「あなたのそばに」で安心を提供
──これまで扱っていなかった製品の調達はどうするのですか。 中江 神奈川県川崎市に在庫を保管しておくセンターがあるのですが、そのセンターに、日本に進出するメーカーの製品や部品をストックしておくことがあります。必要なときに必要な場所へと運んでいるのですが、そこに集められる製品や部品を当社が商材として取り扱うこともできるのではないかと考えています。
──IT機器以外に、オフィス全般をサポートするというのは、確かに大きな方向転換ですね。 中江 私は、今年3月までNECでデータセンターとクラウドサービス関連を担当していました。その業務で不便だと感じたのが、データセンターを構えるとIT機器に限らず、さまざまなハードウェアを導入しますが、サポート体制がバラバラだということです。ちなみに、当社はITシステムの保守に加えて電源や空調も担当していたのですが、サポート体制の窓口が多くあると、データセンターの管理者は、トラブルが生じた際、そのつど、担当業者に連絡しなければなりません。業者を一本化すれば、管理する側にとっては楽で安心ですよね。「オフィス丸ごとプランニング」は、そのような考えから、メニュー化することを進めています。
また、クラウドサービスによって、お客様がサーバーを購入しない傾向が出てきました。クラウドサービスを利用する企業が増えているということですが、これはITシステムの保守が減ること、つまり当社のビジネスを大きく左右することになります。ただ、クラウドサービスを導入したからといって、オフィス内にハードウェアがなくなるというわけではありません。だから、IT機器を含めて何でもサポートしていく必要があるという結論に達しました。
キャッチフレーズを挙げるとすれば、「あなたのそばにNECフィールディング」ですかね。ITサポート会社は、IT機器の保守がメインですが、もとをただせば、お客さんに安心してもらうために行うわけです。ですので、何でもサポートするのは原点に戻るということでもあるのです。
コミュニケーション力の高いCEを望む
──ITサポート会社ですが、CEの技術力がものをいう状況ではなくなってきているということですね。 中江 理容室や美容室というのは、あまり店を変えず、いつもお気に入りのスタイリストに髪を切ってもらう顧客が多いですよね。リピーターが多く、スタイリストを指名する傾向があるといわれているのですが、それはなぜか。一番安心だからです。一方、初めて来店したお客様は、不安のほうが大きい。にもかかわらず、ヘアカットの技術が高くても愛想がよくないスタイリストに当たれば、二度と店に来ないでしょう。お客様は、髪を切ってもらうだけでなく、ヘアスタイルのセットアップなどについてのアドバイスを聞いたり、スタイリストとの会話を楽しんだり、そのために来店しているからです。
技術力とコミュニケーション力が大切なのはCEにもいえることで、技術に長けているから、顧客がついてくるわけではない。CEに求められるのは、技術力を生かして、いかにお客様の望むことを聞き出してアドバイスできるかということです。「あいつじゃなきゃダメ」と思わせることが大事です。
──今のCEは技術に頼りがちになっている、と。 中江 技術力というのは、サービスの時代といわれているなかで、むしろコモディティ化している。ハードウェアが減っている状況では、技術力だけでは勝てない。これを変えなければ、人員削減などでコストを減らさなければ生き残れません。
──IT機器以外のサポートも行うというのは現状の人員を維持することでもあるのですか。 中江 先ほども申し上げましたが、およそ6000人の会社のトップに就いた以上、飯を食わせていくための舵取りをしなくてはならない。もちろん、今の社員を維持し、むしろ増やしていきます。さらに、拠点も増やしていきます。具体的な計画は現段階ではありませんが、「オフィス丸ごとプランニング」が軌道に乗れば、当社は確実に成長すると確信しています。
──今年度(2015年3月期)第1四半期の業績は、いかがでしたか。 中江 昨年度と比べると、市況の厳しさに変わりはありませんが、コスト削減によって黒字になりました。ペーパーレス化や出張費、人材の再配置など、細かい間接費の削減で黒字化を果たしました。ただ、売り上げは伸びていない。通期は、利益は確実に伸びますが、売り上げに関しては下がると見込んでいます。ただ、来年度は既存のビジネスに、これまで申し上げてきたビジネスが乗っかりますので、必ず増収増益を果たします。
──売り上げの減少は上場廃止が関係しているということはありませんか。 中江 ありません。実は、NECグループでは、サービスデリバリ体制を当社に集約するという動きを進めています。ほかのNEC子会社でも再編などが進んでいますので、その意味では当社が完全子会社になったメリットは大きかったと考えています。

‘技術に長けているから顧客がついてくるわけではない。カスタマエンジニアに求められるのは、技術力を生かして、いかにお客様の望むことを聞き出してアドバイスできるかということです。’<“KEY PERSON”の愛用品>「最もタフな時計」に惚れた 鉄道員が、丈夫で信頼性の高い時計として使っていたBALL(ボール)の腕時計。「世界で『最もタフ』とのキャッチコピーに惹かれ、ずっと気になっていた」。NECフィールディング社長への就任を機に購入した。
眼光紙背 ~取材を終えて~
これまでNECフィールディングの社長は、技術畑の出身者が多かった。サポートには高品質が求められるので、トップから現場まで高い技術力をもった人材が適しているということだろう。
そんな同社にあって、中江社長は営業畑の出身だ。「技術力の高さはもちろん必要だが、その技術力を生かして、お客様が望むことを満たさなければならない」。さらにいえば、「ITの技術はますます進化し、最新技術がいつの間にかコモディティ化してしまう」とも。CEには、現在の技術力に慢心せず、さらに技術力を磨きながら、顧客と接してほしいとの想いが強い。
社長に就任した際、CEが作業時に着る緑色のジャンパーを手配した。「現場を回るときは、必ず着ていく」。就任からまだ3か月弱ということで、取引先などへの訪問が多く、その上着に袖を通す機会はない。「社員一人ひとりと話をしたい」。取引先への挨拶回りが一通り終わった頃には、中江社長の緑色のジャンパー姿をひんぱんに見かけることになるだろう。(郁)
プロフィール
中江 靖之
中江靖之(なかえ やすゆき)
1958年1月12日生まれ、神奈川県出身。81年3月、東京理科大学理工学部情報科学科卒業後、同年4月、NECに入社。2008年4月、流通・サービスソリューション事業本部長、10年4月、執行役員兼流通・サービス業ソリューション事業本部長。同年6月、NECフィールディングの社外取締役に就任。12年4月、NECの執行役員を経て、14年4月、NECフィールディングの取締役執行役員常務に就任。同年6月、代表取締役 執行役員社長に就任。
会社紹介
2014年7月25日、上場を廃止した。NECグループとの連携を強化しており、グループ内のサービスデリバリ体制をNECフィールディングに集約。同社がNECグループの保守・運用サービスをすべて担当することになる。今年度(2015年3月期)業績は減収増益計画だが、来年度は増収増益を見込む。