですね。それを、“製販一体”というかたちで、組織も変えて一つにまとめました。すべての部門が集合するマネジメント会議を設けて、中国国内の事案に関しては、すべてこのなかで意思決定をして、迅速に行動することを徹底しています。今では各部門がさみだれ式に動いていて、企画の段階から、開発を始めて、生産ラインを準備し、販売はチャネルの整備を進めています。これによって、従来の半分くらいのサイクルで製品を投入できるようになったのです。
カラー機の市場は自分が創出する
──今年5月末に発売したA3カラー複合機も、“製販一体”による製品でしょうか。 徐 そう、それがローエンド向けの新製品「Docu Centre SC2020」です。従来の27万円台のA3カラー複合機市場ではなく、カラー機を普及させるために、もう一段低い価格帯(17万円台)で、すそ野が広いマーケットに投入しました。
中国は、カラー化がすごく遅れています。海外では販売量の約7割をカラー機が占めますが、中国は10%程度です。ただ、どこの国も最初はそんなもので、ある時期に、ぐーっとカラー機の市場が伸びるんですね。中国では、その時期がもうすぐ来ると思っていますし、それはこちらから仕掛けないとできない。新製品で、まさにカラー機の市場をこじ開けようとしているところです。
──中国では、カラーとソリューションを重点戦略としているメーカーが多いと感じています。 徐 確かに、日系の事務機メーカーさんのなかには、カラーとソリューションを基本戦略にしている企業がいくつかありますね。とくにカラーに関しては、皆さんが力を入れています。ただ、特別な事務機としてカラー機を販売するのではなく、“カラーケイパブル”、すなわち広く一般のオフィスに、モノクロと同じようにカラー機を販売することが大事です。カラー機の価格は高いが、モノクロ機は安い。価格設定を近づけたり、セールス担当に対しては、繊維やデザイン関係など、業種・業態ごとに、カラーのニーズを徹底的に勉強させることが必要です。
ソリューションについても、中国では、日本で10年かかったことが2~3年で進んでしまうことがざらにあるので、今から手を打っておく必要があります。もたもたして、ソリューションなんて中国で売れるわけがないとあぐらをかいていると、乗り遅れてしまうでしょう。
──今後の目標を教えてください。 徐 中国でのA3複合機のマーケットシェアは、15%まで伸ばしてきました。実は、トップシェアのグループが、だいたい15%前後で推移していましてね。今年の目標は、シェア18%を獲得して、頭一つ抜けたトップベンダーになることです。
売上高では、本社会計の15年度(16年3月期)に中国と香港を合わせて1000億円にしたいですね。

‘中国でしっかり売れる製品をつくったら、新興国市場のインドやロシア、南米などでも必ず売れるとにらんでいます。’<“KEY PERSON”の愛用品>いいものを長く使う 「私は物もちがいいんです」と語る徐氏。写真の腕時計は、富士ゼロックスに入社したときに、父親から譲り受けたもので、約40年も使い続けているのだとか。横の眼鏡も10年選手だ。氏曰く、「いいものは壊れない」。
眼光紙背 ~取材を終えて~
日系メーカーが活躍する中国事務機市場だが、実際には障害も少なくない。最たるものが、消耗品ビジネスである。中国では、インクやカートリッジなどの消耗品は、サードパーティ製の安価製品や偽造品が数多く流通しており、日本のようにストックビジネスが手がけにくい。とくにローエンド層では、品質が劣っても安いほうがいいと考えるユーザーが多く、ビジネス拡大の足かせとなっている。
富士ゼロックスは、ハイエンド市場への直販で中国ビジネスの礎を築いた。ハイエンド機は、代替可能な消耗品が限られ、ユーザーも高い品質を求めるので、ストックビジネスを展開しやすい。「直販による利益の50%程度が消耗品などの保守サービス」(徐氏)と、安定収益があるからこそ、ローエンド市場に対する積極投資が可能となる。この意味で富士ゼロックスは、薄利多売なローエンド市場に軸足を置く事務機メーカーよりも、安定経営を実現しやすいといえる。(道)
プロフィール
徐 正剛
徐 正剛(じょ まさたか)
78年4月に富士ゼロックスに入社。96年から海外拠点の要職を歴任し、01年には中国事業に立ち上げから参画。現在は、中国事業総代表を務める。06年7月に本社執行役員、11年7月に常務執行役員となり、今年6月25日付で取締役常務執行役員に昇格した。
会社紹介
富士ゼロックスは、2000年に米ゼロックスから中国でのコピー機/プリンタ、複合機の営業権を買い取り、販売事業を開始した。直販を武器にハイエンド層の顧客を獲得し、現在、中国のハイエンド複合機市場ではトップシェアを誇る(富士ゼロックス調べ)。開発・調達・生産・販売を手がけるグループ会社を中国に約10社保有しており、総人員数は約1万4000人に達している。